あるとき新聞で、顔こそはっきりしないが背格好などが亡き母にそっくりな写真を見つけた。思わず「お母さん」と呼びたくなった。兄弟たちも懐かしんでくれるだろうとコピーして送った。ところが妹はお義理で「少し似ているかなあ」と納得しない顔。兄貴にいたっては全く似ていないと、にべもない。他は梨の礫。皆にとって唯一の母なのに、一人一人異なる面影を脳裏にとどめているのだとそのときは思ったのだった。
しばらくたってもう一度写真を見たら何のことはない、母の面影は消えていた。私の大いなる錯覚、ひとり相撲だった。
鹿児島市 野崎正昭(88) 2020/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載