ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

ゲノム編集された作物が食卓に

2019-04-15 10:20:51 | 自然
植物の品種改良は、はるか昔から行われてきましたが、ここ数年で開発された強力なゲノム編集技術によって、非常に短時間でこれまでにないほど正確な遺伝子操作を行うことが可能になっています。

遺伝子の組み換えが主流だった黎明期と比べると雲泥の差で、第1世代の遺伝子組み換え作物について回った負のイメージと厳しい規制は、すでに過去のものと言えそうです。

大小さまざまな企業がこの技術を利用して、気候変動に対応したカカオや粘度の高いコーンスターチを得られるトウモロコシなどの開発に取り組んでいます。

アメリカの食品企業が2月から、ゲノム編集によって品種改良したダイズから採取した大豆油「カリノ」の販売を開始しました。健康に悪影響を及ぼす飽和脂肪酸の含有量が一般の大豆油より少ないほか、トランス脂肪酸は全く含まれていません。

カリノは小売店の店頭で売られているわけではないのですが、レストランなどには販売されており、消費者はすでに口にしていることになります。またこの大豆油は、心臓病の予防に良いとされるオリーブオイルと同じような組成を持ちながら、オリーブオイルに特有の癖の強いにおいがないようです。

こういった風味については好みが分かれますが、このカリノが遺伝子操作による植物の品種改良の歴史において重要な転換点であることは間違いありません。

カリノの原料の大豆は人類史上初めて、収穫の効率化や天候不順に対処するためではなく、消費者の健康に合わせて手を加えられた遺伝子組み換え作物と言えます。

この会社は大豆以外にも、食物繊維の含有量が多くグルテンが少ない小麦や、低温で保存してもデンプンが糖に変化しないジャガイモの開発を行っています。同時に健康面ではなく、栽培の利便性に焦点を絞った研究も進められています。

昨年8月には、除草剤への耐性がある大豆とアブラナの研究に使うためのアルファルファが収穫されています。

この会社の研究者は植物の種子を選別し、シャーレの培地で胚細胞を培養します。この細胞に根と葉の生育を促すホルモンを注入し、自分たちが設計した通りに遺伝子が編集されているか調べるうえで十分な大きさまで育てていきます。

成功が確認された種子は、光や温度など生育のための条件を整えた苗床に植えられ、そこからさらなる試験を経て温室に移されます。このように通常の品質改良や遺伝子組み換えより、はるかに容易に目的とする植物が作り出せるようです。

アメリカ農務省はいまところ、ゲノム編集作物は遺伝子組み換え作物とは異なり、規制を適用しないようです。こういった作物はまだ日本には入っていませんが、遺伝子組み換えでの危険性?が全くないゲノム編集作物が出回るのは時間の問題のようです。

自己免疫疾患のCAR-Tによる治療

2019-04-14 10:26:49 | 健康・医療
日本でもB細胞性白血病に発現しているCD19を標的にして、CAR-T治療が認可されました。

CAR-TとはC(キメラ)、A(抗原)、R(受容体)を略したもので、白血病の細胞表面に発現しているCD19に対する抗原結合部位と、T細胞を活性化する刺激を伝えるT細胞受容体部分が一つになった分子をコードする遺伝子を導入した自分のT細胞のことを意味します。

これを導入されたT細胞は、CD19抗原を持っている細胞ならすべてを殺すことができます。白血病に限らず、B細胞はすべてこの抗原を発現していることから、一度CAR-Tを注射すると白血病が新たに増えても次々殺してくれることが期待できます。

このようにCAR-Tの魅力は、ガンに発現する抗原からガン細胞を殺すところまで一手に引き受けてくれるところにあります。これまでの報告を総合すると、様々な治療に反応しなくなった末期の白血病でも、CAR-Tは5割以上の白血病の増殖を抑えることができます。

しかしCD19抗原は正常なB細胞にも発現しており、ガンだけでなく正常のB細胞を殺すことは予想されていました。事実CAR-Tを移植された患者では、ほぼ完全に正常B細胞が消失しています。

ガン治療から考えると正常B細胞が消えてしまうことは副作用になりますが、この副作用を逆転させて作用にできないかを考えたのがテネシー大学の研究チームです。

免疫システムが自己の成分に対して炎症を起こすことで生じるならば、免疫システムの重要な一員であるB細胞を除いてしまえば、自己免疫疾患を抑えることができるという発想です。

