【日本固有種、江戸時代ヨーロッパに渡り人気に】
日本原産の常緑低木。日があまり当たらず湿り気のある所を好む〝陰樹〟で、冬枝の先端に白い小花が集まった鞠のような花を円錐状に多くつける。ウコギ科でウドやタラノキ、カクレミノなどと同じ仲間。葉が年中青々してツヤがあることから、古くから生け花の花材として使われてきた。葉を乾燥したものは「八角金盤」(生薬名)と呼ばれ、咳止めや去痰、リウマチ治療などに利用される。
植物名は葉の先が7~9つに裂けて掌(てのひら)状になっていることから。学名の「Fatsia japonica(ファトシア・ジャポニカ)」のファトシアも八手の音読み「はっしゅ」に由来するともいわれる。ただ8つに裂けているものは少ないらしい。そこで実際に確認してみると、ほとんどが9つで、8つに分かれているように見える葉も縦の葉脈を数えると9つ、または7つになっていた。「八」が末広がりで縁起がいいため、この名前になったのかもしれない。
葉の形が天狗が手にする羽団扇(はうちわ)に似ているため、ずばり「天狗の羽団扇」の別名を持つ。「鬼の手」という異名も。天狗の団扇は鳥の羽根を奇数枚束ねたもので、魔物を追い払ったり空を飛んだり火を自由に操ったりするなどの神通力があるという。ヤツデは魔除けのほか、大きな葉が人や福を招くという言い伝えから、民家の玄関脇や庭によく植えられてきた。
葉は通常濃い緑一色だが、斑(ふ)入りの園芸品種も多い。白い斑のあるフクリン(覆輪)ヤツデ、黄色の網目が入るキアミガタヤツデ、縁が縮れたチリメンヤツデ、縁に白い模様が入るシロブチヤツデ、黄色の紋が入るキモンヤツデ、切り込みが深いヤグルマ(矢車)ヤツデ……。近縁種には小笠原特産のムニン(無人)ヤツデ、台湾・中国中南部原産のカミ(紙)ヤツデがある。
日本ではありふれた植物だが、欧米では日陰や寒さに強いこと、葉の形が独特なことなどから斑入りを中心にアオキとともに人気が高いそうだ。海外に紹介したのは江戸時代、長崎・出島のオランダ商館付き医師として来日したスウェーデンのカール・ツンベルク(1743~1828年)。植物学者リンネの高弟で「日本植物誌」という著書もある。日本のヤツデをもとに海外で作り出された品種に「ファツヘデラ」(和名ツタヤツデ)がある。「みづからの光りをたのみ八ツ手咲く」(飯田龍太)。