はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

実りの秋を待つ

2010-07-21 23:02:35 | はがき随筆
 およそ半年間、眠りについていた出水平野は、ツルが帰ってしばらくまどろんでいたが、田起こしなどが始まり、やっと目覚めた。機械の音でシラサギなど鳥類も集まって来た。時が来て水が乾いた田んぼに染みわたる。
 今年は梅雨入りが遅く、水が不足しがちだったので、入り込むのに時間がかかる。出足の遅かった田植えも1週間も経たないうちに、青田に変わった。
 これが3ヶ月あまりで黄金の波となる。台風もなく秋には大豊作となることを切に祈っている。 
  出水市 田頭行堂(78) 2010/7/21 毎日新聞鹿児島版掲載

ガタゴト走れ

2010-07-21 22:43:25 | 女の気持ち/男の気持ち
 鹿児島中央駅のホームにオレンジ色の1両だけの列車が入ってきた。思わず「可愛い!」顔がゆるんでしまった。車体には愛らしいオレンジの絵も。
 青空が広がる初夏の土曜日。私は阿久根市に住む友人に会うため、初めて「肥薩おれんじ鉄道」の列車に乗り込んだ。
 忘れかけていたガッタンゴットンという音を響かせ、体を小さく揺らしながら、列車は北へと走っていく。私は窓の外に目をやり、流れていく風景を眺めていた。すると「ピーッ」と列車が汽笛を鳴らした。「あっ、これこれ」と、また忘れかけていた懐かしい音に心が弾んできた。私の後ろの席には、この列車に乗るためにプチ旅行しているらしい5歳くらいの男の子とお父さんが座っていた。
 しばらくすると2人は一番前の運転士さんの横に立ち、前をじっと眺めていた。男の子は運転士になった気分なのだろうか。その姿は微笑ましく、私を幸せな気分にさせてくれた。列車が川内を過ぎると、やがて目の前にきれいな海が広がってくる。窓から手を伸ばせば届きそうな青い海。透き通った海の水。期待していた通りの風景が流れていく。すっかり旅人の気分に浸った私を乗せて、ガッタンゴットンと列車は走る。
 もうすぐ阿久根駅に着く。久しぶりに友人に会える喜びと、このままずうっとこの列車に乗っていたい気持ちが、列車の音と一緒にガタゴト揺れていた。
  鹿児島県中種子町 西田光子(52) 2010/7/20 毎日新聞の気持ち欄掲載
写真はフォトライブラリーより

人生の一こま

2010-07-21 21:48:18 | はがき随筆
 セーラー服で錨のマークの付いた白鉢巻き姿の学徒動員の仲良し3人組の写真に別れを告げた。クラスで一番小さくてひ弱な私だけが総務課勤務で友人たちは油まみれの旋盤で船舶の部品の製作のため離れてしまった。寂しい。
 命令通り動くロボットのようだった。極秘電報の入った赤枠のファイルを開く事も他言も禁止。日に日に戦局不利で多くの戦艦の修理不能を感じた。それでも戦意高揚の標語を作った。
 空襲・原爆・終戦・食糧不足さまざまな出来事が続き、夫を失い病魔に──人生の一こまが流れる。
  薩摩川内市 上野昭子(81) 2010/7/20 毎日新聞鹿児島版掲載

棚田を守る労苦を学ぶ

2010-07-21 18:51:50 | 岩国エッセイサロンより
2010年7月21日 (水)
     岩国市  会 員    片山 清勝

 棚田の大敵は「モグラ」と聞いていた。モグラは地中にトンネルを掘り、ミミズや昆虫の幼虫などを食べる。このトンネルは、棚田の水抜けの原因となり、被害は稲作の命取りという。

 訪ねた農家で棚田を見下ろしながら、モグラのことを聞いた。「これがモグラ捕獲機」と納屋からブリキで作った円すい状の2本の筒を持ち出された。

 使い方は、細い方を向かい合わせモグラの通り道に埋める。この人工トンネルに入ったモグラは先細りで進めなくなる。入る側には逆支弁があり、1度入ったら絶対に後ろへはさがれない作りにしてある。

