ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

注目を集めるミミズの酵素

2019-04-20 09:35:44 | 
ミミズは地面をうねうねとはい回るどちらかというとグロテスクな生物ですが、魚の餌として釣りをしていたころはなじみのものでした。

見た目にはあまり感じの良いもではないし、庭に芝生を植えている家庭では厄介者となっているようです。そんなミミズが今血栓を溶かす働きのある酵素を含むとして、健康補助食品の分野で注目されています。

奈良県の製薬会社では、ミミズの養殖を行っておりクリーンな養殖場で菌を体外に出し、いわばきれいなミミズとして養殖しているようです。

もともとミミズには土壌を扶養化すると言われており、そのためにミミズを養殖している農家はかなりありました。この製薬会社では年間に養殖で確保する量は30トン以上で、ミミズとして約750万匹に相当するようです。

この製薬会社は明治15年創業で、戦後まもなくミミズを原料とする風邪薬の販売を始めました。このミミズの外皮には解熱・鎮痛作用がある成分が含まれていますが、内臓部分は捨てるしかなく、これを活用する方法を模索していました。

このとき干からびたミミズの死がいはよく目にするのに、水分を含んだ死がいは見たことがないということがヒントとなりました。そこでミミズの死がいを水につけ、放置する実験を行ったところ、数日後ミミズは溶けてなくなってしまいました。

つまりミミズの持つ消化酵素によって、完全に分解されたことから、ミミズの内臓にはタンパク質を溶かす酵素があることが判明しました。

また宮崎医科大学と共同研究を行い、ミミズに含まれる酵素である「ルンブロキナーゼ」に血栓を溶かす働きがあることを突き止めました。このルンブロキナーゼの実験では、現在治療に使われるウロキナーゼよりもフィブリン溶解活性が高いという結果が示されています。

また動物実験ではこの酵素自身が線溶(フィブリンの溶解)するだけでなく、動物や被験者の持つ繊維用活性酵素を分泌させる(内因性線溶活性)ことが実験結果から推測されています。

またこの酵素は糖尿病にも有効とされていましたが、どのようなメカニズムで病態を改善したのかは不明で、治験のサンプル数も少ないことから有効性を疑問視する声も出ているようです。

こういったことからミミズを使って血栓症や脳梗塞の治療薬開発も乗り出したのですが、莫大なコストがかかることから断念しています。代わって医薬品ではないのですが、ミミズをすりつぶした粉末サプリメントの開発に力を入れ、平成8年に健康食品の販売を開始しました。

それ以後各社もこの分野に参入し、ミミズ粉末のサプリメントはかなりの品目になっています。このミミズにはまだ明らかにされていない部分もあるようで、近年この研究がますます盛んになっているようです。

ペニシリン発見者のすごい想像力

2019-04-19 10:21:09 | その他
50年ほど前まで、人類は細菌との戦いに全く無力で、指先の小さな傷などから細菌が入り、命を落とすことも稀ではありませんでした。

この状況を一変させたのが、抗生物質「ペニシリン」の発見で、近代医学の勝利ともいえる世紀の発見ですが、このフレミングについて面白い逸話が出ていました。

1922年イギリスの科学者フレミングが、細菌を培養する実験をしていました。その時くしゃみをしてしまい、鼻水がシャーレの中に飛び散ってしまいました。ところが翌日見てみると、鼻水の周囲だけ細菌が増殖していないことに気づきました。

フレミングは、鼻水だけでなく涙や唾液などにも殺菌効果がみられることを見出し、酵素の働きによるものだろうと推定しました。この酵素をを分解酵素の意味を込めて「リゾチーム」と命名し、成果を論文に発表しましたが、全く注目されなかったそうです。

現在ではリゾチームは、溶菌酵素として風邪薬などにも配合される一般的な有用酵素となっていますが、この発見者(命名者)がフレミングであるとは知りませんでした。このリゾチームの研究が、その後ペニシリン発見へと大きく貢献することになりました。

1928年フレミングはブドウ球菌の培養に使ったシャーレを、流しに放置したまま旅行に出かけました。シャーレは消毒液に浸してありましたが、山のように積みあがっていたため一部が消毒液からはみ出していました。

休暇から戻るとはみ出していたシャーレにアオカビが生えていましたが、よく見るとカビの周囲だけ細菌が増殖していないことに気づきました。

その時彼の脳裏にリゾチーム発見時の記憶がよぎり、鼻水に抗菌作用があるなら、カビもまたそうではないのかと気付いたわけです。このカビはペニシリウム属に属するものだとわかりましたので、抗菌物質を「ペニシリン」と命名して発表しました。

