万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

朝鮮戦争を法的に処理するには?

2018年07月26日 15時28分41秒 | 国際政治
北朝鮮は核物質の生産続行 米国務長官が認識示す
 最近の米朝関係を見ますと、かつてあれほど騒がれたCVIDは、一体、何処に行ってしまったのかと戸惑うばかりですが、北朝鮮が、核・ミサイルの開発能力を維持しようとしている背景には、朝鮮戦争終結の要求があることは想像に難くありません。北朝鮮側は、アメリカが朝鮮戦争の終結を実行に移さない限り、核もICBM等のミサイル開発も放棄するつもりはないことを、敢えて中途半端な行動をとることで、アメリカに対して仄めかしていると考えられるのです。ミサイル基地の解体ショーも、アメリカがポーズであることを見破ることを計算に入れてのことなのでしょう。しかしながら、かくも北朝鮮に対して大幅な譲歩を見せながら、トランプ政権は、北朝鮮からの朝鮮戦争終結要求に応じるつもりはないようです。

 ここで、しばし考えてもみるべきことは、朝鮮戦争の法的な処理方法です。‘朝鮮戦争の終結’と言う時、北朝鮮側は、戦争終結宣言から平和条約への2ステップを想定しているようですが、1950年に始まる朝鮮戦争が、北朝鮮の対韓国侵略戦争に端を発していることは重要な事実です。朝鮮戦争とは、国家対国家の一般的な戦争とは性質が違います。現在、朝鮮戦争は停戦中に過ぎず、法的には、‘世界の警察官国連対侵略国家北朝鮮’の構図が継続しているのです。

朝鮮戦争の二重性(侵略戦争+制裁戦争)からしますと、最初の侵略戦争の処理もまた、法的には正当、かつ、必要な手続きとなります。この点に鑑みて現状を見ますと、今日に至るまで、南北を画する38度線は保たれており、戦争以前の原状も回復されています。言い換えますと、法的処理に際しては、強制力による原状回復を必要としておらず、残された問題は、かつて、第二次世界大戦後に戦争責任者が処罰されたように、戦争責任者の処遇となるのです(賠償や請求権問題は平和条約で解決…)。

最も望ましい形は、北朝鮮による戦争犯罪が国際法廷において裁かれ、その指導者たる責任者が処罰されるというものです(もちろん、一般の戦争法違反行為についても軍事裁判を要しますが…)。しかしながら、今日、責任当事国である北朝鮮では、金日成の孫の時代に至っております。そこで、最高責任者の代替わりに対してどのように対応するのか、という法理上の困難な問題が提起されるのです。この問題については、朝鮮戦争以来、北朝鮮では世襲独裁体制が維持されておりますので、戦争犯罪の責任も後継者に継承されていると解することも可能です。停戦協定が結ばれたとはいえ、未だに戦争状態にありますので、同解釈に立脚すれば、全責任を祖父から引き継いでいる金正恩委員長を被告人とする特別国際軍事裁判=平壌裁判もあり得ることとなりましょう。この場合、同法廷の設置者は国連となり、加盟各国から判事が選任される形態となります。

 そして、もう一つ、法的な解決方法があるとすれば、金委員長が自らの国家の罪を全面的に認め、侵略戦争を終わらせることです。北朝鮮の侵略に戦争原因があり、かつ、国連安保理で侵略認定を既に受けていますので、双方の合意ではなく、侵略側の一方的な侵略行為の放棄宣言で事足りるはずです。この場合、犯人の‘投降’や‘自首’と同様の行為となりますので、もしかしますと、罰は減免されるかもしれません。

 もっとも、北朝鮮側が、自らが戦犯国家となる法的処理を望むはずもありません。否、戦争犯罪の罪から逃れるべく、国際法上の法的処理手続きを飛ばした単なる‘戦争終結’を強く要求しているのでしょう。何れにしても、朝鮮戦争に法的処理について考えてみることは無駄ではないように思えます。それは、侵略戦争であった事実に頬被りをしたい北朝鮮に対する強い牽制の効果が期待できますし、あるいは、国際法秩序の未来に照らしてみれば、最も適切、かつ、人類に希望を繋ぐ解決方法であるかもしれないのですから。

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