非常に刺激的な題名ですが、内容もかなり刺激的です。
歴史人口学者にして家族人類学者のエマニュエル・トッド。
これまでソ連崩壊や米国発金融危機を予言し、トランプ大統領の誕生も予言していた。
その予言の背景には人口構造の推移や国際比較した家族関係の考察があり、説得力があります。
図書館で何気なく前説とでもいうような「日本の読者へ」を読んだらガツンと衝撃を受けて早速借りてきました。時間がない人は図書館なり本屋で見かけたら最初の16ページほどですけど、そこだけでも立ち読みしてください。
今盛んに話題になっている日本の少子化については「直系家族(長子相続)の病」としています。直系家族は「世代間継承」「技術・資本の蓄積」「教育水準の高さ」「勤勉さ」「社会的規律」を重視していてそれが強みになっているのですが、その完璧さが子育てや介護に家族の過重な負担を課して非婚化や少子化をもたらし家族を消滅に導いている。今までの成功をもたらした長所が「少子化」に対する桎梏になっているとすると解決策として単に公的扶助を増やして家族の負担を軽減するだけでいいのか、家族の意識の変革も並行として必要なんでしょう。
この本で貫かれているのはトッドのグローバル資本主義が跳梁する自由貿易体制に対する危機感と反発でしょうか。この点についてはいろいろな論客が発言しているのですが、資本の論理が国境を越えていく中で格差が拡大して差別と分断が国民国家を内部から崩壊させていく姿が見えているのでしょうか。
目次を見ると見出しを見るだけで非常に刺激的な内容が見えきます。
コロナで犠牲になったのは誰か、統計を見ると経済統計はうそをついても人口統計はうそをつかない。死亡率を見てみるとグローバリズムの進んだ国ほど死亡率が高い。新型コロナは生産力だけでない社会の在り様をあぶりだしています。因みに生産力は長い目で見れば「次世代の子どもを産み育てる力」に現れるであり、その面では日本の少子化は日本の将来の国力のためには安全保障政策以上の最優先課題!!
ところで少子化対策の一つとして移民政策があるのですが、受け入れ政策の基本的スタンスとして「多文化主義(隔離政策)」と「同化主義」のどちらかを取らなければいけない。ドイツ、イギリスは「移民を無理に統合させようとせず彼らの自主性任せるという多文化主義を取ったのですが、結局上手く行かなかった。同化主義を採用したのはフランスだが、イスラム系移民への不寛容な態度が問題を起こしているのだが、寛容で柔軟な同化政策こそが成功すると。それでも受け入れに際しては非熟練労働者だけでなく職業レベルや教育レベルの高い外国人を受け入れ、出身国を特定の国に集中させないようにしなけてはいけない。日本文化は素晴らしいものであり自信をもって外国人に寛容に接すれば「同化」は成功するはず。
日本は核兵器を持つべきだと言われるとそれだけで拒絶する人が多いのですが、日本はアメリカの核の傘で守られているというのはフィクションという。核兵器は極大のリスクを伴っているので相手が米国本土を狙う能力を持っている以上、自国防衛以外のために使うことはあり得ない。中国だけでなく北朝鮮も核保有国になった以上、東アジア世界の均衡と安定と平和をもたらすには核を保有することを検討すべき。核兵器は相互壊滅の可能性がある以上恐怖の均衡をもたらし戦争を不可能にするものになっている。と言うことはロシアはウクライナ侵攻で戦況が不利になってもブラフを言うだけで実際には核兵器は使えないと言うこと…理性的にはそうでしょうけど戦争はしばしば不合理が優先することもあるだけに、簡単に割り切れるのか。ウクライナで限定的に戦術核が使われる可能性はあり得ると思うのですが。
ところでトッドはトランプ当選を予言し、なおかつ再選を支持していた。トッド自身はトランプは下品で粗野なばかげた人物であり人として許容できないと言っているのですが、トランプ政権によってなされた政策転換が今後30年の米国の在り方を方向づけると言っている。すなわち「保護主義」「孤立主義」「中国との対峙」「欧州からの離脱」というトランプが敷いた路線が今後の英国のとって無視しえないものであり、その意味では「トランプは歴史的な大統領」だと。民主党は「アンチ」というネガティブな形でしか自己定義できずに人種問題に特化した政策しかなかったが、本来ならば経済を問題にしなければいけなかったのにできなかった。そうなるとバイデンの後はトランプのように下品で粗野なとことのないより洗練された賢いトランプ主義が勝利する?民主党が「保護主義」「国内産業の重視」「国境管理の重視」を特にインフラ重視をして経済を復活させることが出来るのかがかぎになるのか?
