恩田陸氏の小説は初めてです。
図書館で、まずどれから読んでみようかな、と迷って手にしたのがこの本でした。題名の優しさと、「常野物語」という言葉に惹かれて(「遠野物語」と似ていたからかもしれません)。
「常野物語」というのは、不思議な力を持つ一族を描いたファンタジーで『光の帝国』が最初に出版され、『蒲公英草紙』は第2弾。そして『エンドゲーム』と続くそうです。私の場合、順番どおりではありませんでしたが、単独で読んでも充分おもしろい作品でした。
今から100年ほど前の東北の農村が舞台で、ひとりの少女の目を通して槙村のお屋敷に関わる人々や、突然現われた「常野」といわれる不思議な一家との出来事が静かに語られていきます。
裕福な槙村家には多くの人々が出入りし、それぞれの登場人物のエピソードがそれほど多く語られているわけでもないのに、彼らの性格や過去、苦悩までが伝わってきます。洋画を描く椎名さん、仏師の永慶様、さまざまな発明をくり返す池端先生、真面目な書生の新太郎さん。生き方も信じるものの違う彼らですが、生きることの真剣さが感じられるのは、日本がそういう時代だったからなのでしょうか。
世紀の変わり目で、農村に住む少女の目から見ても新しい時代の到来の予感が感じられます。一方でなにやらきな臭い世界情勢もうかがえ、ふと今の時代とだぶります。この国はどこへ向おうとしているのか、不思議な物語の根底にはそんな問いが流れているような気がしてなりません。
この作品の中で印象的、感動的に語られているのは槙村家のお嬢様、聡子のことです。語り手である少女峰子は、病弱で外で遊ぶこともできない聡子の遊び相手として槙村家に通うことになるのですが、聡子の持つまっすぐな強さ、不思議な力を感じます。そんな聡子に魅かれ、峰子の、そして聡子にとっても幸せな日々が過ぎていきました。ほんの短い間ではありましたが・・・。
運命の日。今までの穏やかな日々が(いろいろ不思議な出来事はありましたが)ここで一転。緊迫したストーリー展開になり一気に読ませます。そして感動のクライマックス。じわ~っと涙が出てきます。もひとつはっきり理解できてなかった「常野」の不思議な力<しまう>ということが、ああ、こういうことだったのか・・・と納得。
しかし、この物語が感動して幕を閉じるのか、というとそうではありません。
この作品は峰子の思い出という形で語られているわけですが、その峰子も終戦を迎えます。懐かしく幸せだった子ども時代の思い出とはうらはらに、敗戦という現実。物語が美しかっただけに、この結末にはとまどいました。
この国のあり方、というか、どこに向かっていこうとしているのか、という重い問題をつきつけられたようで。
この国には、ほんの100年ほど前にはまだ「美しいもの」や「美しい心」といったものがたくさんあったのだなあ、と思わせてくれる本です。でも、それが今では一体どれくらい残っているのだろう、と思うと・・・。暗澹たる思いになりますね。
図書館で、まずどれから読んでみようかな、と迷って手にしたのがこの本でした。題名の優しさと、「常野物語」という言葉に惹かれて(「遠野物語」と似ていたからかもしれません)。
「常野物語」というのは、不思議な力を持つ一族を描いたファンタジーで『光の帝国』が最初に出版され、『蒲公英草紙』は第2弾。そして『エンドゲーム』と続くそうです。私の場合、順番どおりではありませんでしたが、単独で読んでも充分おもしろい作品でした。
今から100年ほど前の東北の農村が舞台で、ひとりの少女の目を通して槙村のお屋敷に関わる人々や、突然現われた「常野」といわれる不思議な一家との出来事が静かに語られていきます。
裕福な槙村家には多くの人々が出入りし、それぞれの登場人物のエピソードがそれほど多く語られているわけでもないのに、彼らの性格や過去、苦悩までが伝わってきます。洋画を描く椎名さん、仏師の永慶様、さまざまな発明をくり返す池端先生、真面目な書生の新太郎さん。生き方も信じるものの違う彼らですが、生きることの真剣さが感じられるのは、日本がそういう時代だったからなのでしょうか。
世紀の変わり目で、農村に住む少女の目から見ても新しい時代の到来の予感が感じられます。一方でなにやらきな臭い世界情勢もうかがえ、ふと今の時代とだぶります。この国はどこへ向おうとしているのか、不思議な物語の根底にはそんな問いが流れているような気がしてなりません。
この作品の中で印象的、感動的に語られているのは槙村家のお嬢様、聡子のことです。語り手である少女峰子は、病弱で外で遊ぶこともできない聡子の遊び相手として槙村家に通うことになるのですが、聡子の持つまっすぐな強さ、不思議な力を感じます。そんな聡子に魅かれ、峰子の、そして聡子にとっても幸せな日々が過ぎていきました。ほんの短い間ではありましたが・・・。
運命の日。今までの穏やかな日々が(いろいろ不思議な出来事はありましたが)ここで一転。緊迫したストーリー展開になり一気に読ませます。そして感動のクライマックス。じわ~っと涙が出てきます。もひとつはっきり理解できてなかった「常野」の不思議な力<しまう>ということが、ああ、こういうことだったのか・・・と納得。
しかし、この物語が感動して幕を閉じるのか、というとそうではありません。
この作品は峰子の思い出という形で語られているわけですが、その峰子も終戦を迎えます。懐かしく幸せだった子ども時代の思い出とはうらはらに、敗戦という現実。物語が美しかっただけに、この結末にはとまどいました。
この国のあり方、というか、どこに向かっていこうとしているのか、という重い問題をつきつけられたようで。
この国には、ほんの100年ほど前にはまだ「美しいもの」や「美しい心」といったものがたくさんあったのだなあ、と思わせてくれる本です。でも、それが今では一体どれくらい残っているのだろう、と思うと・・・。暗澹たる思いになりますね。