はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

秋風を感じて

2010-11-20 11:30:11 | はがき随筆
 夜来の秋雨が今朝も静かに降っている。
 夏を謳歌しきった百日紅は真紅の花を落とし、黄ばんだ葉はやっと枝にしがみついている。松葉ボタンも真っ赤な色があせ、茎は固く薄緑になっている。サルビアも力無くやせ細り、百日草もうなだれてきた。菜園場のミニトマトの茎はだらしなく垂れ下がり、ナスも小さく固くへの字に曲がり、必死でぶら下がっている。ところが、時節を間違えたのか、小ぶりの朝顔が一輪、木立から恥ずかしげに顔をのぞかせている。
 秋風を感じ始めだしたころ、69回目の誕生日を迎えた。
  鹿屋市 吉井三男  2010/11/20 毎日新聞鹿児島版掲載

変身

2010-11-20 11:22:35 | はがき随筆
 午前9時、自動ドアが開いて足を1歩踏み入れると「いらっしゃいませ!」と元気のいい声に迎えられた。
 病み上がりのやつれた私に、
 「今日はいかがなさいます」。
 「髪を短くカットして、さっぱりとしてください」
 息子のような青年の手さばきは手際よく、私は、自分が変身していくのに満足する。
 私の中にある、きれいになりたいという願望は若い頃と変わらない。いや、それ以上だ。
 店を出て、小春日和の暖かい日差しを浴びながら遠回りした道には、コスモスの花が風に優しく揺れていた。
  鹿屋市 田中京子 2010/11/19 毎日新聞鹿児島版掲載

「心の花」

2010-11-20 11:10:51 | 岩国エッセイサロンより


2010年11月16日 (火)
岩国市  会 員   檜原 冨美枝

友達の家の前を通ると塀の中から枝を伸ばした萩の花が心にとまった。豪華ではないが、ささやかにこぼれんばかりに咲いている。卵形の緑の葉っぱの中に薄紫の花びらがそよ風に揺れている。

 子供のころ、荒涼とした田舎道に咲いていた萩の花を仏壇にお供えし、父にえらくほめられた。5人の子供を残して早世した妻への思い出が募ったのか、仏壇にぬかずく父の背中は揺れていた。子供心にも胸が熱くなった。

それ以後、萩の花は私の心の花となった。四季折々に咲く花はどれも美しい。しかし、萩の花はなぜか私に語りかけているようだ。
    (2010.11.16 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載
写真はフォトライブラリ より

絶対に生きようね

2010-11-20 10:56:38 | 女の気持ち/男の気持ち
 東京から里帰りしたKちゃんが我が家を訪ねてくれました。彼女のお父さんは私のいとこで、子どものころからT兄ちゃんと呼んでいます。
 5月中旬に乳がんで右のおっぱいをなくした彼女。その体調を気遣う私に、こういってワンピースのボタンに手をかけます。
 「おばちゃんに傷を見てほしいの」
 それで乳がん先輩の私も傷を披露することに。
 「これってすごい光景やね」
 お互いの胸を開いて見せ合う姿を笑いあったものの、筑豊女の潔さを持った彼女に同士的なつながりを感じ、じんわりと涙が出ました。
 彼女は退院すると中学生と小学生の娘さんに胸の傷を見せたそうです。
 「2人は『ゲゲゲの鬼太郎』のぬりかべおばけみたいと言ったの」と笑って話してくれました。乳房温存手術をされたお姑さんは「さっぱりしているね」とおっしゃったとか。
 子どもさんとお姑さんの言葉に家族のやさしさと温かさを感じ、長い乳がん治療とつき合っていかねばならない彼女のこれからに、安堵を覚えました。
 まだ40代半ばの彼女はきっぱりとこう言って帰って行きました。
 「子供のために、あと30年は生きたい」
 彼女の意志の強さをもってすれば、神仏は必ず味方してくださると信じて疑いません。
  福岡県飯塚市 村瀬朱実 2010/11/18 毎日新聞の気持ち欄掲載

心のゆとり

2010-11-20 10:41:21 | はがき随筆


 雨の日曜日の午後、水墨展見学後、10月生まれの私に愛くるしいメジロを描き、昭子様と署名を頂いた。家のメジロが来る裏の畑で眺め、改めて喜びに浸る。
 ふと見ると、カボチャの実が放置した種から? 慌てて調べると3個結実していた。庭も畑も草が茂り、荒れ果てているのに、たくましい様子に驚いた。
 心臓をいたわり、半日は横になり、意欲のない自分が絵に感動し植物の成長に関心を持つ。心のゆとりを感じる。亡夫の好きだったキンモクセイの香りが漂う。青空はさわやか。白い雲とコスモスが美しい。
  薩摩川内市 上野昭子 2010/11/18 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はフォトライブラリより

