はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

6月5日

2010-05-29 22:38:54 | はがき随筆
 65年目の6月5日が巡ってきた。決して忘れる事の出来ないこの日の早朝は、神戸の街が2度目の大空襲で、壊滅的な被害を蒙った日なのである。空襲警報のサイレンが鳴り終わったかと思う間もなく、上空から無数の焼夷弾が雨霰の如く落下した。国道の舗装路には、あたかも杭を打ったかの如く、辺り一面に突き刺さり、家屋に命中した数力所からは、火災が発生し煙が立ちこめてきた。身に危険を感じたので、すぐさま防空壕へと走った。時間そこそこの間に、町内の家屋は全焼し、その日以来親しんできた人々とも散り散りばらばらとなってしまった。
  霧島市 有尾茂美(81) 2010/5/29 毎日新聞鹿児島版掲載

牡丹と焼酎

2010-05-29 17:55:05 | はがき随筆
 「オーイ! 咲いたぞ!」の夫の声に、急いでかけつけた。赤と白の2株の牡丹がやっと咲いたのだ。絹のようなしなやかな花びらを重ねきらきらしている。思わずにっこり。やさしい香りとともに底の主役になった。
 たくさんの牡丹を見たくて出水まで行ったが一足遅かった。記念にと蕾が二つある鉢を抱えて歩き始めた。「高いぞ」の声。「父さんの焼酎代と思えば…」と私。我が家に嫁いだ牡丹はピンクの豪華な花を見せてくれた。調子に乗り近くのお店からお婿さんを連れて来たと黄色の牡丹を横に置いた。気付いた夫は「焼酎代は大丈夫かよ!」と。
  薩摩川内市 田中由利子(68) 2010/5/29 毎日新聞鹿児島版掲載