文芸誌「新潮」に、2012年から2013年にかけて掲載された7編を集めた短編集。
どれも短く、長いストーリーはなく、ある一コマを描いた作品ばかり。
で、読後感は限りなく不安になる。
一言も触れていないけれど、東北大震災直後の世相、世界と言い換えてもいいけれど、それを作家の感受性がどう受け取ったかという実験的な小説群ということになると思う。
絆ということがあの震災後よく言われたけど、言わなければならないほど、あの震災は世界がバラバラに分解するような出来事だったのだと思う。
今まで確かに目の前にあり、これからもあり続けると思っていたことが一瞬でなくなってしまう理不尽さ。人は何を信じ、頼っていいか分からなくなり、自分以外のことに関心を持つ余裕がない。その場限りの感覚にだけ突き動かされて生きていく。
その中で、闇夜に浮かび上がる一軒家の明かりを求めるように、人は、はかない縁や取るに足らないこだわりを手繰り寄せる。それは不安定で持続可能ではなさそうだけど、とりあえずはこれにつかまっておこう。
そんな心情を感じさせる作品集だった。
なかにはシュールに、現実世界を裏返した、もう後戻りできない設定もあるけれど、そこまで行くと、そこまで行ってしまえば、小説としては行きすぎだと私は思う。
今の日本で書かれ、読まれる小説は、あくまでも現実に軸足を置き、読者の感覚がついて行ける範囲にとどめて欲しい。少しものの見方が広がって得したなと思いたい。というのは保守的な本読みの態度かもしれないが。
昔流行ったシュールレアリズム、フランスのロブグリエなど、今の私はもう読むのはきつい。
心のあちこちに、小さなとげが刺さったような読書体験だった。