【中国原産、夏目漱石「余も木瓜になりたい」】
バラ科ボケ属の低木で、春の訪れを告げるため「報春花」や「放春花」と呼ばれる。中国原産で日本には平安時代に渡来した。果実がウリに似ており、木に成る瓜ということで「木瓜」となった。ボケはその漢名の読み「もっけ」から転じたとも、古名の「毛介(もけ)」が訛ったものともいわれる。同属で日本在来種に背丈が低い「クサボケ(草木瓜)」がある。別名「シドミ」「ノボケ」。
ボケといえば鮮やかな緋色というイメージが強い。「緋木瓜」という品種を最もよく見かけるためだが、白や紅白の咲き分けなどもある。「白木瓜」は花が純白、「淀木瓜」は大輪の濃紅色、「更紗(さらさ)木瓜」は白と紅の混色、「香篆(こうてん)木瓜」は枝がねじ曲がり淡い紅花。ボケ愛好者でつくる「日本ボケ協会」は毎春、新潟県秋葉区(全国最大のボケ生産地)で「日本ボケ展」を開く。36回目の今年は3月1~10日に開かれ、1万5000鉢ものボケが展示即売されたという。
群馬県太田市の源義経ゆかりの冠稲荷神社には樹齢400年ともいわれるボケの大樹がある。高さ3.5m、根周り3mで樹形は大きな半円形。県の天然記念物に指定されている。品種は「緋木瓜」で、毎年4月上旬から5月にかけ紅色の花を無数につける。古くから「子宝伝説」があり、子育てや縁結びを祈願する参拝者も多いそうだ。
文豪夏目漱石はボケファンだったという。「草枕」にこう記した。「木瓜は面白い花である……評して見ると木瓜は花のうちで愚にして悟ったものであろう。世間には拙を守るという人がある。この人が来世に生まれ変わると、きっと木瓜になる。余も木瓜になりたい」。要領は悪くても愚直に自らの生き方を貫きたい――。漱石はそんな思いを俳句にも残した。「木瓜咲くや漱石拙を守るべく」。