【ハルコガネバナ、アキサンゴの別名も】
早春の花には菜の花、タンポポ、マンサク、ロウバイなど黄色のものが多い。このサンシュユもその1つで、葉に先駆けて小枝の先に20~30個の黄色い小花の固まりをつける。趣は和風だが、原産地は朝鮮半島~中国。今から300年ほど前の江戸時代享保年間(1720年ごろ)に朝鮮から種子が渡来し、東京の小石川植物園で栽培されたのが始まりという。
サンシュユは山のグミを意味する漢名「山茱萸」の音読みといわれる。ただサンシュユは中国では「野春桂」と呼ばれ、山茱萸は別の植物という説もある。植物学者・牧野富太郎博士は和名を「ハルコガネバナ(春黄金花)」と名づけた。「アキサンゴ(秋珊瑚)」や「ヤマグミ」の別名も持つ。秋になると長さ1.5cmぐらいの真っ赤なグミに似た実をつけることによる。
実は乾燥させて滋養強壮薬として用いられる。16世紀に出版された中国の漢方書「本草綱目」にもその薬効が詳しく記されているという。冷え性や頻尿、脚気、頭痛、めまい、耳鳴りなどに効果があるそうだ。薬用酒の材料としても利用される。欧州中部~西アジア原産のものに「セイヨウサンシュユ」がある。花や実がサンシュユよりやや大きく、果実酒やジャムに使われる。
サンシュユはハナミズキやヤマボウシと同じミズキ科の落葉小高木で、生け花や茶花の素材として珍重され、庭木や公園木として好んで植えられてきた。奈良県はサンシュユの切り花栽培が盛んで、桜井市山田の「サンシュユの丘」や明日香村の八釣の里は開花シーズン、多くのカメラマンでにぎわう。原産地韓国の全羅南道には「山茱萸村」があり、毎年3月ごろ「求礼山茱萸祭り」が開かれるそうだ。「山茱萸の黄や町古く人親し」(大野林火)。