人生の予習に

2010-11-20 10:35:30 | はがき随筆
 1ヶ月余りの入院中に予想以上の厳しい介護の光景を経験しました。
 病棟には約30人。高齢の女性が圧倒的に多く、車椅子の人、認知症の方と多くご苦労されていた。夜は看護師3人でカバーされていたが、一夜に15分おきの呼び出しベル。その対応に足早に廊下を走っておられた。
 大きい声で泣きわめく人、怒る人、不安で帰りたいとダダをこねる人。人生の叫びにも感じられた。一晩中、患者さんに寄り添う姿に感動し、人間愛が大切な職業だと深く思い、人生の最期を生きる厳しさの予習になりました。
  鹿屋市 小幡晋一郎 2010/11/17 毎日新聞鹿児島版掲載

香りに誘われて

2010-11-20 10:16:13 | はがき随筆
 窓から入ってくるいつもの風が、急に良い香りに変わった。どこからともなく漂って来るキンモクセイの香りに車を留めて香りの源を探した。引き寄せられるように集落を見下ろせる神社の階段をゆっくりと登って行く。「皆が元気で幸せに暮らせますように」とお参りをして振り返る。見下ろすと、まぶしいほど輝く黄金色の稲穂と吸い込まれそうな緑色の木々。思わず「ふうーっ」と深呼吸する。
 時間が止まった。
 キンモクセイの香りに誘われ立ち寄った神社で、飛びっきりぜいたくな森林浴。日常の忙しさを忘れて、心も癒やされた。
  垂水市 宮下康 2010/11/16 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はフォトライブラリより

後に残るものは

2010-11-14 21:55:58 | 女の気持ち/男の気持ち
 「人生を終えたのちに残るのは、集めたものではなく、与えたものである」
 この言葉は、私がバスを降りて勤務先まで歩いて行く途中にあるお寺の掲示板に書かれていたものだ。
 その言葉に触発されて考えた。私がこれまでに他の人に与えたものは、何があるのだろうか、と。
 自分の人生を振り返ると、いろいろな人々との出会いがあり、人から与えてもらったことの方が、与えたものよりはるかに多いことに改めて気がつく。
 人生の分岐点では、私に必要な言葉を与えてくれた人がいた。それは友人、知人だけではなく、本の中の登場人物だったりした。
 愛の貸借対照表を作るとしたら、確実に与えた愛より、与えられた愛の方が多い。
 この借金の部分を、どう穴埋めしていくか。それが私の残りの人生の課題なのだろう。
 特別な才能も、お金もない私だが、一番大きな財産は健康である。この健康な体を元手に、お返しの人生を送りたいと思う。
 私が弱った時に元気をもらったように、私も人に元気を与えたい。希望を持てないで居る人には、「朝の来ない夜はない」と伝えたい。未来を担う子供たちには、命の尊さを語っていきたい。
 そして願わくは、人生の幕引きの時に、誰かに言いたいものである。
 「ありがとう。いい人生でした」と。
  北九州市 淺野かつえ 2010/11/14 毎日新聞の気持ち欄掲載

カラムシ

2010-11-14 21:46:31 | はがき随筆
 道路の片側の土手にカラムシが伸びている。歯の表は白い短毛が密生し、裏は白く卵形。この野草を見ると66、67年前を思い出す。戦禍激しく物資不足の折、小学生も、その波を負う。
 養蚕の盛んな地方だったので桑の樹皮、それを取れない人はラミーかカラムシの皮をむいて供出するようになった。桑畑のない私を仲良しの節ちゃんが誘い、2度ばかりお邪魔したが、後は野山でカラムシを捜した。
 供出日、友だちは大きな束。小さな自分の束に肩身の狭い思いだった。繊維にして戦地で使うと説明された。当時は何もかもお国のためだった。
  出水市 年神貞子 2010/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載

喜ぶ

2010-11-13 13:41:13 | はがき随筆
 神奈川に住むおいが、夏休みに自動車学校に通い、車の免許を取得することができて、喜んだ。
 おいが、まだ小さいころ、自動車に興味のある時期。「ブッブッー、ブッブッー」と、車を運転するまねをして「ぼくが大きくなって、車の運転ができるようになったら、乗せてあげるよ」とよく言っていた。そのたびに「ありがとう。それまで元気でいられるかしらねえ」と言っておられた神奈川のおばあちゃんも、お空の上で喜んでおられることだろう。そんな話を母としながら、おいの成長を喜び、安全運転を祈願した。
  出水市 山岡淳子 2010/11/13 毎日新聞鹿児島版掲載