これがやがて何百万もの命を救うことになる大発見が、世に明かされた瞬間でした。このカビをコンタミさせたことによってペニシリンを発見したというのは、教科書的な有名な話ですが、リゾチームの件がからんでいるというのは知りませんでした。

この話は最近セレンディピティの良いモデルとしてまた取り上げられていますが、大発見というのはちょっとしたミスや偶然がからむことが多いような気がします。

フレミングは後年、「私は細菌で遊ぶ」と語ったほど、喜々として細菌でいろいろな実験をして、珍しい現象を見つけては喜んでいたようです。

その旺盛な好奇心とちょっとずぼらな性格が、「奇跡の薬」の発見の糸口となったのは面白い事と感じています。

自覚症状のない「隠れ脂肪肝」

2019-04-18 10:08:57 | 健康・医療
肝臓へ中性脂肪が過剰に蓄積されている「脂肪肝」は、飲酒習慣のある人がなりやすいとされてきた症状ですが、近年食べ過ぎや運動不足を原因とする患者が増えているようです。

自覚症状もなく健康診断でも分からない「隠れ脂肪肝」の人は国内で1000万人近くいると指摘する声もあります。脂肪肝は放っておくと肝硬変や肝臓ガンに進行するだけでなく、他の臓器や血管のガンになるリスクも高めることが最近の研究で分かってきました。

健康な肝臓の場合、非常時の栄養供給源として細胞の3~4%に中性脂肪が蓄積さています。脂肪肝は肝臓の細胞の5%以上に中性脂肪が蓄積された状態を指します。

脂肪肝自体は、生活習慣の改善などで健康な状態に戻すことができますが、放置した場合が問題となります。

脂肪肝のうち2割程度は肝臓の炎症につながり、炎症を起こすと肝臓の細胞の一部が壊れます。壊れた肝臓の細胞は修復されますが、それを繰り返しているうちにだんだん線維化(硬化)が進行し、肝臓が硬くなり、肝臓全体が網の目状の線維に埋め尽くされた状態が肝硬変です。

こうなると健康な肝臓に戻ることは極めて難しく、肝機能が低下するだけではなく、肝臓ガンの発症の可能性も高まると考えられています。脂肪肝の間なら健康な肝臓に戻れますが、肝硬変や肝臓ガンに進行すると後戻りできません。

肝臓は本来再生能力が高く、病気になっても自覚症状が現れないことが多いため、「沈黙の臓器」とも呼ばれています。特にアルコール性ではない脂肪肝のうち、半数以上は血液検査に表れないようです。

血液検査の肝機能の数値は、脂肪肝を直接見ているわけではなく、細胞のダメージを見ています。アルコールが原因の場合は、その毒性から細胞のダメージが大きいので数値となって表れやすいのですが、食べ過ぎや運動不足による脂肪肝は、比較的細胞の破壊が少なく、数値に出ない場合が多いとしています。

2017年にアメリカヂューク大学の研究者が発表した調査によると、脂肪肝患者の4人に1人が炎症を伴う脂肪肝炎を発症し、その内25%が肝硬変に進行し、さらにその25%に肝臓ガンが発生するといいます。

この隠れ脂肪肝を検査する方法として、超音波を使って肝臓の状態を調べる最新機器「フィブロスキャン」が開発されました。しかし設置している医療機関は限られ、日本全国でも100施設程度しかありません。

通常の超音波検査は、肝臓の約30%で脂肪化が進んでいないと脂肪肝と識別できないようです。このように自覚症状もなく検査でも見つかりにくい「隠れ脂肪肝」ですので、生活習慣を改善するしか方法がないようですが、これもよく言われる割には実現は難しそうです。

私は現在の生活習慣を変える気はありませんので、肝臓が頑張ってくれることを祈っています。

断食で若返り遺伝子活性化

2019-04-17 10:22:02 | 健康・医療
70歳でも50代に見られる人もいれば、逆に歳よりも老けて見える人もいます。そのメカニズムが長生き・若返り遺伝子と呼ばれる「サーチュイン遺伝子」にあることが分かっています。

私はこの遺伝子については全く知りませんでしたが、サーチュイン遺伝子を活性化するには「断食」が効果的なようです。

成田山新勝寺などでは、2泊3日〜6泊7日の間、水以外は一切取ってはいけない断食参籠修行などが行われており、これはもちろん心身鍛錬のためですが、この断食が健康にとって有効だという報告が出ています。

