読み終えた本を再び開くことはあまりない。それでも、大半の本は手元に置いておきたい。いつかリタイアして様々に余裕を持てていたら、人々が集いその本を楽しむスペースを作りたい。今の状況では難しいけど、少しずつ準備できたらいい。
先日、瀬尾まいこさんの『その扉をたたく音』を読み、物語に登場する渡部君が気になった。そして、以前読んだ『あと少し、もう少し』を再び読んだ。9年前に読んで以来だけど、読み進めると物語を思い出してくる。それでも、端折って読み進めようとは思えなかった。そして、9年前と同じように、笑い、そして泣いた。
あの時も、陸上部の顧問になった美術教師の上原に魅力を感じたけど、駅伝を走った時の渡部君の心の扉をたたいたのは彼女だったんだなと、改めてその物語の繋がりに風を感じた。
さて、その上原先生の行動や言動に、ふと「内発的動機付け」という言葉を思い浮かべた。彼女の前任の満田先生は、熱血指導で部員を引っ張り、結果に繋げていた。顧問が代わったことで練習に気持ちが乗らないことを描く場面があったけど、社会人でもそういうことは少なくない。僕も「叱責されるのが嫌」など外発的動機付けによって行動していることは少なくない。けれども、あまり詳しくは描かれていないけど、そのシーンに外発的動機付けの限界と、上原先生が吹き込む風を受けて一人ひとりが自ら変わっていく力強さを感じた。
それでも、自分でない誰かがそっと背中を押してくれたり、自分の存在を肯定してくれる言葉を掛けてくれることで、人は前に進むことができる。そう、閉ざした心の扉をたたいてくれるのも。
昨年以降は特に、多くの人たちが人と触れ合う機会を持てずにいるか、少なくなっている。昔の仲間との繋がりを自ら断っていた僕もまた、改めて淋しさや息苦しさを感じている。そんな時に、瀬尾まいこさんの作品は心にやさしい風を吹き込んでくれる。その風を力に今までとは違う場所を目指したいとは思うけど、今はまだ、立ち上がれるだけでいい。
冒頭書いた、将来の朧げな夢に向かい、力を蓄えよう。