家族の結集

2010-11-12 15:03:47 | はがき随筆
 やっと米の収穫が終わった。田植えから脱穀まで気配りの連続。一日一日の生育状態を確かめながら「大きくなったね。ありがとう。がんばれ!」と声ならぬ肥かけをした結果。水の具合、病害虫の有無、稲の色などに心を配り、長雨、猛暑など天候不順を懸念する毎日だった。今年は幸い台風は免れたが、秋雨前線が南へ北へと上下し雨が多く、稲刈りのタイミングに苦労した。
 稲とて生き物、一日も油断のならない米作りだった。だから家族の力を結集した米は輝いている。「うまい」・今、大地の恵みに感謝し味わっている。
  出水市 畑中大喜 2010/11/12 毎日新聞鹿児島版掲載

かのや第九演奏会まで…あと23日

2010-11-11 17:43:15 | アカショウビンのつぶやき
かのや第九合唱団とは

平成22年12月5日に鹿屋市文化会館で開催される「かのや第九演奏会」のために、一般公募で結成された合唱団です。

鹿屋市内の合唱団はもちろん市外からの参加もあり、練習も大詰めを迎えています。
私たち「信愛コーラス」も、シルバーコーラス「ローズかのや」の皆さんも共に参加します。

とくにシルバーコーラスの方々は熱心に自主練習を続け、その名も「第九特訓班」。
たえ子先生の指導で、週1回の練習を欠かすことなく続けて来られました。

月2回の練習だけでは、だんだん不安になった私も「特訓班」の練習に参加させていただきましたが、平均年齢70ウン歳の方々が頑張っています。


毎回、その日の連絡事項が伝えられてから、練習開始です。


まず、体をほぐし発声から学びます

  





お疲れ様でした。
先生を囲んでちょっとおしゃべりタイムです。
鹿屋市の北端「輝北町」から遠路はるばる参加された方々と…。



自信のない所に張った付箋が、まだ6枚も残っているんでーす。
ああ、あと23日、頑張るしかないか…

by アカショウビン


秋に思う

2010-11-11 12:36:27 | はがき随筆
 孫の運動会は雲一つない秋晴れだった。澄み切った青空の中で久しぶりに至福の時を味わった。
 思えば、5年前、夫の手術の前日、どこまでも晴れ渡った冬の空が悲しいと思えた。それから2年半してガン再発、悲観のどん底。
 だが手術後は良い方向に向かい、今はぼつぼつ仕事ができるようになった。人生捨てたものでもないんだなあ。
 普通の生活が出来ることが、どんなに有り難いものなのか。晩秋となった今、空を見上げ、しきりに思う。
  伊佐市 今村照子 2010/11/11 毎日新聞鹿児島版掲載

フラフープ

2010-11-10 15:01:48 | はがき随筆
 隣の庭で、小学3年生の孫娘がフラフープで遊んでいる。
 フープを首から腰へと回し、大きく回転させる技に「上手だね」と褒めたら「やってみて」と誘う。「ジイは昔、3分間は回せたよ」などと自慢して腰を振るが、フープは螺旋状にむなしく降りていく。「やっぱり年だ」と笑う孫に「60年していないからだよ。練習してうまくなってみせるから……」と負け惜しみを言う私。
 「お手本見せるね」。孫娘は黄色いフープを回しながら「天国のパパは見てるかなあ」とつぶやく。ジーンときた私は秋風が吹く青空を仰いだ。
  出水市 清田文雄 2010/11/9 毎日新聞鹿児島版掲載

バトンタッチ

2010-11-10 14:47:03 | 女の気持ち/男の気持ち
 定年ばんざーい! 仕事仕事の毎日から開放された私はカリスマ主婦を目指すと宣言した。お正月、節分、雛祭り、七夕、夏祭り、お盆など、年中行事にこだわりたい。家族や友人と思いっきり行事を楽しみたいのだ。
 女系家族である我が家。祖母や母から私にいつの間にか伝承されてきた我が家流がある。昨年の夏に逝った母が大切にしてきた行事だから粛々と続けていきたい。そこで母の法事はホテルでの会食をやめ、倉庫から掘り出した古い漆器類を使い、自宅での精進料理でもてなした。「おばあちゃんやお母さんがきっと喜んでいるわよ」という叔母たちの言葉がうれしかった。
 結婚して40年。気がつくと母がしていたようにしている自分がいる。
 息子のお嫁さんは外国育ちの帰国子女。我が家の行事、家事をどう受け止めているのだろう。このお嫁さん、私のすることが気になるらしく、帰省のたびにしつらえや日本料理に関心を示してくる。いじらしいと思うが、無理してほしくない。強制はしたくないのだ。今の時代、自由でいい。若い核家族世代がどんなアレンジをするかも楽しみだ。
 「あなたのスープ、最高ね。あれは自慢できる味よ」とほめる。彼女、料理が上手なのだ。イタリア料理は抜群に美味だ。
 「女2人、料理好きでよかったね」と乾杯する。行事を通して心躍る時を過ごせたらそれでいい。
  大分市 宇藤真由美 2010/11/6 毎日新聞の気持ち欄掲載