ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

創薬研究と生命科学 思い出話

2021-06-10 10:23:36 | その他
最近昔の同僚とオンラインで話をしたときに、昔の創薬研究の思い出話が出てきました。このところこのブログも新型コロナの話が多くなっていますので、昔の話を少し書いてみます。

プロフィールにも書いていますが、私は有機化学が専門で長いこと創薬研究に携わってきました。薬の研究をしていますと、当然病気についていろいろ調べ、臓器や免疫といった生体のメカニズムも詳しくなっていきます。

これは当然のような気もしますが、実は創薬研究、つまりある病気に効く薬をデザインしそれを作り出していく作業にはあまり関係がありません。

例えば血圧を下げる降圧剤をターゲットにした場合は、やはりなぜ血圧が上がるのかを徹底的に調査をしますが、これは薬が効くかどうかを調べるグループの仕事で、薬を創る我々は別に知っても参考にならないのです。

それでもこういったテーマが決まると、いろいろな部署が集まり勉強会のようなものを開催し、我々も参加します。この時は高血圧を専門にする大学の医師に講師を依頼したり、場合によってはその道の大家と呼ばれる先生のところに伺い、色々話を聴いたりもしました。

こういった経過を経ることによって、私も専門外である血圧についてはかなり詳しくなっていきます。その結果血圧を下げるために何を直接のターゲットにするかが決定するわけです。

この血圧が上がるメカニズムは非常に多く、その詳細は省略しますが、例えばアンジオテンシンという血管収縮作用を持った生体内物質を作らないようにするとします。この合成系は何段階かのルートがあり、そのうちのどこをブロックするかという具体的な課題を検討します。

そうすると評価グループは、その酵素阻害剤をいかに簡便に少量でアッセイする方法を実際に探索するわけです。そして我々も具体的な調査を始めます。

こういった新しい分野に挑戦する場合は、今までに誰もやっていないような、つまり既存薬が存在しないようなところを狙いますが、それに関連するような文献や特許は出ていることが多くなっています。

現在はネットを使って簡単に検索できるシステムがいくらでもありますが、当時はすべて印刷された媒体を自分で探すという非常に時間がかかるものでした。

そういった文献や特許を国内外から集め、そこに出てくる化合物を眺め、どういった構造のものからスタートするかを決定するわけです。ここで最も有機化学者としてのセンスが求められます。

化合物をイメージするだけではなく、何を原料としてどういう工程で合成していくかも考える必要があります。ここで有機化学は経験が重要ということになり、今までにどんな化合物を扱ったかで決まってしまうわけです。

まあこんな感じで新しい創薬研究がスタートしますが、もう少し続きます。