大阪堂島商品取引所で今年の8月から再開されたお米の先物取引は、米価高騰の一因となっているようです。それでは、何故、先物取引がお米の価格を押し上げるのでしょうか。
この価格上昇のメカニズムは、‘人とは自らの利益を最大化するために行動する’と仮定しますと、容易に理解することができます。先物取引では、現在の取引価格よりも将来の限月における価格が上昇した場合、両者の差額による差益が生まれるのは‘買いヘッジ’です。このため、先物市場で高値が付いている場合には、同市場で取引に参加していない人々までも、大凡の将来における値動きを予測することができるのです。将来的な価格上昇が見込まれるからこそ、‘買いヘッジ’において高値が付くからです。先物市場での高値は、将来における値上がりの‘サイン’とも言えましょう。
先物市場における価格は公開されていますので、先にも述べましたように、一般の人々も広く知るところとなります。こうした先物市場での価格情報は、売り手側にある人々に様々な反応を引き起こします。先ずもって、直接の生産者であるコメ農家の人々は、将来の値上がりに期待して、現時点で収穫したお米を売却するよりも、より価格が高くなった将来において売り渡そうとするかも知れません。つまり、‘売り渋り’が起きてしまうのです。この結果、お米の供給量が減少し、将来のお話でありながら現在の価格を押し上げる方向に作用します。
加えて、卸売り業者の行動にも、変化が生じます。農業者の側の基本的な姿勢は‘売り渋り’ですので、お米を売ってもらおうとすれば、当然に、買い取り価格を上げざるを得なくなります。しかも、品薄状態ともなれば、需要と供給との間の均衡も崩れ、供給減少が価格上昇に拍車をかけます。1918年の大正時代の米騒動に際しては、米問屋等の卸売業者がお米の買い占めや売り渋りを理由に焼き討ちに遭うことにもなりました。取引の自由化は、供給量が需要を上回る場合には、価格引き下げ競争が起きますので消費者に恩恵がもたらされますが、需要が上回る場合には、逆に‘値上げ競争’となりますので、一概には消費者にメリットになるとは言えないのです。
こうした生産者サイドにおける値上がり要因に加え、お米価格の上昇を口実とした便乗値上げも誘引されます。小売店側にとりましても、消費者の間に高いお米価格を当然視する風潮が広がりますと、自らの利益のために価格を上乗せするかも知れません。ましてやお米は日本人の主食ですので消費者は買わざるを得ず、足元を見られがちなのです。また、お米は様々な食品に加工されていますので、値上げラッシュはお米を原材料とする商品にも波及してゆくことでしょう。
かくして先物取引における高値は、将来を先取りする形で現在のお米の価格にも反影され、消費者は、物価高に苦しむことにもなります。そして、価格上昇による差額の収益期待は、証券会社や商社等の先物市場における参加事業者達にも、高値維持あるいはさらなる価格上昇を望む強い動機ともなるのです。この点、本日Web記事として‘年上げ後にさらなる米価の値上げが予測されている’とする主旨の記事が掲載されていましたが(FBC福井放送)、こうした値上げ予測の記事や情報は、事実を伝えるというよりも、先物市場での値崩れを防ぐことを目的としている可能性もないわけではありません。言い換えますと、‘令和の米騒動’とは、お米市場におけるバブルとも言えるかも知れないのです。
農業者であれ、卸売業者であれ、証券会社であれ、そして投資家であれ、お米のさらなる価格上昇は、何れに対しましても利益をもたらします。その一方で、負の部分が重くのしかかるのは、高いお米を買わされる一般の国民と言うことになりましょう。先物市場の解禁が人々の利己心をも解放してしまい、多くの人々が生活に苦しむ事態を招いているのが、今日の日本国の現状のようにも思えます。無制限な利己心、あるいは、欲望の追求が社会全体にマイナス影響を及ぼす場合、適切な規制を設けるべきなのですが、大阪堂島商品取引所の大株主となったSBIホールディングスの意向で先物取引が再開されたとなりますと、この問題は、今日、政治とお金との問題にも発展することにもなります。一体、どのような経路や働きかけによって、政府は、お米の先物取引に許可を与えたのでしょうか。米価高騰は、日本国を蝕む様々な問題が絡んでいるように思えるのです(つづく)。