万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

尖閣諸島問題-国連海洋法条約も活用できる

2024年02月14日 12時32分02秒 | 日本政治
 尖閣諸島問題については、サンフランシスコ講和条約、日中共同声明、並びに、日中平和友好条約等の国際法に基づいて平和裏に司法解決する道があります。台湾有事と連動する形で中国との間で戦争が起きる可能性がある以上、日本国政府は、戦争を未然に防ぐためにあらゆる司法的手段をも尽くすべき時とも言えましょう。そして、上記の諸条約の他にもう一つ、日本国政府が単独でも利用できる条約があるとすれば、それは、国連海洋法条約です。

 国連海洋法条約と言えば、2016年にフィリピンが中国を相手取って常設仲裁裁判所への単独提訴に踏み切った南シナ海問題が思い浮かびます。1982年4月30日に採択された同条約には、「海の憲法」とも称されるように169カ国が参加する一般国際法であり、日本国はもちろんのこと中国も締約国の一国です。双方共に同条約の下にあって自国の海域に関する諸権利が保障され、かつ、締約国としての義務をも負っております。このため、サンフランシスコ講和条約のような訴訟資格等に関する問題も生じないのです。

 それでは、尖閣諸島問題の解決について、国連海洋法条約は、どのように活用することができるのでしょうか。先ずもって確認すべきは、尖閣諸島が、海に浮かぶ‘島’であることです。島の領有権が争われる南シナ海問題において同条約に基づく提訴が選択されたのも、係争の対象が、領水、接続水域、排他的経済水域などの法的な水域を設けることができ、かつ、幾つかの権利の異なる地位に分類される‘島’であったからに他なりません。国際裁判所による領有権に関する直接的な判決を得ることはできなくとも、水域に関する法的権利が間接的ながら凡そ確定するのです。因みに、南シナ海問題では、‘欠席裁判’ながらも、中国が同海域一帯の領有権を主張するに際して用いてきた「九段線」は完全に否定されると共に、中国が同海域に一方的に建設した人工島についても、同条約の第60条八項に基づき、領海はおろか如何なる権利も認められませんでした(そもそも人工島の建設も違法・・・)。フィリピンが試みたこの方法は、日本国政府も用いることができます。それでは、日本国政府は、中国のどのような行為を違法として訴えることができるのでしょうか。

 第1の訴因は、国連海洋法条約が定める無害通航に関する中国の違反行為を訴えるというものです。同条約の第17条にあっては、他国の領海については無害かつ同条約に従うことを条件として通航が認められています。しかしながら、中国海警局の船舶による尖閣諸島領海内での行動は、無害とは到底言えません。否、第18条で定義している‘通航’にも当たらないのです。海上警備という公権力の行使のための侵入であり、他の目的地に向かうために領海に入って領海から出ていくわけでもないからです。

 こうした中国海警局の船舶が日本国の領海内で堂々と侵入してくる背景には、1992年2月25日に採択・施行された「中華人民共和国領海及び接続水域法」があります。加えて、2012年9月10日には、「釣魚島及びその付属島嶼の領海基線に関する中華人民共和国政府の声明」を公表し、尖閣諸島に対して直線基線を設定しています。即ち、尖閣諸島の周辺海域に自国の領海、接続水域並びに領海基線を一方的に設定しているのですから、これは、国連海洋法条約上の争いともなりましょう。とりわけ直線基線の設定については、アメリカの国防総省は、1996年に南シナ海で引いた基線と同様に、国連海洋法条約に違反すると指摘しています。第2のアプローチとは、中国の国内法に基づく措置を違法として訴えるというものです。

 そして、第3のアプローチは、排他的経済水域に関する権利の侵害です。尖閣諸島周辺海域には、中国の漁船が押しかける事件も発生し、日本国の漁船が閉め出されている状況が続いています。国連海洋法条約の第62条は、沿岸国に生物資源の利用として排他的な権利を認めていますので(漁獲量の決定権・・・、現状にあっては、中国によって同権利を奪われている状態にあるのです。

 以上に、三点ほどの主要なアプローチについて述べてきましたが、国連海洋法条約も存在しているのですから、日本国政府には、司法解決に向けて多くのカードを手にしていることとなりましょう。真に平和を願うならば、日本国政府には、躊躇する理由はないはずなのです(つづく)。

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