はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ビルグムイの浜

2015-05-26 23:20:35 | はがき随筆
 現地の人でも、その名前と場所を知っている人は少ない。
 道路わきに茂っているアダンの木をくぐり、ごつごつした岩場を下ると、その秘密の浜辺はあった。リーフの先には群青色の海が広がっている。引き潮でないと現れない浜辺。山に囲まれて育った私たちは、いっぺんで魅せられた。
 貝取り、貝殻拾い、ガスボンベ持参のイセエビのみそ汁の味。そうそう、瑕ひとつない大きな浮玉も見つけたなあ。
 20年前に初めて出合ったこの浜辺のある沖永良部島に、やっと行くことになった。
 亡き夫との思いでの島に。
  伊佐市 山室浩子 2015/5/26 毎日新聞鹿児島版掲載

韓国岳登山再開

2015-05-26 23:04:21 | はがき随筆


 えびの高原(硫黄山)の火口周辺警報の引き下げで、韓国岳登山道の規制が解除された。
 半年ぶりの解除を知り、帰省した娘夫婦と早速登山をした。慣れ親しんでいた登山道は妙に懐かしかった。山の木々は鮮やかな新芽を吹き、ウグイスの鳴き声が騒音のない静けさの仲に響き渡っていた。
 県外出身の婿殿は初めての登山だった。頂上では身をすくめながら火口をのぞき、ガスによる突然の景色の変化に驚きながらも大自然を満喫したようだ。
 ミヤマキリシマも蕾を膨らませている。花咲く頃には妻にも楽しんでもらおう。
 加治木町 中馬和美 2015/5/25 毎日新聞鹿児島版掲載
 

免許状のありがたさ

2015-05-26 22:56:53 | はがき随筆
 満68歳時、小学校教諭免許状を取得した。その後、免許状が生かされ、算数TT・初任者研修指導教員の職務に就く。思いもかけぬありがたき出合いで、小学校教育課程も研修できた。
 満74歳時、学習ボランティアと合わせて小学校非常勤講師(年間11日勤務)として、今年3月まで勤務できた。この3年間も同僚のアドバイスを受け中味の濃いものを味わえた。
 4月から本格的に無職の生活かと思っていたら、非常勤講師として採用する電話を受く。小学校教諭免許状のありがたさをつくづく感じる。免許状無しでは今も無職、無職であった。
  鹿児島市 岩田昭治 2015/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載

雑草のひとり言

2015-05-26 22:39:02 | はがき随筆


 ああ、あたたかくなってきた。ようし芽を出すぞ。道ばたで、あき地で、畑で、あちこちで芽を出す。人間には、雑草と呼ばれている。
 時には道行く人が、その花をながめ、きれいだねえと言う。そんなときは、いえいえそれほどでもと、少しうれしい。
 時には、わあ草だらけと、いみ嫌われて、引っこ抜かれる。そんなときは、ようし負けないぞと思う。
 そうしてまた、あたたかくなると、芽を出す。踏まれても踏まれても立ち上がる。強くてたくましい。ぼくは、雑草。人間と共に生きていく。
  出水市 山岡淳子 2015/5/22 毎日新聞鹿児島版掲載

歴史の時効

2015-05-26 22:30:54 | はがき随筆
 街づくり研究会が、二十数年前に熊本市で開かれた。講演やフィールドワークの概要を、翌朝、速報にして発行。原稿の最終チェックを担当した。
 町並み保存会の活動を伝える原稿が上がってきた。時代を具体的に書こうと、保存会の事務局に追加取材の電話をした。
 「家並みは江戸期のいつごろのものですか」の問いに「なんば言うか。城下町はサツゾクに火ば付けられ残っとらん」。「サツゾク?」「日付け盗賊の薩賊たい」。120年も前の蛮行を、隣県人ですらいまだに許さないことを知った。歴史の汚点に時効はなかなかこない。
  鹿児島市 高橋誠 2015/5/21 毎日新聞鹿児島版掲載

谷間の白百合

2015-05-26 22:19:11 | はがき随筆

 子供の頃、母と知り合いの家を訪ねた帰り、杉木立の谷間に白百合があちこち咲いていた。美しい景色を眺めながら、谷間に咲く白百合が不思議に思え、それは脳裏に残った。
 3年前、庭の隅に百合を見つけ、様子を見ているうちに白い百合が咲いた。図鑑で見るとタカサゴユリのようだ。そのままにしていると晩秋には実が弾けそうになった。殻を開くと薄茶色の薄い種が舞うように落ちた。百合は球根で花が咲くと思っていたが、庭の百合はどこからか種が風に乗って芽生えたのだ。谷間の白百合の不思議が解けた。
  出水市 年神貞子 2015/5/20 毎日新聞鹿児島版掲載