2003年の県議選を巡る選挙違反事件(志布志事件)で、無罪が確定した住民が警察や検察に損害賠償を求めた訴訟の判決が先週、鹿児島地裁であった。結果は紙面でお伝えしたように、県や国に賠償を命じる内容だった。法を守らせる警察や検察の仕事が「違法」とされたのだからただ事ではない。私は事件当時、福岡県内で勤務していて詳細は知らなかったが、判決を読むと改めて捜査は問題だらけだったと言わざるを得ない。
住民が医療機関で点滴を受けてから取り調べに応じ、体調不良を訴えても帰宅を認めない“任意捜査”。捜査会議を開かず捜査官の情報交換を禁じ、誤った見立てのまま、あり得ない自白を強いた。弁護士との接見内容について取調官の誘導に沿って70通以上の供述調書をつくり、そこで弁護方針への拒絶感を植え付けた。取り調べの中で住民に著しい屈辱を与えて人格を傷つけ、自由な意志決定を阻害した。
判決はこうした捜査の状況をつぶさに示し「警察官の個人差を考慮にいれてもとうてい合理性を肯定できない」「社会通念上許されず、違法」などと言っている。
警察だけでなく、検察の対応についても違法だったと判決は認めた。すべての証拠を勘案してもとうてい有罪判決を期待できないのに、漫然と裁判を続けた。「公益の代表者」「法の正当な適用」という検察官の仕事に違反したというのが裁判所の判断だ。
判決後の記者会見で、住民からは捜査官の謝罪を求める声が相次いだ。違法な捜査で苦しめられた以上「おわびせよ」と住民が求めるのは当然のことだろう。
それにしても、こんなひどい捜査がなぜまかり通ったのか。担当捜査官の暴走を誰も止めることはできなかったのか。県警への信頼をどうやって回復するのか。いまさらながら判決が与えた課題は重いと思う。
鹿児島支局長 西貴晴 2015/5/18 毎日新聞鹿児島版掲載