この最近、なるだけ新書か文庫本しか読まない。その心は、寝る前、電車の中、重い本は持ちにくい。
この著者の新作を広告で知り、それではなくて二年前の本を読んだ。当時ベストセラーだったそうで。
この本では扱う時代は明治維新から2018年くらいまでの150年、それを340ページの親書にまとめる荒業。論の展開が畳みかけるようで、落ち着いて読まないと振り落とされそうだけど、途中からそのスピードに慣れるとスリリングな話の連続で面白かった。
著者は社会学者で、本書も歴史書ではないので、いちいち史料を上げなくてもいいのだろうけれど、時には強引かなあと思うところもあり、いやそれは私の頭がついて行けないだけと思いなおして、頑張って読んだ。
本書の一番の特徴は、戦後の日本がアメリカに追随するあまり、支配されていることすら気が付かず、アメリカの都合のいい国になっているという指摘。
確かに。いつのころからか日米同盟と言う言葉が普通に使われるけど、同盟と言うからには条文があるはず。日米同盟条約とか。お互いの権利と義務を明文化して助け合うという類の。
あるのかもしれないけど不勉強にして知らない。あるのはその時代ごとの貿易や駐留米軍に関する取り決めだけ?こんなことでいいのかな?
まずは明治維新。欧米のような、市民が王政を倒すという意味での近代化ができなかった日本は、古代的権威を持つ天皇を国のかなめに持ってきて、近代国家を大急ぎで作る。統一国家になり、国の仕組みを作り、国力を大きくしていった明治期、世界情勢が比較的安定していた大正期、それから戦争へとつきすすんだ昭和期、天皇という生身の人間にして制度の中心を国民がどうとらえ、どう行動したか。面白かった。
二・二六事件の将校たちは、社会の矛盾を天皇はわかってくれる。天皇の周りの人間が悪い。とファンタジーを持ったけれど、情勢はそう甘いものではなかった。あれから戦前の日本の歴史は破滅へと向かっていく。国内外のその悲惨なことは未来永劫、記憶しておくべき。
ポツダム宣言を受け入れるとき、国体の護持に最後まで固執した政府。国体を英語にどう訳すか。天孫降臨、三種の神器、万世一系、天壌無窮などという言葉は一切関係ない。日本人の持つ国体概念を、連合国側にどう説明するか。
もう時間がない。
連合軍は沖縄を占領し、本土に原爆が二発落とされ、連合国軍は九州を伺う情勢。
そこでまだ天皇をいただく国を保持したいと頑張る政府。連合国からの回答は、天皇と日本政府は...shall be subject to...連合国最高司令官...とあった。
早期講和、本土決戦回避をめざす外務省はこの部分を「制限されるだけ。国体護持は可能」と解釈。本土決戦の建前から離れられない陸軍は「隷属する。これでは国体は破壊される」と抵抗する。
回答の末尾、連合国によって日本に平和的な政府ができたときには、統治の最終形態はその政府が決めるとあるのに日本側は望みを託してポツダム宣言を受け入れる。その間のやり取りがスリリングだった。
今の時代から見ると、今の時代に生きる私からにすれば、そこまで国体にこだわるのはなぜ・・・と思ってしまう。天皇制が日本人のアイデンティティにまでなっていたと思うしかない。しかし、それはまあ何と窮屈な、すべての不平不満、社会の矛盾を吸収する、支配する側取っては便利な装置。
で、歴史的事実を私たちは知っている。天皇制は形を変えて残っていったことを。そして、この国の戦後がずっとアメリカの世界戦略に振り回され、その一端を担う国となっていることに。
仕方なかった、それが生き延びる道という考えかたもあるけれど、西側の(この言い方も古いけど)国でも、カナダやドイツなどはもう少しアメリカにたてついている。骨のある政治家がいる。日本は次の首相が誰かもアメリカに事前に知らせている。首相が選挙でえらばれるなんて幻想。それは今回のことを見ても誰でも感じること。
しかしと東西の冷戦もとうに終わり、日本はこうアメリカ一辺倒ではまずいのではないかと思う。いいように使われて、いざとなったたら助けてもらえないとならないように、先を見通せる、理念を言葉で語れる能力ある指導者が出てこないものかと、思う。
今、北朝鮮の脅威が言われるけど、アメリカの力をもってすれば北朝鮮をつぶすことはそう難しくはないと思う。北朝鮮があるのは、アメリカにとっても都合がいいから。そう思うしかない。韓国や日本の危機感をあおり、アメリカの都合で動ける国にすることかな。
その意図を汲み過ぎて「圧力を」とばかり言っていた政権は、拉致問題なんてはなから解決する気がなかったのでは。
今の総理大臣が官房長官時代、沖縄の前知事に「私の言いたいことが分かってもらえましたか」と言う問いかけに「戦後生まれなのでわからない」と答えたそうな。分からない、考えられないは頭がないのと同じこと。分からないなら、その後考えたのでしょうか。今の政治のことはここではあまり話したくないのですが、しっかりしていただきたい。
近くの国々とどう平和的な関係を築いていくか、外交はそれに尽きると思う。日本だからできることもあるはず。アメリカの言いなりでは、この国の将来は危うい。
本書の中で、再び朝鮮半島有事があると、日本の経済も復興すると考える勢力があると書かれてますが、本当ならとんでもないことです。
資本はそこまで強欲なんでしょうか。朝鮮戦争のころと今では違う。どんなに貧しい国になってもみんなで助け合って、戦争だけはしたくない。それが私の願いです。戦争したらもっと貧しくなりませんか。いや、戦争で儲ける人はそう望むのでしょう。
それと別姓婚を、何の実害も受けないのに反対する層がいるのは、男女同権に道を開き、ひいては女性天皇を容認することになるからだそうで。
その結びつきはにわかには実感できませんが、やがて女性天皇に抵抗がなくなるだろうということはわかります。
私個人としては天皇制は制度の内と外にいる人を人間として疎外する、過去の遺物と思います。皇族で結婚問題が膠着している人がいますが、人さまの結婚、関係ない人間がなんであれこれ口出しするのか、全く理解できません。結婚させてあげましょう。
って私も口出ししているけど。好きな人と結婚するのは基本的人権の根幹をなすもの。
前の天皇も天皇辞めたいと言って、法律作ってもらってやめていきました。あの方は被災地などに積極的に出かけて交流し、それが使命と思っていたことでしょう。年取ってできなくなる。その姿を見せたくない。制度の内側の人として、時の政権と距離を取りつつ、国民が喜ぶことをして、結果として制度を続けていきたい、それが国民の為にもなると思っていたのでしょう。
それと天皇がなくなると殯もがりの行事があまりに重く大変だったと、「お言葉」の中にありましたよね。天皇制にまつわる儀式は明治になって復活したり、創設されたのも多い。近代以前はもっと簡素だったはず。権威づけられたそのことが当事者の重荷になっている。
男女別姓でも、女性天皇でも、何が悪いのと私は思いますが、男性が女性の上でないといけないと考える人がまだまだこの国にいることでしょう。でも女性が生きがたいからこそ、結婚が少なく、子供も少ないという側面もあるのでは。
一冊の本からいろいろなこと考えました。
余りパソコンの前に座らない筈が、読んだ本の感想言う人もなくて長話。失礼しました。
コメントは認証制です。あなた様の貴重なお時間を割いてコメントくださっても反映されない場合もありますので、前もってご了承ください。そして、悪く思わないでください。