怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

浅田次郎「兵諫」

2022-08-18 11:16:31 | 
浅田次郎の中国近現代史シリーズの第6部。
「蒼穹の昴」を初めて読んだ時その面白さに引き込まれて以来シリーズのファンなのですが、迂闊にも昨年新刊が出版されたことは知りませんでした。
図書館で見かけてすぐに借り出して読みました。

思えば中国近現代史については辛亥革命までぐらいしか習っていなくて、その時年号とかは覚えても時代背景とか歴史の流れのようなものは試験に出るものでもなくスルー。その時の教師が現代史は評価が定まっていなくて教えにくいとか言っていた記憶があります。
「蒼穹の昴」を読んでから慌てて清朝末期の歴史を読み、アヘン戦争から日清戦争、太平天国の乱、戊戌の政変などどこまでが事実でどこがフィクションかと思いをめぐらしたぐらいです。
中国だけでなく日本史でも515事件とか226事件は出来事としては知っていても、当時の軍部の動きとか皇道派と統制派の対立などは、後年映画とか小説で知ったぐらい。
そう思うとこの小説、虚実入り乱れているのですが、時代の背景説明としては無味乾燥な教科書と違い、すっと腹に落ちてきます。
今回の「兵諫」の舞台は西安事件。これも言葉では知っているのですが、国共合作がなったというだけの知識で、張学良のクーデターがどうして可能だったのか、蒋介石はその場で殺されず、張学良も長い軟禁生活を送るも生きながらえてきたのか、謎が多くなかなか理解しがたいことなのですが、浅田次郎なりの解釈は説得力があります。こういうことは正史には絶対述べられないのでしょうが、それだけに創造の羽を伸ばさないと理解しがたいことです。
ターナーというニューヨークタイムズ特派員と前にも登場した上海特務機関員の志津大尉に朝日新聞記者の北村を狂言回しに西安事件の真相と日本への影響に迫っていきます。
西安事件のきっかけとして226事件が大きく影響しているというのは、そう言われれば当時の日中関係を考えればその通りなのでしょうけど、私にとってはまったく新しい知見。満州事変からますます中国侵略を進めている日本の政治状況は、直接中国にもリアクションをもたらしているということですね。
ところで張学良が張作霖から引き継いだ「龍玉」はこれからどうなっていくのか。切望している蒋介石には資格がなく渡せないになっているのだが、同時に毛沢東にも資格がないように書いてある。歴史から見れば天命を受け中国を統一した毛沢東の手に渡り、鄧小平に引き継がれて行くみたいだが、共産党はそんな天命などは信じておらず「龍玉」はどっかに朽ち果てていくのだろうか。案外毛沢東は心情としては皇帝気取りで懐深くにもって離さなかった気もします。脈々と引き継がれているのなら果たして習近平にその資格があるのか…
続編も待ち遠しいのですが、どう結末がついて行くのか、読む前からどきどきしています。
ところで昭和史についても映画小説の類の知識しかないのですが、水木しげるの「昭和史」をやっと最終の8巻まで読み進めることが出来ました。水木さんの個人史と昭和史がリンクして書いてあるのですが、知らないことが多くて勉強になりました。それにしても水木さんは軍隊生活では楽しいことなどなく殴られてばかりのいやで苦しいことばかりと思うのですが、個人的な恨みつらみはほとんど書いてありません。戦っている敵に対しても憎しみは書いてありません。どちらかというと淡々と事実を書いてありますが、負の感情にとらわれていないことが生き延びることが出来た秘訣だったんでしょうか。素晴らしい生きる力です。時間がある人は是非1巻から挑戦してください。

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