地球温暖化をめぐるありがちな10の誤解
「人間が地球の気候変動を引き起こしているのかどうかに関 して、科学者の意見は一致していない」 実際には、科学的な意見は「人間の活動が地球の気候を変えてい る」ということでしっかり一致している。圧倒的多数の科学者が、 「地球はどんどんと暖かくなっており、この傾向の原因は人間であり、 温室効果ガスを大気中に排出し続ければ、温暖化はますます害を 及ぼすものになる」ことに合意している。
「気候に影響を与える可能性のあるものはたくさんある。だか ら、二酸化炭素だけを取り出して心配すべき理由はない」 気候は、太陽の黒点や水蒸気など、二酸化炭素以外にもさまざま なものの影響を受けやすい。しかしこのことは、私たちが二酸化炭素 などの人間の影響による温室効果ガスに真剣に気をつけなければな らないことを示しているにすぎない。「歴史を通じて気候システムはつ ねに、さまざまな自然の変化に影響を受けやすいことがわかってい る」ことは、危険信号として受け取るべきである。私たちは、自分たち がもたらしている前例のない大きな変化にしつかりと注意を払わなく てはならない。私たち人間は、自然のいかなる力よりも大きな力を持 つようになっているのだ
「気候は、時の経過とともに自然に移り変わるものだ。だから、 私たちが今見ている変化はどれも、自然の周期の一環にすぎ ない」 確かに気候は自然に変化するものである。年輪や湖の堆積物、氷床 コアなど、過去の気候の変遷がわかる自然の特徴の研究から、科学 者は、気候が、急速な変化を含め、歴史を通じて変化してきたことを 知っている。しかし、そのような変化が起った際の自然な二酸化炭素 濃度の変動はどれも、私たちが現在引き起こしているものより小さい。 南極の深いところから取り出した氷床コアを調べると、現在の二酸化 炭素濃度は過去65万年間で最高であることがわかる。つまり、私た ちは、自然に生じる気候の変動幅を外れているのだ。大気中の二酸 化炭素が増加すると、気温が上昇する。
「オゾン層の穴が地球の温暖化をもたらしているのだ」 気候変動とオゾンホ-ルの間には関係があるが、こういう関係では ない。大気の上層にあつて、高濃度のオゾンガスによって地球を太陽 の放射から守ってくれているオゾン層に穴が開いたのは、CFC(クロ ロフルオロカ-ボン)と呼ばれる人工化学物質が原因であり、CFCは モントリオ-ル議定書という国際条約で禁止された。オゾン層に穴が 開くと、地表に届く紫外線が増えるが、地球の気温には影響を及ぼさ ない。オゾン層と気候変動の唯一の関連は、この誤解とはほぼ正反対 のものだ。温暖化によってオゾン層に穴が開くわけではないが、温暖 化は実際、オゾン層の自然な修復過程を遅らせてしまう可能性がある。 地球が温暖化すると、大気の下層は温かくなるが、成層圏の温度は下 がる。そうすると、成層圏のオゾン消失が悪化する可能性があるのだ。
「温暖化について、自分たちにできることはない。すでに手遅 れだ」 これは最悪の誤解である。真実を否定してはならないのと同じように、 けっして絶望しないこと。自分たちにできることはたくさんある。ただし、 今すぐに始めなくてはならない。私たちはこれ以上、気候変動の原因 と影響を見て見ぬふりをすることはできない。政府の取り組み、産業 界の革新、個々人の行動を組み合わせて、化石燃料の使用量を減ら さなくてはならない。
「南極の氷床は大きくなりつつある。だから、温暖化のせいで 氷河や海氷が溶けているというまは、本当のはずがない」 南極の氷の中には、大きくなっている部分もあるかもしれない。しか し、南極の大陸のほかの部分は明らかに溶けており、新しい2006 年の研究によると、南極全体では氷が縮小している。たとえ南極の 氷の一部が縮小せず大きくなっていたとしても、だからといって、温 暖化の影響で世界中の氷河や海氷が溶けているという事実には変 わりない。地球全体では、氷河の85%以上が縮小している。そして、 いずれにしても、気候変動の局地的な影響は、科学者が観測してい る地球規模の趨勢を相殺することはない。マイケル・クラントンの小 説「恐怖の存在」のように、ク゛リ-ランドの氷は大きくなっているとい う間違った主張をする人もいる。実際には、NASAからの最近の衛 星デ-タによると、グリ-ランドの氷冠は毎年縮小しており、海水面 の上昇を引き起こしている。1996年から2005年の間に、溶けて 消えた氷は2倍に増えている。2005年だけでも50立方キロメ-ト ルの氷が失われた。
