万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

非核兵器国による指向性エネルギー兵器の開発

2023年08月25日 12時42分11秒 | 国際政治
 現在、指向性エネルギー兵器の開発は、世界軍事力ランキングにあって上位を占めるような軍事大国を中心に進められています。日本国もその一国であり、先日、日米両国政府が共同プロジェクトとして開発に合意した極超音速ミサイル迎撃システムでも、同技術の導入が予測されます。中国やロシア等によるミサイル発射を瞬時に把握するためには、これらの諸国の領空を越える宇宙空間からの監視が必要ですので、衛星ネットワークと指向性エネルギー兵器を組み合わせは、グローバルな視点からは極めて合理的な発想と言えましょう。

 計画されている「衛星コンステレーション」は、地球全体のカバーを目的としているのですが、一国の防衛並びに安全保障の観点からしますと、必ずしもこれほどに大規模なシステムを要しないのかもしれません。監視対象が地球全体でなければ、単体の衛星、あるいは、監視対象を限定した衛星であっても、ミサイルの迎撃に活用できるかもしれないからです。地球規模の迎撃システムの開発は、技術力や資金力に乏しい中小国にとりましては手の届かないプロジェクトなのですが、衛星コンステレーションタイプではない、よりシンプルなシステムであれば、そのハードルの高さは格段に低くなりましょう。

 それでは、仮に、同システムが特定の軍事大国や勢力に独占されず、中小諸国も宇宙空間を利用したミサイル迎撃システムの開発に成功しますと、国際社会にあって、どのような変化が生じるのでしょうか。先ずもって指摘し得るのは、指向性エネルギー兵器については、NPTのような一部の諸国にのみ、その保有を認めるような条約は存在していないことです。しかも、迎撃の主たる対象は物体であるミサイルですので、1983年の「特定通常兵器使用禁止制限条約」第4議定書によって禁止されているレーザー兵器にも当たりません(人体の損傷が対象・・・)。攻撃目的である場合には、大量破壊兵器の宇宙空間への配備を禁じた「宇宙条約」に違反する可能性が高いのですが、少なくとも防衛が目的であれば、何れの国も、国際法に抵触することなく防衛兵器として同兵器を開発・保有することができるのです。この点は、核兵器とは著しく異なっており、常に核兵器国からの核攻撃あるいは核による威嚇に曝されてきた中小の非核兵器国に採りましては、NPTという‘不条理な縛り’から解放されることを意味します。

 また、人工衛星の打ち上げについても、法的な枠組みは、1976年9月に発行した「宇宙物体登録条約」が存在するのみです。このため、米中ロのみならず、日本国も、最近では今年2023年1月に、情報収集衛星として「レーダー7号機」の打ち上げに成功し(「レーダー5号機」の後継)、現在、「設計寿命を過ぎたものを含めレーダー5基、光学3基の計8基と、観測データを地上受信局に転送する「データ中継衛星」の1基」が運用されているそうです(科学技術振興機構ホームページより)。偵察衛星の打ち上げ自体は違法行為ではありませんので、日本国に限らず、何れに国であっても国際法上の問題は生じません。また、米中ロとも自らが行なってきた行為ですので、批判のしようもないのです。

 以上のことから、仮に中小諸国が防衛手段として宇宙空間を利用した迎撃システムを保有するに至りますと、核兵器は無用の長物になると共に、核兵器国との間の軍事同盟に頼らずとも全ての諸国が自国を単独で自衛することもできるようになります。現状のNPT体制よりも、中小の非核兵器国の安全は格段に高まることでしょう。核兵器の場合には、その比類なき破壊力故に技術拡散に法的な制限が課せられたのですが、防衛、すなわち、平和を実現する手段としての迎撃システムの技術であるならば、逆に、その技術的な拡散は推進されるべきこととなるのです。

しかしながら、全ての諸国による迎撃システムの保有がもたらす‘迎撃システムによる平和は、自動的、かつ、無条件に訪れるわけではありません。指向性エネルギー兵器であれ、人工衛星であれ、悪用を防止し、攻撃用兵器として転用されない仕組みを要するからです(つづく)。

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