新アララギ 2017年9月号より
・カッサンドルのポスター画見て憧れき巨大客船ノルマンディー号のその船旅に
・真正面に吃水線より舳先仰ぐ構図は北斎に学びしものか
・船の安定感機関車の力感描き切り二十世紀のアートみちびく
・デュルマックの紫煙描けるポスターにトルコ煙草の香のよみがえる
・トルコ巻きの煙草なにゆゑ楕円形ゲルベ・ゾルテを吾は好みき
・創造と破壊いく度も繰り返し巴里にて自死す栄光の人
新アララギ 2017年9月号より
・またしても同じこと考へて同じ結論になりて終りぬ
・ことしまた朝顔の蔓に縋りつき縷紅草は小さき花を付けをり
・老木と間違へたるかわが肩に蝉は止まりてしばし居りたり
・幼きも小さきリュック背負ひゐて一家五人帰省するらし
・入院も退院も一人でして来たと友は然り気なく電話にて言ふ
・遠き世の古文書今も残れるに現代の記録はたちまちに無し
三谷和夫:東洋一の煙突の折れ死者千人の被害を報ぜず戦時の地震は(新アララギ2017.9)
佐々木フミ子:義母の賜びし桐下駄履あず二十年はからずも下ろす作務衣に合はせて (新アララギ2017.9)
木村和子:三月前友が逝きしを今日知りぬ家族葬とぞ知らず過ぎにき(新アララギ2017.9)
千葉照子:籠背負(しょ)ひて姉さん被りの媼ゐて「滝はあつち」と声掛け呉れぬ 大多喜・養老渓谷(歌会2017.9)
須田博:夏蝉の儚き命に遠き日の戦に逝きし学徒を想ふ(歌会2017.9)
今野英山:縁側に湯茶ならべたる老いの家来るか来ぬかは気にも止めずに(新アララギ2017.9)
高橋毬枝:奈良の鹿と遊びし父母の温き貌小さき額に納め飾りぬ(新アララギ2017.9)
山崎日出男:あちこちに裸木(らぼく)と為りし日田杉は朝陽(あさひ)に輝き木肌美し(歌会2017.9)
麦島和子:*八か月の孫は必死に声をだし応える我に語りかけくる(歌会2017.9)
岸野トモヱ:*おとなしくお利口さんで生きたはず誰にも言うなと言い残し逝く(歌会2017.9)
大倉康幸:*活力は負けず嫌いから生まれ出るとにかく前に進まんとする(新アララギ2017.9)
小那覇暁美:*そうすれば身体(しんたい)からは汗ひとつほら一つずつほら一つずつ(歌会2017.9)
相川盈子:*読み難きわが名を父は悔いたるか妹はすんなり幸子と名付く(新アララギ2017.9)
宮本通代:喧噪とビルの高きに囲まれて江戸城跡の大奥辺り(新アララギ2017.9)
葛岡昭男:*郷に吹く風は稲穂に優しくて祭りばやしが杜より聞こゆ(新アララギ2017.9)
渡辺澄子:*日焼けしてスラリと伸びたつま先にネイル煌めく江の島の磯(歌会2017.9)
石川芳江:*人住まぬ家の庭隅すずらんの花俯いて寄り添いて咲く(歌会2017.9)
手賀沼湖畔の「文学掲示板」、10月は当短歌会の作品です
手賀沼湖畔文学の広場にある「文学掲示板」、2017年10月は手賀沼アララギ短歌会の歌が6首掲載されます。
・背の鰭の数多簪きらめかせ舞う簑笠子大夫の趣(柏 渡辺澄子)
・草被ひ分け入ることもせぬ庭に今は薄紅の秋海棠咲く(つくば 宮本通代)
・沼の汚染減れども鳥も魚も減りこふのとり呼ぶは夢のまた夢(我孫子 三谷和夫)
・幟立つる鎮守の森のイラストに同窓会の知らせ届きぬ(流山 葛岡昭男)
・誰を恋ふ吾にてあらむ風に揺らぐ竹叢をしばし見上げてゐたり(取手 木下和子)
・三年後実のなる葡萄を植えし叔父九十となるも気は衰えず(館山 相川盈子)