5月30日に最高裁判所第二小法廷は卒業式において教職員に国歌斉唱を義務付けた職務命令と違反者に対する行政処分を合憲合法とする判決を言い渡した。最高裁には同様の事例がいくつも係属しているが他の裁判で異なった判決(違憲)が出ることは考えられず、司法当局の裁きは実質的には終わったというほかはない。
もちろん、これでいいというわけではない。学校現場での締め付けはますます度を越すことになるかもしれない。大阪では条例を制定してまでして東京と同じことをやろうとしている。事柄は民主主義の基本に関わる問題であり、日本国家と国民の運命に深く関わる問題である。
私たちのひとりひとりが自分の意見を持ち、それを表明していくことが何よりも大事だ。判決文といくつかの見解が紹介されているHPがある。読者はどんなふうに考えられるだろうか。
●君が代起立命令に合憲判決http://blogos.livedoor.com/theme/national_anthem/
この問題に対する僕の意見や体験は「川越だより」にも何度か書いてきた。直近のは。
●川越だより「都教委の処分は職権濫用」 原告が逆転勝訴
http://blog.goo.ne.jp/keisukelap/e/b57c92cab11803c3398b39a02023b3eb
「民主主義と人権」派は都知事選挙に候補者を立てることもできず、石原知事の圧勝を許した。処分を振りかざしてまでして無茶をしてきた都教委の実質的な親分は石原知事である。都民が石原知事を信任したという政治的状況下で最高裁に違憲判決を期待することは木に縁(よ)って魚を求めるようなものだ。
憲法無視の発言と行動を繰り返す知事の4選をやすやすと許してしまうような状況を打開することなしに学校に民主主義と人権を確立することはできない。最高裁判所が政治的状況から離れて、「中立・公正」に判決するということが一度でもあっただろうか。学校に民主主義と人権を確立しようとする人々の思想や運動のあり方も問われていると僕は思う。
最初に結論ありきの政治的判決を書いたためか、三人の裁判官が長々と「補足意見」を書いているのが印象に残った。この人たちに司法の一員という矜恃(きょうじ)があるのならここに書いているようなことにこそ踏み込んで判決を書くだろう。「法匪(ほうひ)」と言うしかない。
①(裁判長裁判官須 藤 正 彦 )
最も肝腎なことは,物理的,形式的に画一化さ
れた教育ではなく,熱意と意欲に満ちた教師により,しかも生徒の個性に応じて生
き生きとした教育がなされることであろう。本件職務命令のような不利益処分を伴
う強制が,教育現場を疑心暗鬼とさせ,無用な混乱を生じさせ,教育現場の活力を
殺ぎ萎縮させるというようなことであれば,かえって教育の生命が失われることに
もなりかねない。教育は,強制ではなく自由闊達に行われることが望ましいのであ
って,上記の契機を与えるための教育を行う場合においてもそのことは変わらない
であろう。その意味で,強制や不利益処分も可能な限り謙抑的であるべきである。
のみならず,卒業式などの儀式的行事において,「日の丸」,「君が代」の起立斉
唱の一律の強制がなされた場合に,思想及び良心の自由についての間接的制約等が
生ずることが予見されることからすると,たとえ,裁量の範囲内で違法にまでは至
らないとしても,思想及び良心の自由の重みに照らし,また,あるべき教育現場が
損なわれることがないようにするためにも,それに踏み切る前に,教育行政担当者
において,寛容の精神の下に可能な限りの工夫と慎重な配慮をすることが望まれる
ところである。
②(裁 判 官 千葉勝美)
一般に,国旗及び国歌は,国家を象徴するものとして,国際的礼譲の対象
とされ,また,式典等の場における儀礼の対象とされる。我が国では,以前は慣習
により,平成11年以降は法律により,「日の丸」を国旗と定め,「君が代」を国- 32 -
歌と定めている。入学式や卒業式のような学校の式典においては,当然のことなが
ら,国旗及び国歌がその意義にふさわしい儀礼をもって尊重されるのが望まれると
ころである。しかしながら,我が国においては,「日の丸」・「君が代」がそのよ
うな取扱いを受けることについて,歴史的な経緯等から様々な考えが存在するのが
現実である。
国旗及び国歌に対する姿勢は,個々人の思想信条に関連する微妙な領域の問題で
あって,国民が心から敬愛するものであってこそ,国旗及び国歌がその本来の意義
に沿うものとなるのである。そうすると,この問題についての最終解決としては,
国旗及び国歌が,強制的にではなく,自発的な敬愛の対象となるような環境を整え
ることが何よりも重要であるということを付言しておきたい。
出典●判決文全文http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110530164923.pdf