全身性エリテマトーデス(SLE)は、自分自身の免疫システムが誤って自分の正常な細胞を攻撃してしまうという難病です。この発病に様々な自己抗原に対する抗体がつくられることが関わっていると考えられ、B細胞を除去することでSLEを治療できるのではと考えられてきました。

SLEのモデル動物としてNZWマウスを用い、CD19を標的とするCAR-Tを準備し、これを自己免疫病が発症したマウスに注射しました。

すると期待通りMRLマウスはCAR-T注入で見事にB細胞は完全に消失し、SLEの指標である抗DNA抗体は11週からほぼ完ぺきに抑えることができました。マウスの生存曲線を見ると大体6~7割のマウスが長期生存しました。

また症状の点でも尿にタンパク質は全く検出されず、脾臓肥大が治り、腎臓や皮膚の病理像が大幅に改善しました。

このデータはおそらく人間でもすぐに治験に入れそうですが、作り続けられるB細胞をCAR-Tが殺していくというサイクルをどこまで続けるかなど課題は多そうな気がします。

高齢化する「引きこもり」問題点は

2019-04-13 10:26:21 | 時事
高齢化する「引きこもり」について、最近注目される記事が出ており、中高年の引きこもりは推計61万人余りで、39歳以下を上回るというものです。

これは単なる人数だけでなく、引きこもりの期間やその定義なども掲載されていました。若者の引きこもりが問題になってかなり立ちますので、そのまま高齢化が進んでいるとしたら、非常の厳しい状況と感じました。

ところがこの調査方法を詳しく調べると、本当に信頼できる数字かという気もします。内閣府は引きこもりの実態を把握するために、若者を対象に調査してきましたが長期化する人が増えていることから、昨年12月40歳から64歳を対象とする初めての調査を行い、全国の男女5000人のうち3248人から回答を得ました。

調査で自室からほとんど出ないや、趣味の用事の時だけ外出するなどの状況が半年以上続いている人を広い意味での「引きこもり」と定義した結果、これに当たる人の割合は1.45%となりました。

これが内閣府の調査結果ですが、予算の問題なのか社会的にそれなりに希少な属性についてアンケート調査をやっており、本当にその数字をベースに考えて大丈夫なのかという部分があります。

引きこもりのように社会的に切り離されてしまっているかもしれない家庭については実数を測定するのが難しいので、アンケートによって有効回答から割合を調べるという方法になるのも分かりますが、今回のように1.45%しか該当せず、振れ幅が大きくなり実態調査としてはもう少し丁寧な方法を考えるべきだと感じます。

今回の有効回答数が3,248人のうち、広義の引きこもりに該当する回答は「47人」であり、全体の1.45%です。その40歳〜64歳の人口は4200万人なので、これをかけておおむね61万人と推計したわけです。

やはりこの数値は予備調査的な意味しかないような気がします。実際は色々なマスメディアも「61万人」という数値で報道していますので、いわば独り歩きしてしまっている状態と言えます。

これをもとに80代の親が50代の子供の面倒を見るといった「8050問題」なども話題になっています。確かに高齢の引きこもりは相当数いるはずで問題であることは確かですが、何か対処するとしてもある程度は正確な人数の把握が基本だと思われます。

特にこういった「引きこもり」は、本人や家庭環境によってケースはバラバラになっています。若者の引きこもりなども含めて、対応は本当に難しそうですが、何かしないといけないような人数であることも確かなようです。

「親の責任」だけでは片づけられない、社会問題と言えるような気もします。

血小板と肝臓病との関連

2019-04-12 10:48:15 | 健康・医療
血液検査で必ず測定される血小板の数値と、肝臓病とに関連があるという記事を見ましたが、私も初めて見る内容でどの程度科学的に立証されているのかは怪しい気もします。

転んで擦り傷ができて出血しても、しばらくするとカサブタができて出血は止まります。カサブタは傷口をふさぐノリのような働きをしていて、その中心的な役割をなすのが血液中を流れている血小板です。

傷は表皮のほかあらゆるところででき、風邪をひいてのどの炎症で出血したり、花粉症で鼻の粘膜が充血して鼻血を出したりします。仕事や家庭のストレスによる胃炎で出血することもありますが、いずれも血小板が止血してくれます。

基準値は1マイクロリットルあたり12万~40万個(以下12~40と記載します)と幅が広いですが、健康な人なら一般に20以上となっています。

40より多い時は、慢性骨髄性白血病や腸の炎症、関節リウマチのほか肺や胃のガンが疑われます。過剰な血小板は強固なノリを生むため、血が固まりやすくなり血栓症の原因になります。