アメリカインターマウンテン医療センターが興味深い報告をしています。同地ではモルモン教徒が人口の6割を占めていますが、教義上毎月初めの安息日は水以外を口にしません。

信者たちを調べてみると、同じ地に暮らす一般住民に比べ、心臓病の発症率が39%、糖尿病は52%も低いことが分かりました。これが1カ月に1回の断食でこれだけの違いが出てくると分析しています。

金沢医科大学の研究チームがマウスを使ってミトコンドリア制御による抗老化対策を調べてみたところ、サーチュイン遺伝子に新しいミトコンドリアを増やすスイッチの役目があることが分かりました。

老化に伴いミトコンドリアは減少しますが、サーチュイン遺伝子を活性化させれば老化のスピードを遅らせることができ、その手っ取り早い方法が断食というわけです。

研究チームはこれが人間にも当てはまるのか、次にヒトで実験しました。必要摂取カロリーから25%減らした食事を7週間続けたところ、サーチュイン遺伝子の働きが最大で10倍、48時間の断食でも2~4倍増加しました。

このサーチュイン遺伝子は免疫細胞を活性化させたり、血液の老化、傷ついた遺伝子の修復機能も考えられるようです。サーチュイン遺伝子が筋肉や血管などさまざまな細胞に働けという指令を出すのですが、この遺伝子は空腹のときにしかスイッチが入りませんので、断食をすればよいということになるわけです。

この断食の期間をアメリカイリノイ大学が調査しましたが、夜6時以後朝10時まで(16時間)何も食べないと、12週間で体重が平均3%、最高血圧が7mmHg低下しました。この調査ではカロリー制限がなく、それ以外の時間は好きなだけ食べてよいことになっていました。

この断食の効果が、本当に科学的に証明されたかはやや怪しい気もします。もう私の歳では効果があるかどうか確かめるのは難しそうですが、簡単にできることでもあり少しやってみる価値がある報告なのかもしれません。

トリカブトの根から治療薬

2019-04-16 10:05:27 | 
名古屋市立大学の研究グループが、神経の損傷で起きる慢性的な激しい痛み「神経障害性疼痛」を抑える化合物をトリカブトの根から発見しました。

これはより効果的な治療薬の開発につながることが期待されています。神経障害性疼痛は、切り傷や抗がん剤の副作用などで神経が傷つけられると発症し、ドアノブに触るだけでも激しい痛みを感じるような病気です。

国内で患者は600万人以上と推計され、モルヒネなど既存の鎮痛薬が効きにくく、効果的な治療薬が求められています。

トリカブトはキンポウゲ科の植物で、ドクウツギやドクゼリと並んで二本の三大有毒植物のひとつとされています。この主な毒の成分としてはアコニチンというジテルペン系のアルカロイドに分類される化合物ですが、類似の有毒物質が多く含まれています。

研究グループは、鎮痛薬のひとつとして知られる、トリカブトの根を加熱減毒処理した市販生薬「加工ブシ」に注目しました。これまでの動物実験で神経障害性疼痛の有効とのデータはあったものの、どの成分が作用しているかは不明でした。

今回マウスを用いた実験で加工ブシに含まれる化合物「ネオリン」により、神経障害性疼痛が改善することが判明しました。抗ガン剤の成分を注射して疼痛を起こしたマウスにネオリンを与えると、数日で改善傾向を示しました。

ネオリンはトリカブト毒のアコニチンに類似の構造を持っていますが、毒性はかなり低減しているようです。古くからトリカブトのような毒性植物は、人間に対して生理作用があり、それをうまく利用し毒性の出ないような生薬として使われてきました。

トリカブトの塊根を乾燥させたものを「附子(生薬としてはぶし、毒として使うときはぶす)」と呼ばれています。余談ですが、俗に不美人のことを「ブス」といいますが、これはトリカブトの中毒で神経に障害が起き、顔の表情がおかしくなったのを指すという説もあります。

さてこういったネオリンのような天然物が有効であることを知ると、私のような有機化学者は安価な原料から合成できないかを考えるのですが、この化合物は分子量もやや大きく複雑で不斉炭素も多いため、とても有機合成では作れそうにありませんでした。

やはり植物のトリカブトからの抽出が良さそうです。ただしトリカブトは株によってネオリン含量にばらつきがあり、その要因はわかっていないようです。

研究グループは、有効成分が分かったので、含有量の多いトリカブトを見つけ、より効果的な治療薬を作りたいとしています。