『一瞬の風になれ 第三部』
佐藤多佳子
先日、うちのおとーさんが久しぶりにレースに参加しました。
100キロの山岳マラソン。
ここんとこ仕事が忙しくて、毎夜日付が変わるころまで仕事・・・らしい。
(私は11時には寝るようにしているので知らない)
練習もせずによーやるよ、と半ばあきれてたのですが、
本人にしたら「走れる」というただそれだけで嬉しいそうな。
ふーん、そんなものなんでしょうか・・・。
結果は88キロでリタイア。
さすがに時間に間に合わず、強制収用されたそうです。
無念
『一瞬の風になれ』、いよいよ第三部です。
天才的なサッカー選手である兄の事故というショックから立ち直り、
再び走るためのトレーニングを始めた新二。
また、親友の天才的スプリンター連も、
苦手だった体力づくりに励みます。
そして春を迎え、彼らは3年生。
有望な新入生も入部し、いろいろ問題を抱えながらも
県大会、南関東大会と着実に力をつけ勝ち進んでいきます。
この第三部ではとにかくレース場面が多い!
読んでるこちらまで息苦しくなりそうな緊張感と、
決勝に残ったときのプレッシャー。
そしてそのプレッシャーの中で、
実力を出し切ることのむずかしさ。
だからこそ、会心の走りができたときの快感。
10メートル走っても息切れしそうな私が、
スプリンターと同じ思いを共有できるなんて、
これぞ読書の醍醐味ですね。
頭の中では100メートル10秒台で走ってるんですから(笑)。
ただ、走る。走る。走る。
「1本、1本、全力だ」
主人公新二の、走ることへの喜びと
熱い思いが伝わってきます。
圧巻はなんといっても四継、400メートルリレー。
予選で思わぬ失敗をしたものの、かろうじて次に進めた彼ら。
決勝には卒業した先輩も
手づくりの鉢巻き持参で応援に駆けつけてくれ、
バトンをつなぐという意味の深さに胸がじーんときました。
決勝を走る4人だけではない。
決勝を走れなかった先輩たちや補欠のメンバー。
予選で敗退していったチームメイト。
応援してくれる家族。
それぞれの思いを背負って走るのです。
さあ、走ろう。バトンをつないで走ろう。
俺たちは、すごく多くのものを、このリレーに注いできた。
すごくでっかい夢を見続けてきた。
その努力を力を夢を、みんなに見てもらおう。伝えよう。
そして号砲が轟きます。
この先はぜひ読んでみてください。
ほんとに気持ちよく走れますから(笑)。
ただ欲を言えば、もう少し脇役の選手のことも
掘り下げて描いてほしかったなと思います。
南関東にすすめた者、惜しくも敗退した者。
3年最後のレースに、自分より早い1年生を推した根岸や、
常にトップを走る仙波。
(この作品を読んでて、なぜかバスケの漫画『スラムダンク』が
思い浮かぶのは、素人の主人公がめきめき力をつけるというストーリー展開と、
ライバル仙波の名が仙道に似てたからかな?)
怪我(?)で調子がでなかった高梨、などなど。
彼らのそれぞれの思いも知りたかったなー。
新二の一人称で書かれていたから、
そのへんは難しいのかもしれないけど。
とにかく読み終わって爽やかな気持ちになれる作品でした。
スポーツの秋。
走りたくても走れない人にいいかも・・・