「地球温暖化はよいことだ。なぜなら、寒さの厳しい冬がなくな るし、植物の成長も早くなるから」 この誤った思い込みは、なくなりそうにない。局地的な影響はいろい ろなので、確かに、冬の天気が今よりも快適になる地域もあるかもれ ない。しかし、そのように局地的なよいことがあったとしても、気候変 動のマイナスの影響は、それよりずっと大きい。たとえば、海を例に とろう。温暖化が引き起こす海への変化は、すでに大量のサンゴ礁 の死滅を招いている。サンゴ礁は、人間にまでつながる海の食物連 鎖のあらゆる段階で、生物にエサとすみかを提供してくれる重要な 場所である。氷床が溶けていることから、海水面が上昇している。 もし大きな氷床が海の中に溶けてしまうと、世界中の沿岸帯の都市 は水に沈み、何百万もの人々が避難民となるだろう。こういったこと は、温暖化の影響のごく一部でしかない。ほかに予測されている影 響として、干ばつの機関の長期化、洪水の激化、より強烈な暴風雨、 土壌劣化、大量の種の絶滅、新しい疾病がもたらす人間の健康上 のリスクなどがある。今より望ましい天候を経験できる人が少数いた としても、それはほとんど見えないほど小さな場所でしかない。
「科学者が記録している温暖化とは、単にヒ-トアイランドの 影響であって、温室効果ガスには何ら関係ない」 取り組むより否定するほうが簡単だからと、温暖化を否定したがる 人々は、「科学者か実際に観測しているものは、単なる<ヒ-トア イランド効果>にすき゛ない」と主張する。ヒ-トアイランドとは、たくさ んの建物やアスファルトのせいで、都市に熱がこもってしまう傾向の ことだ。これはまったくの間違いである。気温測定は通常、公園でお こなわれている。公園は基本的に、ヒ-トアイランドの中では涼しい 場所なのである。また、都市ではない地方だけで測定した気温の 長期的な記録を見ると、地方と都市の両方で測定した気温の長期 的な記録とほぼ一致している。多くの科学研究から、ヒ-トアイラン ドは、全体的な温暖化にはほとんど影響を与えないことがわかって いる。
「温暖化の原因は、20世紀初めにシベリアに衝突したいん石 である」 「何ておかしな」と思うかもしれないが、これはロシアの科学者が実 際に提案している仮説である。では、この仮説のどこがまずいのか? 基本的にはすべてである。いん石は、火山の噴火と同じように、その 規模が大きければ、気候に対して当面の影響を与える可能性はある。 しかし、そのいん石が衝突したときやそのあとに、温暖化や寒冷化 が起った記録はない。いん石による影響があったとしたら、水蒸気に かかわるものが考えられる。といっても水蒸気は最長でも2~3年の 間、大気上空に残っているだけである。どのような影響があったとし ても、短期的なものであって、これほど将来にわたって感じられるも のではない。
「気温が上がっていない場所がある。だから、温暖化なんて嘘 っぱちである」 確かに、地球上のあらゆる地点で気温が上がっているわけではない。 マイケル・クライトンの小説「恐怖の存在」では、登場人物たちが、世 界には、気温は若干下がっているか変わっていない場所もあることを 示すグラフをみんなで回して見ている場面がある。このグラフは、実 際の科学者が出した実際のデ-タだ。しかし、そのデ-タが事実か もしれないからといって、上記の誤解を証明したことにはならない。 温暖化とは、温室効果ガスの濃度が上昇することによって、地表全 体の平均気温が上がるということだからだ。気候は想像を絶するほ ど複雑なシステムなので、気候変動の影響はどこでも同じというわけ ではない。地球上の地域によっては、たとえば、北ヨ-ロッパでは、 実際には寒冷化する可能性もある。しかし、だからといって、全体的 には地表の気温も海水温も上がっているという事実は変わらない。 この温度上昇は、衛星デ-タなどの何種類かの測定によって実証さ れている。どの測定を見ても、全体的な結果は同じなのだ。