ごっとさんのブログ

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創薬研究思い出話 その2

2021-06-11 10:27:26 | その他
前回ある病気に対する治療薬を開発するためには、まずその病気について徹底的に調べ、治療薬はどんな酵素や受容体をターゲットにするかを決定して行くということを書きました。

これが決まると評価グループはその阻害剤や結合剤をどうやって検出していくかの検討に入りますが、場合によってはその酵素や受容体を単離する必要が出てきますので、これだけでかなり大変な仕事となります。

その間我々合成グループは当たりを付けるためどんな化合物をつくるかのデザインに入ります。この時センスが問われると前回書きましたが、センスというより総合力かもしれません。

非常に面白い化合物をデザインしたとしても、それを容易に入手できる原料(多くは市販品)から何か月もかかって作るようでは探索研究にならないわけです。私の基本的考え方としては、例えば3人で合成した場合、3か月で30種類ぐらい作ることを目安にしていました。

当然実際に合成を始めると、どうしてもうまくいかないなどであきらめてしまう化合物も出てきます。私の経験では30種類ぐらい作ると、2個ぐらいは弱いながらも活性を示す化合物が見つかることが多い気がします。

こういった弱い活性を示す化合物が、全く別のルートから見つかることもあります。研究所として多くの化合物ライブラリー、いわゆる色々なところから集めた化合物をストックしたものがあります。

これは既存の医薬品とかその中間体、以前我々が作った化合物などいわば玉石混交なのですが、評価グループはこういった化合物もアッセイしていきます。するとその中から弱い活性を示す化合物が見つかることもあるわけです。

この化合物ライブラリーはいわば研究所の財産ですので、我々もこれを増やす努力をしており、当時で数千の化合物が登録されていましたので、現在は1万を超えていると思われます。しかし現実的にはこの中から活性化合物が見つかる可能性は非所に低くなっています。

さて見つかった弱い活性を示す化合物を母核(親化合物)として2種ぐらい選択し、この活性を高める探索研究の新たな段階に入るわけです。

ここからは数が勝負となり、どんなに考えて良さそうな方向に行ったとしても、大体が突然強い化合物が見つかるという偶然のようなものです。当然構造活性相関というような解析は常にしていますが、徐々に良い方向に向かうという経験はありません。

これは薬の多くはタンパク質でできた酵素や受容体にぴったり入るかどうかですので、ある特別の形だけが良いという経緯を経るのだと考えています。

こんな感じで進むのですが、もう少し続けます。