ところで中国について言うと長期的には人口減少を迎え合計特殊出生率1.3という急速な少子高齢化が進んでいる状況では中国が米国を凌ぐ大国になり世界の覇権を握ることはあり得ないと断言している。中国は、一人っ子政策の影響で出生時の男女比が異常値であり将来の人口構成に大きなゆがみをもたらすのは必至。人口減をその人口規模の巨大さから他国からの移民で補うことは不可能で、しかも中国の人口統計がどこまで信用できるかという問題まである。人口統計は政治の動きや経済統計以上に社会の根底にある動きをとらえているのだが、人口統計自体が信頼できないとは。
最後の2章は磯田道史、本郷和人との対談で日本の家族制度について論じている。日本の歴史人口学の創始者である速水融氏へのリスペクトがあふれているのですが、直系家族、天皇などについて興味深い対談となっています。
新書本250ページ余りで読みごたえがあって、とてもここに書ききれなかったのですが、興味がある人は是非読んでみてください。最初に書いたように「日本の読者へ」の16ページだけでも読んで損はないと思います。
歴史人口学者にして家族人類学者のエマニュエル・トッド。
これまでソ連崩壊や米国発金融危機を予言し、トランプ大統領の誕生も予言していた。
その予言の背景には人口構造の推移や国際比較した家族関係の考察があり、説得力があります。
図書館で何気なく前説とでもいうような「日本の読者へ」を読んだらガツンと衝撃を受けて早速借りてきました。時間がない人は図書館なり本屋で見かけたら最初の16ページほどですけど、そこだけでも立ち読みしてください。
今盛んに話題になっている日本の少子化については「直系家族(長子相続)の病」としています。直系家族は「世代間継承」「技術・資本の蓄積」「教育水準の高さ」「勤勉さ」「社会的規律」を重視していてそれが強みになっているのですが、その完璧さが子育てや介護に家族の過重な負担を課して非婚化や少子化をもたらし家族を消滅に導いている。今までの成功をもたらした長所が「少子化」に対する桎梏になっているとすると解決策として単に公的扶助を増やして家族の負担を軽減するだけでいいのか、家族の意識の変革も並行として必要なんでしょう。
この本で貫かれているのはトッドのグローバル資本主義が跳梁する自由貿易体制に対する危機感と反発でしょうか。この点についてはいろいろな論客が発言しているのですが、資本の論理が国境を越えていく中で格差が拡大して差別と分断が国民国家を内部から崩壊させていく姿が見えているのでしょうか。
目次を見ると見出しを見るだけで非常に刺激的な内容が見えきます。
コロナで犠牲になったのは誰か、統計を見ると経済統計はうそをついても人口統計はうそをつかない。死亡率を見てみるとグローバリズムの進んだ国ほど死亡率が高い。新型コロナは生産力だけでない社会の在り様をあぶりだしています。因みに生産力は長い目で見れば「次世代の子どもを産み育てる力」に現れるであり、その面では日本の少子化は日本の将来の国力のためには安全保障政策以上の最優先課題!!
ところで少子化対策の一つとして移民政策があるのですが、受け入れ政策の基本的スタンスとして「多文化主義(隔離政策)」と「同化主義」のどちらかを取らなければいけない。ドイツ、イギリスは「移民を無理に統合させようとせず彼らの自主性任せるという多文化主義を取ったのですが、結局上手く行かなかった。同化主義を採用したのはフランスだが、イスラム系移民への不寛容な態度が問題を起こしているのだが、寛容で柔軟な同化政策こそが成功すると。それでも受け入れに際しては非熟練労働者だけでなく職業レベルや教育レベルの高い外国人を受け入れ、出身国を特定の国に集中させないようにしなけてはいけない。日本文化は素晴らしいものであり自信をもって外国人に寛容に接すれば「同化」は成功するはず。
日本は核兵器を持つべきだと言われるとそれだけで拒絶する人が多いのですが、日本はアメリカの核の傘で守られているというのはフィクションという。核兵器は極大のリスクを伴っているので相手が米国本土を狙う能力を持っている以上、自国防衛以外のために使うことはあり得ない。中国だけでなく北朝鮮も核保有国になった以上、東アジア世界の均衡と安定と平和をもたらすには核を保有することを検討すべき。核兵器は相互壊滅の可能性がある以上恐怖の均衡をもたらし戦争を不可能にするものになっている。と言うことはロシアはウクライナ侵攻で戦況が不利になってもブラフを言うだけで実際には核兵器は使えないと言うこと…理性的にはそうでしょうけど戦争はしばしば不合理が優先することもあるだけに、簡単に割り切れるのか。ウクライナで限定的に戦術核が使われる可能性はあり得ると思うのですが。
ところでトッドはトランプ当選を予言し、なおかつ再選を支持していた。トッド自身はトランプは下品で粗野なばかげた人物であり人として許容できないと言っているのですが、トランプ政権によってなされた政策転換が今後30年の米国の在り方を方向づけると言っている。すなわち「保護主義」「孤立主義」「中国との対峙」「欧州からの離脱」というトランプが敷いた路線が今後の英国のとって無視しえないものであり、その意味では「トランプは歴史的な大統領」だと。民主党は「アンチ」というネガティブな形でしか自己定義できずに人種問題に特化した政策しかなかったが、本来ならば経済を問題にしなければいけなかったのにできなかった。そうなるとバイデンの後はトランプのように下品で粗野なとことのないより洗練された賢いトランプ主義が勝利する?民主党が「保護主義」「国内産業の重視」「国境管理の重視」を特にインフラ重視をして経済を復活させることが出来るのかがかぎになるのか?
ところで中国について言うと長期的には人口減少を迎え合計特殊出生率1.3という急速な少子高齢化が進んでいる状況では中国が米国を凌ぐ大国になり世界の覇権を握ることはあり得ないと断言している。中国は、一人っ子政策の影響で出生時の男女比が異常値であり将来の人口構成に大きなゆがみをもたらすのは必至。人口減をその人口規模の巨大さから他国からの移民で補うことは不可能で、しかも中国の人口統計がどこまで信用できるかという問題まである。人口統計は政治の動きや経済統計以上に社会の根底にある動きをとらえているのだが、人口統計自体が信頼できないとは。
最後の2章は磯田道史、本郷和人との対談で日本の家族制度について論じている。日本の歴史人口学の創始者である速水融氏へのリスペクトがあふれているのですが、直系家族、天皇などについて興味深い対談となっています。
新書本250ページ余りで読みごたえがあって、とてもここに書ききれなかったのですが、興味がある人は是非読んでみてください。最初に書いたように「日本の読者へ」の16ページだけでも読んで損はないと思います。