【土佐街道沿いの民家の玄関や縁側など約100カ所に雛人形を展示】
日本三大山城の1つといわれる「高取城」で有名な城下町、奈良県高取町。往時の佇まいを残す土佐街道を中心に、いま「土佐町なみ 町家のひなめぐり」(1~31日)が行われている。2007年に地域おこしの一環として始まって今年で7回目。町家の玄関や縁側など約100カ所に、娘や孫娘への愛情と思い入れがいっぱい詰まった雛人形が展示されている。高取町といえば秋の「たかとり城まつり」が有名だが、このひなめぐりも大和路に春の訪れを告げる風物詩として知名度もアップ、連日多くの観光客でにぎわっている。
メーン会場は「雛の里親館」。高さ4mの半円形に400体近い雛人形がずらりと並ぶ光景はまさに圧巻そのもの。右側が主に京雛、左側が江戸雛で、地元高取町のほか全国各地から送られてきたという。今年は「きもので彩る町家のひなめぐり」をテーマとしており、館内にも雛人形の背後に豪華な内掛けが飾られていた。天井からは無数の吊るし雛も彩りを添えていた。
雛人形を展示する町家にはそれぞれのお雛様にまつわる思い出を〝雛物語〟として色紙にしたためている。「健やかで思いやりのある娘に育ってほしいとの皆の願いどおりに成長してくれました」「この人形が我が家に来た日、父は孫と満面の笑顔を見せて喜んでいました。しかし、その頃より父の身体は病に冒され二度とこの人形を見ることがなく、その年の夏に亡くなりました」。
中にはいまはない雛人形にまつわる思い出を綴ったものも。「物のない時に巡り合わせた娘の為に、和裁の腕を生かして母が縮緬の布で『唐子人形』『うさぎ』『ねずみ』などを作り、紙雛の三段飾りで祝ってくれた。私にはそれが最高のお雛様だったことが今も懐かしく思い出される。その時のお雛様がもしあれば、ここに飾られたのに……。ちょっと残念である」。繰り返し読んで、母の娘への深い愛がじ~んと心に染みた。
昨年の年末、自宅を全焼したものの唯一燃え残っていたというお雛様もあった。「母が大阪まで行って一番お顔のきれいなお雛様を買い求め、お祝いしてくれたものでした。亡き母がしっかりと火事の中、守ってくれていたように思われてなりません」。中には何十年も押し入れで眠っていたものも。晴れ姿をみんなに披露することができたお雛様は、どれも生き生きとして喜んでいるように見えた。