 毎日欠かせない田の水の見回り時に、モグラトンネルで隆起した場所を見つけ、そこへ仕掛ける。「仕掛ける向きと深さは経験」と見えないモグラとの攻防を教わった。

 狭い棚田でする作業のいろいろを聞きながら、伝来の棚田を守るには、ひとときの油断も許されないことを実感した。

 これまで棚田の美しさをただ称賛していたが、その裏にある労苦を少し知り、目の前の苗の緑が濃く見え始めた。

    (2010.07.21 中国新聞「広場」掲載) 岩国エッセイサロンより転載

心の持ちよう

2010-07-21 18:30:18 | ペン&ぺん
 「何ごとも心の持ちようさ」。盲目の米国人ギタリスト、ラウル・ミドンが、そう歌っている。
   ◇
11日の参院選投票日。鹿児島大の学生さん12人に投票所での出口調査のアルバイトをお願いした。投票所の門あたりで、投票してきた人に「出口調査に、ご協力を」とお願いし、投票先などを無記名で答えてもらう。
何人かの学生さんは前日の土曜日、調査用紙やクリップボード、腕章や調査証などの七つ道具を鹿児島支局に取りに来た。翌日の天気予報は、雨。「傘を差しながらでは、答えてもらう有権者も、バイトのキミもつらいかな」。ある女子学生に、そう問いかけた。彼女の答えは、ふるっていた。「日焼けを気にしないで済むから、かえってラッキーです」
確かに。ぬれた髪はドライヤーで乾かせるが、日焼けやシミは消しゴムでは消せない。雨雲も、心の持ちようです。
   ◇
「清き1票を」と候補者は言う。しかし、実際に有権者が投じる票は2票。選挙区と比例代表。学生さんたちが支局に持ち帰った調査用紙を読み上げつつ、パソコンで集計した。その作業中、比例で、みんなの党に入れたとの回答が余りに多いことに気づいた。
しかも、選挙区で自民の候補に投票した人も、民主の候補に入れた人も、それぞれ一部は比例で、みんなの党に流れている。中には、にわかに信じられないのだが、選挙区は共産の候補、比例はみんなの党という回答もあった。
相反する政策を掲げる政党に、それぞれ選挙区と比例で別の1票を投じる。有権者は、自分の心の中でバランスを保とうとしているのか。「かたよりたくない」。そう言い聞かせながら。
   ◇
「ステイト・オブ・マインド」。直訳すれば、心の状態。ラウル・ミドンの曲の原題である。
鹿児島支局長 馬原浩 2010/7/20毎日新聞掲載

高千穂峰初登頂

2010-07-21 18:04:37 | はがき随筆
 古希同窓会3日目は、高千穂峰に挑戦。男性6名、女性9名。快晴で河原から登山入り口の当たりは、ミヤマキリシマの花でピンクに染まっていた。
 登り初めてしばらくすると岩ばかりの急斜面になった。用心深く足を運ぶ。御鉢が右手に見える。覗くと深い底から硫黄の匂いが風に吹き上げられて来る。そして、美しい赤色の砂の道「馬の背」。左手には大きくえぐられた崖に赤と黒の太縞の地層が見える。風が強く吹き飛ばされそうだ。
 あとひと踏ん張り。家から遙かに眺めるだけだった山頂に2時間20分で着いた。
  霧島市 秋峰いくよ(70) 2010/7/19 毎日新聞鹿児島版掲載

娘へ

2010-07-21 17:58:21 | はがき随筆
 2人の子供の世話をしながら単身の夫を気遣い、なき両親の命日を墓参する普通のお母さんになった娘。7月14日が誕生日です。おめでとう。
 あなたが生まれた年も梅雨が明けず、私とあなたの世話をしてくれた小さな母のことを思い出します。付き添いには給食などなく自炊していたし、洗濯機はなく、おむつ、肌着、私の着物を手洗いしてくれるので、すまない思いでいっぱいでした。
 その時、あなたは、そのおばあちゃんに優しく接してくれました。ほんとにありがとう。健康に気をつけて。
  鹿児島市 東郷久子(75) 2010/7/18 毎日新聞鹿児島版掲載

ハマボウ

2010-07-21 17:43:52 | はがき随筆
 多くの花を育てているが、今まで、もったいないことをしていた。育てた花の開花を見ないことが多かったのである。
 今日咲くとわかっていても、仕事とか出張で帰ってみると花は終わっていることが多い。
 3年前に、苗をもらって鉢植えにしていたハマボウが咲き始めた。ハマボウは、透き通った黄色の花が美しい。朝、咲き始めて、夕方は終わっている。1日だけの花である。
 仕事をリタイアして、一日中、家にいることが多くなった。今日は、ハマボウが咲きそうである。ゆっくり楽しもうと思う。
  出水市 御領 満(62) 2010/7/17 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はフォトライブラリより

走るアジサイ

2010-07-21 17:36:13 | はがき随筆
 いつになく遅い梅雨入りの後は災害が心配される大雨続きで憂鬱のバロメーターは急上昇。それでも田植えには欠かせないし、水道水の元だと考えれば恨めしいとの思いは、しぼみ始める。第2子が小学校に入学した今年、自室の窓から学校に向かって「今日もよろしく」と頭をさげながら、通学する我が子を見守るのが日課だ。ある雨の朝、通学路に紫陽花が見えた。赤、青、白や黄などカラフルな花冠だ。と思った瞬間、その花は学校に向けてスピードを上げながら走り出すではないか。紫陽花に見えたのは児童たちの雨傘だった。
  垂水市 川畑千歳(52) 2010/7/16 毎日新聞鹿児島版掲載

