1967年10月10日に成立した「宇宙条約」では、その第4条において大量破壊兵器の打ち上げが禁止されています。同条約については、アメリカのみならず、中国もロシアも締約国です。それでは、指向性エネルギー兵器は、同条約が禁じる‘大量破壊兵器’に当たるのでしょうか。
第4条の条文では、「条約の当事国、核兵器及び他の種類の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せないこと、これらの兵器を天体に設置しないこと並びに他のいかなる方法によってもこれらの兵器を宇宙空間に配置しないことを約する。・・・」とあります。仮に日米両国が共同開発に乗り出した極超音速ミサイル迎撃システムのように、宇宙空間に打ち上げられた衛星に搭載された指向性エネルギー兵器が純粋に防衛目的であれば、同兵器は、宇宙条約が禁じる大量破壊兵器には該当しないことでしょう。高出力の電磁波やビームによる破壊の対象は、小型化されたミサイルですし、同兵器の使用が夥しい数の人々の命を奪い、都市を破壊するわけでもないからです。むしろ、攻撃目的の大量破壊兵器を破壊する防衛兵器ですので、軍事分野での利用でありながら、宇宙空間の平和利用の際たる事例となるかもしれません。
しかしながら、その一方で、宇宙空間に配置された指向性エネルギー兵器は、攻撃兵器として使用される可能性がないわけではありません。極超音速ミサイル防衛システムは、レーダーに捕獲が困難な超低空ミサイルをも迎撃対象としていることでしょうから、同システムは、大気圏を飛行するあらゆる飛翔体を破壊する能力を秘めていることでしょう。戦闘機や爆撃機のみならず、ドローンといった無人攻撃機も撃墜し得るかもしれません。実際に、宇宙配備型ではないものの、米空軍研究所(AFRL)は、群れを成して飛来するドローンによるスウォーム攻撃を撃退する「THOR(Tactical High-Power Operational Responder)」という技術開発に既に成功しています。指向性エネルギー兵器については‘陰謀論’と見なされがちですが、現実には、実用化の段階にあると言えましょう。
そして、指向性エネルギー兵器のポテンシャリティーは、同兵器が大量破壊兵器となり得る可能性を強く示唆しています。様々な性質や効果の異なる電磁波、素粒子ビーム、マイクロ波などを使い分けますと、広範囲かつ人体に対して害を与える兵器となり得るからです。即死とならないまでも、遅効的な効果により死に至らしめるかもしれませんし、致死的な病気を誘発するかもしれません。また、マウイ島火災に際して疑われたように、高出力のレーザー等を標的とする箇所に照射することで、電子機器の無力化のみならず、大規模な都市火災や崩壊を引き起こす技術も開発されているかもしれません。なお、大量破壊兵器とは認定されないまでも、指向性エネルギー兵器は、1983年12月に発行した「特定通常兵器使用禁止制限条約」等に違反するのではないかとする指摘があります(同条約では、レーザー兵器については第4議定書において扱っており、回復不可能な失明をもたらすレーザー兵器を全面的に禁止している・・・)。
以上に述べたように、指向性エネルギー兵器は、攻撃兵器として使用される場合、大量破壊兵器、あるいは、非人道的兵器に転じる可能性があります。仮に攻撃用の衛星が打ち上げられた場合、同行為は、宇宙条約違反となりましょう。しかしながら、国際社会には、IAEAといった組織や核査察のような査察システムは存在しませんので、外部から各国政府、並びに、民間企業による衛星打ち上げの真の目的を知ることは困難です。言い換えますと、衛星兵器については、‘野放し’の状態にあるのです。
人工衛星の打ち上げを口実として北朝鮮はミサイル発射実験を繰り返していますが、指向性エネルギー兵器を搭載した衛星兵器という新たな兵器が出現しつつある今日、北朝鮮の実験は、大陸弾道弾の試射ではなく、同タイプの衛星兵器の打ち上げである可能性も否定はできなくなってきます。ここに、‘北朝鮮による核開発問題’がリフレインされるのであり、中小国でも同兵器を開発・保有することができるのであれば、それは同時に、国際社会全体における指向性エネルギー兵器をめぐる破壊力と抑止力との問題を改めて問うているように思えるのです。