万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

図書館における破損事件の謎-『アンネの日記』を深く読む

2014年02月27日 15時28分55秒 | 社会
 先月から今月にかけて、首都圏の多数の図書館において『アンネの日記』が破損された事件。日本国の右傾化を国際社会に印象付けたい中韓犯人説が噂される一方で、近年、日本にも出現するようになったネオナチに決まっている、と決めつける意見も見られます。

 『アンネの日記』を知らない日本人はほとんどおらず、私も、小学生の時に同書を読み、アウシュビッツの収容所で短い生涯を終えたアンネに涙したことを覚えています。アンネの過酷な運命は、ナチスによるユダヤ人弾圧がもたらした悲劇とされ、多くの人々は、ユダヤ人迫害による犠牲を象徴する書としてイメージしています。今回の事件にあっても、『アンネの日記』が標的となったのも、犯人は”ナチス礼賛者”とする見方が成立することを狙ってのことなのでしょう。しかしながら、手元に既に同書はなく、薄くなった記憶を辿ってのことですが、『アンネの日記』の内容は、フランク一家に隠れ家での生活を余儀なくさせたナチスに対する恨みつらみを延々と書き綴ったものではなかったはずです。むしろ、アンネの純粋で鋭敏な感性と卓越した観察力は、隠れ家で暮らす家族や同居人一家に対しても向けられており、アンネの知性に対する両親の無理解、男尊女卑的で窮屈な家庭、同居人一家の夫人の自堕落な処世術、…を批判し、嘆いてもいます。ナチスが外的な迫害であったとすれば、閉鎖された世界としてアンネを取り巻いていたユダヤ人社会とは、内的な抑圧であったということもできます。アンネの苦悩とは、ユダヤ人への迫害を憎みながらも、自らの身内であるユダヤ人をも全面的には肯定できなかったところにあるように思えるのです。

 表面的なイメージのみで『アンネの日記』を図書館で破いた犯人は、おそらく、この本を読んでいなかったのではないでしょうか。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
通りすがりのおじ様さま (kuranishi masako)
2014-02-28 07:36:39
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 犯人が、一部の人々が言うように、”ネオナチ”であるとしましても、その人物は、普通の日本人ではないのでしょう。右翼であれ、左翼であれ、日本人には、そもそも、本を破る、という発想がありません(帰化系日本人である可能性はある…)。しかも、反ユダヤ主義が存在しない日本国において、『アンネの日記』を破損したところで、日本人に対しては、何らのアピールにもなりません。およそ全ての状況証拠が、犯人中韓説を示唆していると思うのです。
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Unknown (通りすがりのおじ様)
2014-02-27 23:23:13
古来より、日本人は書物を大事にしてきました。

古代の出土品から、貴重な文献や当時の役人達の落書きのようなものが出たりするくらいですからね。

現在でもたくさんの古本屋に、マンガ本を含め最新の本からお宝とも言えるような本が販売されているのです。

そういう意味からも、破損した人物が日本人ではあって欲しくないですね。

まぁ、特定の本をターゲットにしているので何らかの意図があるのでしょうが、その目的を果たすが為とはいえお粗末なやり方です。

本を破損するという事で思い出されるのが、アメリカの図書館の地図の日本海の部分に手書きやシール等で東海を上書きしていた韓国人達のやり口ですね。

まぁ、あちらの国では文献等もほとんど無いそうですから、書物に対する考え方もお粗末なのかもしれません。
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ねむ太さま (kuranishi masako)
2014-02-27 22:03:43
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 『アンネの日記』破損事件の犯人は、断定はできませんが、おそらく在日韓国人か、在日中国人ではないかと疑っております。日本人の左翼ということもあり得ますが…。少なくとも、日本国の極右化をアピールすることで、国際社会を味方に付けたいのでしょう。
 この一件につきましては、戦前のユダヤ人との関係を知っている日本国の右翼の犯行ではないとは思いますが、最近、ユダヤ人の団体が反日活動に協力していることは気になるところです。韓国は、従軍慰安婦問題について、ユダヤ人の団体と連携することを表明しておりますし、オランダの隠れ家に開設されている記念館も、協力を約束してるとか・・・。国際陰謀でなければよいのですが、いささか心配です。
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Unknown (ねむ太)
2014-02-27 20:06:07
こんばんは。アンネの日記破損事件で頭に浮かぶのは、焚書坑儒が当然と考える国の人間です。
恥ずかしながらアンネの日記は読んだことがありません。
どちらかと言うと、カミュ・カフカ・ユゴー・ドストエフスキー・シェークスピアが好きでよく読んでいた覚えがあります。
小さい頃から旅に憧れ、見知らぬ国で見知らぬ人とかたれあいたいという好奇心のほうが優っていたような気がしています。
きっかけは、新聞で伝えられる話題で、同じ日本でも地域によって気候風土・風習習慣が違うのはなぜだろうと不思議で仕方なかったからです。
アンネの日記の破損事件ですが、まともな日本人なら絶対にするはずがありません。
第二次大戦中、最もユダヤ人を助けたのは日本人です。
杉原千畝氏の命のビザはもとより、樋口季一郎氏のオトポール駅に取り残され死を待つだけだったユダヤ難民救出の話もあります。
樋口季一郎氏は成立間もないソ連を旅し、一人のユダヤの老人と出会い、涙ながらに「日本には天皇という方がおられると聞いています。我々ユダヤの苦難を救ってくださるお方はその方だと確信しています」と語るのを聞いて心を深く打たれたと言っています。
オトポール駅での救出劇は、松岡洋右満鉄総裁に電話をし特別列車を走らせてくれるよう依頼し、自らは同盟国ドイツの方針に逆らった者として処分を覚悟しての行動だったそうです。
関東軍参謀長だった東條英機氏に呼ばれ事情を説明したあとで「あなたはヒトラーのお先棒を担いて弱いものいじめをする事が正しいと思っているのか」と言い、東條英機氏も「君の話はまことに筋が通っている。この件は不問にする」と当時の関東軍も了承していました。
上海では日本軍関係者がユダヤ人保護のために尽力しています。
このような歴史を知っていればアンネの日記を破損し、日本の右傾化やネオナチズムを叫ぶ事は自ら墓穴を掘る事になるとわからないのでしようか。
欧州でナチスについてタブー視している事が、書物を破損し日本の極右化をナチズムと同一のものだと宣伝すれば国際社会を味方にできると短絡的に考える単純な馬鹿が出てくる原因であり、大戦の精算ができない原因であるといえると思います。
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