万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

皇室報道の違和感-天皇と災害

2019年09月09日 14時43分57秒 | 日本政治
最近の皇室報道を見ておりますと、その大半がパーソナルな行動に関するものが占めています。皇族のひとりひとりの動向について逐次細かな報道がなされており、昨日も、さながら実況中継の如くに上皇后の手術の経過が報じられておりました。その一方で、大型台風15号が日本列島に迫り、自然の脅威を前にして国民の多くは言い知れぬ不安に駆られていたのです。

マスメディアの皇室に関する報道ぶりには、全体主義化へと向かう気配さえ感じられます。何故ならば、どこか、北朝鮮風味に思えるからです。北朝鮮のマスメディアでも、金正恩氏をはじめ、事実上の‘王族’である金一族に対しては、その動向はあたかも極めて特別の事柄のように報じられます。全国民は、常に金一族に関心を向けていなければならず、金一族の慶事には全身全霊で喜び、凶事には全身全霊で悲しまなければなりません。全体主義国のメディアは、トップの権威を保つためにその行動を全国民に対して恭しく報じ、国民に対して同調を強いるのです。

こうした報道ぶりは、戦前の皇室にも見られたのでしょうが、自由主義国である現在の日本国に相応しいのか、と申しますと、どうも違うように思えます。皇統の血脈において今日の皇族は特別の存在ではなく、婚姻等を介して一般国民との違いも殆どなくなりました。日本国憲法において統合の象徴として位置付けられ、皇室典範が制定されているために公的な地位にあるものの、その存在意義を問われた時、国民の大多数が納得する理由を見出すことは困難です。

皇族が、‘神の子孫’であることを立証することは不可能ですし、むしろ、DNA検査を実施すれば、一般人と変わらないことが科学的に証明されてしまいます。また、2000年以上を遡る建国の祖の子孫が公的な地位を継承する世襲制度も、合理性を尊ぶと共に科学的知識を豊富に有する現代の人々の感覚からしますと、非合理な制度に思われることでしょう。しかも、婚姻による血統の希薄化と外部勢力の遺伝的参入に加えて、万世一系とされる皇統の継承も疑わしく、皇室は、時を経るにつれてその存在意義が揺らぐ運命を背負っているとも言えます。そして、一般の国民にとりましては、もはや皇室は‘信仰の対象’ではなくなり、敬意を表する理由も分からなくなってくるのです(実のところ、内面との葛藤はストレスになってしまう…)。しかも、多額の皇室予算を費やしながら(仙洞御所を含め15億円?)、伝統的な役割であった祭祀を疎かにするのでは、ますます意味不明となりましょう。

こうした国民の皇室に対する‘信仰心’の薄まりこそが、皇族報道をパーソナルな方向へと向かわせ、個人崇拝的な権威付け、並びに、カリスマ性を帯びさせるための演出に代替させている動機なのかもしれません。権威とは、それを権威と受け止める側の心理に依存しています。憲法の第1条に定められた‘統合の象徴’を具現化するために、伝統や神聖性に替って求心力を維持する方法として期待されたのが、パーソナルな側面を前面に打ち出す手法であったかもしれないのです。そして、この代替方法が、全体主義体制が好む手法であるからこそ、国民から警戒される要因となっているのではないでしょうか。特に、新天皇については、全体主義志向の強い創価学会との繋がりも報じられており、近年の顕著な皇室の国際化にも現れているように、政治利用される可能性も否定はできません。意図的であれ、無意識であれ、全体主義の手法と共通してしまう現象は、自由主義国にとりましては決して望ましいとは思えないのです。

それでは、自由主義国に相応しい皇室の在り方とはどのようなものなのでしょうか。それは、国民に同調を迫る北朝鮮のような全体主義的な個人崇拝では決してないはずです。自由主義国であれば、まずは、‘菊のタブー’をなくし、皇室に関する自由な議論を国民がし得る状況こそ重要なように思えます(国民のストレスも低下…)。今のところ、日本国の政界では、与党も野党も揃って‘皇位の安定的継承’以外に議論をしようとはしません。一択しかないような状況ですが、実のところ、国民の多くは、皇位継承問題よりも、日本国の国制における天皇の位置づけや役割についての、より深い議論を望んでいるのではないでしょうか。そして、古来、日本国は、度々自然災害に見舞われてきたのですから、大型台風の襲来が迫る昨日は、天皇が祭殿に籠もり、災禍が国土や国民に及ばぬよう天神地祇に祈りを捧げる姿を報道した方が、余程、国民から‘有難い’という感情を持たれたのではないかと思うのです。

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コメント (25)
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