佐木隆三さんの『身分帳』を読んだ。
この小説を原案とした西川美和監督の『すばらしき世界』を観終えてすぐに読み始め、休みの今日、半分ほどを一気に読み終えた。復刊にあたり彼女が寄せた文の中で「こんなに面白い本が絶版状態にあるとは。世の中はなんと損をしているのだろう。」と語っていたけど、人を殺めた男の物語とわかっていても、確かに面白くて、読む前はその厚さに手こずるかと思っていたのが嘘のように思える。
映画を観た後なので、所々で映画のシーンを重ねていた。小説のまま描かれているところもあれば、西川さんが大胆に構成を変えた部分も。「もしかしたらこのあの場面、あのセリフは…」と想像するのもまた楽しかった。
大好きなドラマ『ちりとてちん』の中でおじいちゃんが語った台詞を思い出した。「おかしな人間が一生懸命 生きとる姿はほんまにおもろい。落語とおんなじや」。そう、山川一は一生懸命生きていたんだ。
終盤、「いちいち腹が立つことばかり」と嘆く山川に対し「それは山川さんが、自分を取り巻くあらゆるものに接点を持とうとするからじゃないですか?」とケースワーカーの井口が語る言葉に、小さな組織で様々なことに関わり、また関わらざるを得ない今の自分を重ねた。そこに映画で下稲葉の妻マス子の山川に向けた言葉が浮かぶ。
佐木さんが田村明義氏の「身分帳」と出会い『身分帳』を執筆し、時を経て西川さんがこの小説と出会い、映画『すばらしき日々』が作られた。田村氏と周囲の人々とのそれも含めて、様々な出会いが重なり、それを受け取れたことが嬉しい。
さて、少し落ち着いたらもう一度映画を観に行こう。
先日映画を観に行った時の動画をアップしてます。