血栓症は心筋梗塞、脳梗塞などですが、血管に傷ができると血小板の数が正常でも発症し、これは血管にできた傷をすぐに修復しようとする身体の反応が逆効果になるわけです。

血小板が少ない時は、急性白血病やHIV、悪性貧血などが考えられますが、見逃せないのが肝臓との関係です。

肝機能の低下と血小板数の低下は連動しているようです。20未満は軽症の肝炎で、17未満は中程度、15未満は重症になり、13未満は肝硬変に突入し、10未満で肝臓ガンの可能性が高いとされています。

血小板のベースとなるタンパク質は、80%が肝臓で作られるため、飲み過ぎや食べ過ぎによる脂肪肝などで肝臓が持続的に炎症にさらされると、血小板の合成が減り血小板が少しずつ減っていくようです。

酒を飲む人はγ-GTPを気にしますが、血小板の数値も注意する必要があります。特に酒に強い人ほどγ-GTPに異常は出ず、じわじわと血小板の数値が減少していることがあると言います。

私は2月に健康診断(市の補助がある)を受け、その時の血液検査では血小板は31.6でした。これは正常値の中ですが、この正常値が13.1~36.2となっておりかなり幅広いだけでなく、この記事では重度の肝炎という14でも正常値に入ってしまいます。

多分肝硬変になった患者は血小板が13程度まで下がるということで、13になったから肝硬変ということでは無いような気がします。

このように血液検査などの結果の数値を見るのは、単に正常範囲にあるかどうかではなく、何年間かを比較してどういう経過になっているかで判断するのが正しいような気がします。

私は検査結果を一応保存してありますが、あまり過去と比較したこともありませんので、念のためじっくり見てみようと思っています。

苦戦が続く認知症治療薬

2019-04-11 09:46:39 | 
最近大手製薬会社バイオジェンとエーザイは、開発中のアルツハイマー病治療薬「アデュカヌマブ」の臨床試験を中止すると発表しました。

認知症の最大の原因となっているアルツハイマー病には、現在のところ病気の進行そのものを抑える根本治療薬は開発されていません。アヂュカヌマブは今度こそ第1号になると世界中で注目されていたものでした。

アルツハイマー病の原因として疑われているのがアミロイドベータという物質で、これが脳にたまると神経が傷つき脳の働きを衰えさせるのではないかと考えられています。

2016年に報告された研究では、アヂュカヌマブを使うと、脳にたまったアミロイドベータが減り、しかも薬の量を増やせば増やすほど減り方が大きいことが示されました。さらに投与を受けた人の中には、アルツハイマー病によるものと思われる症状(認知機能テストの点数の低下など)の進行が抑えられた人がいました。

この結果を受けて治療薬としての承認を目指し、多くの人に使って効果を検証する臨床試験を行っていたのですが、そのデータは予想に反して「十分な効果は見込めそうにない」ことを示しており、試験の中止を決定しました。

ここ5年ほど、アルツハイマー病治療薬の開発を目指した試みは、連戦連敗を続けており、このブログでもいくつか紹介しています。

世界の大手企業が巨額の予算をかけて薬剤を開発し、動物や少人数の試験で期待できるような結果が現れ、チャレンジした臨床試験で「効果なし」という結果に終わるということが相次いでいます。

これまでくり返された失敗に関しては、様々な理由が提唱されています。有力なものとして薬は早期に投与しなければ効果が出ないのでは、というものがあります。そこでアヂュカヌマブの臨床試験は早期の人や、軽度認知障害の人を対象として選んでおり、効果を示しやすいと考えられていました。

こういった成功を期待できる状況が積み重なっていた中での失敗のニュースは、驚きと失望の思いが広がりました。

アルツハイマーの原因であるアミロイドベータ説が提唱されたのは、2000年代の初頭のことで、それか20年近くこの仮説に基づいた治療薬開発が進んできたわけです。ここにきてアミロイドベータ説が正しいのかという疑いさえ広まっているようです。

しかしこの説の否定は、長年の研究の蓄積を根底から覆すものになりかねず、簡単に議論できものではありません。認知症が単なる老化現象ではなく、病気の一種として治す可能性があるというのは大きな進歩と言えます。

ただアミロイドベータが長年かけて蓄積し発症することや、認知症の定量的診断ができないといった難しさはありますが、薬の元研究者としてもなんとか開発を続けてほしいものです。