野中のバラ

2010-07-21 16:48:31 | はがき随筆
 旧制中学3年の時、勤労学徒動員令が発令された。鉛筆やペンを握っていた手が、造船所で進水式を終えたばかりのタンカーの甲板張りをすることとなった。慣れない手つきで油にまみれたハンマーその他の工具を使用する。姫路市の高校生も我々のグループに交じって作業をしている間に、すっかり馴染みの仲となった。彼らは昼食後、決まってドイツ語で「野中のバラ」を唄っていた。聞くともなしに耳にしていたら、いつしか自分でも唄えるようになった。
 あれから70年以上経過したが、私が唯一ドイツ語で唄える「野中のバラ」である。
  霧島市 有尾茂美(81) 2010/7/15 毎日新聞鹿児島版掲載

御田植祭

2010-07-14 17:59:19 | はがき随筆
 霧島神宮の御田植祭があると聞き、見聞を広めようと妻と出掛けた。立札には「狭名田地区の水田は日本最古のもの」と記され、弥生時代、この山あいの一画から全国に稲作が広まったのだと知った。
 青空の下、雅楽の調べが流れる中、たっぷり水を張られた田に早苗が飛び交う。早乙女に扮した80代と思しき男性を真ん中に20人ほどの男女が一列に手植えしていく。ツバメが低く飛び、畦道を知ろうとカメラマンが忙しく行き来する。「声出して!」。にぎやかにやれと外野から声が飛ぶ。薫風の中、心和む光景を心ゆくまで楽しんだ。
   霧島町 久野茂樹(60) 2010/7/14 毎日新聞鹿児島版掲載

はじける若さを

2010-07-14 17:25:47 | はがき随筆
 今日もまたリハビリの老若男女。「おはようございます」。明るい大きな声。腰、膝、肩などそれぞれの痛みをかかえながら朗らかな笑顔。
 五体満足な体も長年の間、故障がち。静かな雰囲気の中で勇気づける若い看護師たち。
 患者と向き合い力づける様は頼もしい。自己の持ち場、責任、的確にやさしく進めていく。はじける若さ、みなぎる若さ、そしてほほえみを忘れない。
 職場いっぱいに満ちあふれ患者に安心感を与える。患者の満足げに歩く後ろ姿は明日への希望に満ちあふれている。「さようなら」のことばを残して。
  薩摩川内市 新開譲(84)2010/7/13 毎日新聞鹿児島版掲載

孫の結婚と妻

2010-07-14 17:16:40 | はがき随筆
 乳呑みのときから妻と育った孫の結婚式。その盛典に手助けの主役を務める立場の、いま老人ホーム入所中の妻。話しても反応の無い妻に憐憫の情ひとしおの私は正装の妻の写真を抱いて同席した。「婆も来ているよ」と写真を見せ「明代(孫)おめでとう。輝いているよ」と肩を抱いて祝ってやると、涙の頬を伝わる孫に愛しさをおぼゆる一ときであった。同時に妻の居るホームの現在を連想した私。不覚にも目頭の熱くなった。「生涯寝食を共にし苦楽を共有するのは親でもない子でもない。それはお前たち夫婦である」。巣立ちに贈る言葉としたい。
  鹿屋市 森園愛吉(89) 2010/7/10 毎日新聞鹿児島版掲載

まな板の音

2010-07-11 20:55:40 | はがき随筆
 妻が留守で一人暮らしが始まる。しばしの自由を楽しむか。 
 妻の気遣いが冷蔵庫にいっぱい。牛乳、ヨーグルト、納豆、漬物、握り飯二十数個など。テープルにも数種類のカップめん、バナナ、パン数種類など。朝はパン、牛乳、バナナ、ヨーグルト。昼はカップめんと握り飯。夜はビールにチーズ。3日目には、早くもダウン。勘違いした我が非を悔いるのみ。
 夫の危機、察してか早めの5日目に戻りし妻の菩薩に見ゆ。
 翌朝、寝床で朝餉の軽快なまな板の音を聞きつつ、これで生き永らえると、ほくそ笑んだ。
   肝付町 吉井三男(68) 2010/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

「清水昌子」

2010-07-11 20:49:52 | はがき随筆
 日曜の新聞は楽しみが多い。俳句をかじる身として、俳壇欄はもちろん歌壇欄も丹念に目を通す。見知った名を見つけるのも楽しい。時には自分でも投句するが、ほとんどはボツ。
 今朝、俳壇のページを開くと「清水昌子」が目に飛び込んできた。あっ、と喜んだのはほんの一瞬。住所が違う。そして何より私の句ではなかった。最近投句もしてないのだから。
 ありふれた名だと思うが、今まで同じ文字の同姓同名を目にしたことがなかった。たとえ自分でなくても「清水昌子」の載った新聞は、いとおしい。早速切り抜いてスクラップ。
  出水市 清水昌子(57) 2010/7/10 毎日新聞鹿児島版掲載