不思議なことに、主食であるお米の価格が2倍近くにも跳ね上がるという異常事態にありながら、マスメディアのみならずネット上では同問題に関する情報が圧倒的に不足しています。物価高が先の衆議院議員選挙における自公政権の敗因理由の一つでありながら、石破政権もまた、国民生活を護るために対策に乗り出す様子も見られません。‘令和の米騒動’と称されながら、政府は積極的な説明も対策も怠っており、この‘沈黙’には何らかの意図が隠されているようにも思えてきます。余りにも不自然なのです。昨日の記事で述べたように、インバウンド説、猛暑説、肥料価格高騰説、輸送コストアップ説の何れもが説得力に乏しいとしますと、真の原因は、別のところにあるのでしょう。そこで、情報不足の状況にありながら、幾つかの推理を試みてみたいと思います。
第一の推理は、投機マネーの流入による価格高騰です。お米の先物取引については2011年から試験的な上場が始まり、一端は終了したものの、大阪堂島取引所において先物取引が「コメ指数先物」という名で復活したのは、まさに米価高騰中の今年の8月のことです。日本国には、米の先物取引については、江戸時代から堂島にあって帳合米取引が行なわれていた歴史があります。先物取引とは、長期的な価格安定に寄与する役割を果たす反面(変動リスクのヘッジ)、価格変動の結果としての差額が利益となるために投機の対象ともなり得るのです。
先物取引にあって投機的な利益を上げる方法としては、買いヘッジと売りヘッジがあります。将来の決済日における価格上昇が予測される場合には先物で買いヘッジを行い、実際に価格が購入価格よりも上がった場合にその差額が収益となります。例えば、お米の先物取引ですと、先物で1俵17000円で購入したお米が、最終決済月である限月には20000万円の価格に上昇していたとしますと、3000円の差額が収益となります。このため、買いヘッジは、将来における値上がりが予測される場合に行なわれます。言い換えますと、将来的に価格が上がるほど、利益も増えてゆくのです。その一方で、価格低下が予測される際に予め高値で売っておく手法が、後者の売りヘッジです。
こうした先物取引における投機性に注目しますと、堂島取引所の仕組みは、価格調整機能よりも投機的な取引に偏っているようにも見えます。何故ならば、先ずもって同市場への参加事業者は、商社のみならず、金融事業者、即ち、証券会社も参加しているからです(売りヘッジは、価格調整機能を必要とする生産者側にメリットがある・・・)。開始直後は三社程度でしたが、今日では、SBI証券も参加しています。堂島での先物復活にも、SBIホールディングスが暗躍したとされ、同取引所が会員組織から株式会社への衣替えする際に株式の取得により3割を越える議決権を握っているとされます。ここに、投機的なマネーがコメ先物市場に流入する要因を見出すことができましょう。因みに、同取引での米価は、全国の相対取引を平均化した「現物コメ指数」であり、農林水産省が作成して毎月公表されています(正確には公益社団法人米穀安定供給確保支援機構)。
そして、先物取引と米価高騰との関係を探るに際しては、うるち米ともち米との値動きの違いにも注目すべきかもしれません。何故ならば、農林水産省が公表している東京穀物商品取引所に関する資料に依りますと(同取引所は、2013年に大阪堂島商品取引所と東京商品取引所に移管・・・)、2012年に策定された「米穀の合意基づく早受渡しの特例」における同特例の対象は「水稲うるち玄米」としているからです。また、現在、同省のホームページで公開されている相対取引価格の一覧表を見ましても、同表に掲載されているのはうるち米の銘柄みのようです。昨今の物価を見ますと、もち米の価格はうるち米ほどには値上がっておりません。スーパーでのお餅一袋の小売価格の全国平均は、去年2023年10月では729円でしたが、一年後の激しい米価高騰に見舞われていた今年2024年10月では743円に過ぎません。内外の要因がもたらす稲作に対する影響は同じなのですから、両者の値上がり幅の著しい違いは、全てではないにせよ、先物取引の影響を示しているように思えるのです(つづく)。