万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

シファ病院制圧の意味

2023年11月17日 11時30分34秒 | 国際政治
 戦争当事国でアルイスラエルは、国際法によって保護されるべき病院に対する攻撃を予告したため、国際社会から批判を浴びてきました。しかしながら、こうした批判の声をものともせず、同国は、ガザ地区の中心部に位置するシファ病院には、ハマスの司令室が設置されていると共に、地下トンネルも存在しているとして制圧作戦に踏み切っています。若干の戦闘の後、現在、同病院は、イスラエルの支配下に置かれたようなのですが、同病院の制圧劇は、一体、何を意味するのでしょうか。

 制圧からしばらくの間、病院内から発見されたと報じられたのは、ハマスが使用・備蓄していたとされる武器・弾薬類であり、次いで作戦司令室でした。今朝方のニュースに依りますと、イスラエル軍は、遂に地下トンネルをも見つけたそうです。同情報が正しければ、イスラエル、並びに、同国をサポートするアメリカの主張どおりであり、シファ病院は、軍事利用された施設、すなわち、ジュネーブ諸条約の保護対象外であることが、物証によって裏付けられたことになるのですが、事は、そう簡単ではないように思えます。

 その一方で、ここで注意を要する点は、シファ病院における司令室並びに地下トンネルは誰が建設したのか、と言う問題です。これらの施設の建設者については、イスラエルであったとする興味深い情報があります。1983年にイスラエルがガザ地区を占領した際に、イスラエル側が、堅固で安全な‘手術室’を設けると共に、地下トンネルをも建設したというのです。‘安全な手術室’としていますが、特別に頑丈に造られているとしますと、おそらく、設置目的は医療目的ではなかったのでしょう。また、地下トンネルに至っては、医療に必要となるとは考えられませんので、この施設も、別の目的があったものと推測されます。

 シファ病院こそ、イスラエルが占領期にあって‘軍事拠点化’した施設であったと考えますと、今般の制圧劇に対する見方も自ずと変わっていきます。先ずもって、これらの存在に対する懐疑論が噴出しつつも、イスラエルとアメリカの両国が、自信をもって司令室と地下トンネルが存在すると主張する理由が説明されます。自らが設置した施設であれば、間違いなく‘発見’できるからです。実際に、上述しましたように、これらの施設は、イスラエル兵による捜索の結果として病院内で‘発見’されています。そしてここに、もう一つの謎も浮かんでくることとなります。それは、頑強な‘手術室’はイスラエル軍の司令室であった可能性が高いのですが、地下トンネルもイスラエルが設置したとしますと、一体、その目的は、何であったのか、というものです。

 地下トンネルと言えば、ガザ地区一帯に張り巡らされているとされるハマスのテロ、隠密行動、並びに、籠城用の軍事施設として知られています。しかしながら、1980年代にはハマスは存在していませんので、先だってPLO等といった組織が、防空壕や避難所など、防衛施設として建造に着手していたとも推測されます。しかしながら、地下トンネル施設の最深部地下80メートルにも及ぶとされますので、技術面からも自力で採掘したとは考えられず、仮に、パレスチナ側の建設であれば、おそらくソ連邦等から地下トンネル敷設に関する技術協力を得ていたのでしょう。

 あるいは、地下トンネルを掘り始めたのがイスラエルであるとしますと、ハマスは、イスラエルがガザ地区から撤退した後に、司令室と同様に、同トンネルを自らの施設として再利用したこととなります。あるいは、シファ病院の地下トンネルをさらに掘り進め、ガザ地区一帯に拡大したのがハマスであったかもしれません。敵の残した施設を、いわば乗っ取ったことになります。

 その一方で、もう一つの可能性があるように思えます。その可能性は、ハマスの真の姿がイスラエルの協力者、あるいは、両者が同一の組織に属している場合に生じます。それは、イスラエルが、将来的、あるいは、現下におけるガザ地区全域の監視・支配のためにハマスにトンネルを掘らせた、というものです。しかも、このトンネル網は、国境を越えてイスラエルと地下で通じているという・・・。この推測が正しければ、ハマス幹部には、‘逃げ道’も用意されている一方で、激しい空爆並びに地上侵攻作戦によって一般市民の多くの命が無情にも失われてゆくことになりましょう。

 イスラエル政府は、既にガザ地区の制圧後における自国による統治形態について語っており、‘ハマスの壊滅’は織り込み済みのようです。シファ病院をハマスの司令部と見なすならば、同施設の支配権の掌握をもって戦争の勝利を宣言するかもしれません。そして、シファ病院の名称がアラビア語では、‘アル・シファ’である点も、どこか示唆的で気に掛かるところなのです(ルシファーは、神に反逆する堕天使、すなわち、悪魔を意味する・・・)。

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