万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

IRを阻止する新たな方法はある?

2019年09月19日 15時04分18秒 | 日本政治
 横浜市では、先日、林文子市長が突然のIR誘致を発表し、同計画に反対してきた横浜市民をいたく落胆させました。市議会でも、IR予算が審議されるそうですが、既成事実だけが独り歩きしかねない状況が続いています。それでは、IRに反対する有効な方法はあるのでしょうか。

 もちろん、公約違反を根拠とした市長のリコール、IR誘致を問うために市議会の解散、あるいは、直接に市民に判断を仰ぐ住民投票の実施を求めるといった方法もありましょう。その一方で、別の全く違った方面からの反対方法もあるように思えます。例えば、権力分立における司法の独立を活用する方法です。司法的な反対には、まずは以下の3つの方法が考えられます。

 第一の方法とは、「カジノ法」とも称される「特定複合観光施設区域整備法」の違法性を問うことです。刑法第185条及び186条では、常習的な賭博行為並びに賭博場の開帳が禁じられています。そもそも、内閣法制局が内閣に対して刑法との整合性から同法案の国会への上程を見送るべきと提言をすべきであったのですが、どうしたことか、不問に付されてしまいました。この刑法違反の件については、政府によるカジノ解禁方針公表の当初から、メディアのみならず、多くの国民からも疑問の声が寄せられてきました。残念ながら、立法手続きにあっては事前チェックが働かなかったのですが、権力分立の仕組みにあっては事後的な軌道修正が可能です。つまり、国民が同法の違法性、あるいは、刑法との不整合性を問う集団訴訟を起せばよいのです。

 第2の方法は、カジノの顧客による民間のIR事業者に対する集団訴訟です。アメリカでは、麻薬作用のある「オピオイド」を製造した大手医薬品メーカーに対して、一般市民が損害賠償を求める訴訟が起こされています。賭博にも麻薬と同様に脳内においてドーパミン等の神経伝達物質の分泌を促す作用があり、常連者は、自己管理能力を失い、中毒症状を来すようになります。麻薬も賭博もその作用が同じであれば、ギャンブル依存症に罹った顧客は、IR事業者に対して損害賠償を求めることができるはずです。

 第3の方法は、民間のIR事業者を相手取った費用返還訴訟です。地方自治体が麻薬対策として費やした予算分の金額を支払うように求める訴訟が起こされているそうです。この事例を参考とすれば、日本国のIRを誘致した地方自治体も、ギャンブル依存症等の対策をIR事業者に要求することができるかもしれません。横浜市では、専門的な調査分析やギャンブル依存症の実態調査費として2億6千万円ほどの補正予算案が定例市議会に提出されましたが、この費用、何故、一般の横浜市民が負担しなければならないのでしょうか。そもそも、上述したように日本国では、賭博場の開帳が刑法で禁じられていますので、カジノに関するノウハウや実績を有する日本企業が存在するはずもなく、IRの運営事業者は海外企業が予測されます。1兆円以上ともされる経済効果も、その大半は海外に流出することとなりましょう。特定の民間事業者のビジネス、しかも、反対者多数のプロジェクトに公費を支出するでは、受益と負担がバランスしません。アメリカでは地方自治体が原告となりますが、各都市が積極的にIR誘致に乗り出している日本国では、真の負担者である住民の側が、地方自治体を訴えるべきかもしれません。

 以上に3つほどの司法的手段について述べてきましたが、突然の横浜市によるIR誘致の公表の背景には、神奈川2区を地盤とする菅官房長官が暗躍していたとする情報もあり、悪しき政治的利益誘導も疑われます。政治家が率先して日本国の悪徳と退廃を招いているとすれば、世も末ではないかと思うのです。

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コメント (8)
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