万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

岸田首相のウクライナへの肩入れが日本を危うくする

2023年03月24日 12時11分42秒 | 国際政治
 昨日、3月23日、訪問先のウクライナから帰国した岸田文雄首相は、極秘で敢行した電撃訪問の意義について、国会にて事後報告を行ないました。同報告において、首相は、G7広島サミットにおける議長国としての、ウクライナ支援と対ロ制裁の強化に向けた意気込みを語っています。リーダーシップを発揮すると共に、中小の中立国にも協力を働きかけると述べていますので、対ロ陣営がための場としたいのでしょう。折も折、中国の習近平国家主席はロシアを訪問し、プーチン大統領と会談の場を設けております。同会談の内容は詳らかではありませんが、ロシアが中国に対して支援を求めたのではないか、とする憶測もあります。

 岸田首相の電撃訪問については、中国による台湾侵攻が現実味を帯びている中、国益の側面からの根強い擁護論があります。台湾有事となれば、アメリカのみならずNATOからも強力な支援を期待できるというものです。しかしながら、この擁護論、国民の多くを納得させるだけの説得力を備えているのでしょうか。CSISの報告書などからも垣間見られる米軍が温めている対中作戦計画等の情報からしますと、ウクライナへの肩入れは、期待とは裏腹に日本国の安全を脅かすリスクの方が高いように思えます。

 第一に、台湾有事は、ウクライナ紛争が終結した後に起きるとは限りません。否、今般の岸田首相、あるいは、その背後で同首相に圧力をかけたアメリカあるいは世界権力は、上述したように全世界の諸国を二大陣営間の対立に持ち込むことを基本方針としています。また、中国は、台湾侵攻に際して、NATO軍がウクライナ紛争への対応で釘付けになっている時期を狙うことでしょう。このことは、東西において同時に戦闘が起きる可能性を示唆しており、この時、NATOは、対ロ戦争のみで手一杯の状況となりましょう。ウクライナ一国での戦闘のみで、同盟関係にはない域外の日本国にも支援を求めるぐらいなのですから。つまり、第三次世界大戦へと戦禍が拡大した場合、日本国は、NATOからの支援は期待できないのです。

 第二に、岸田首相自身は、電撃訪問の意義について台湾有事に際してのNATOとの協力ついて触れていません。ロシアを侵略国と認定した上で、国際法秩序の維持を前面に打ち出しているのです。このことは、今般の日本国によるウクライナ、並びに、ポーランド支援と、将来におけるNATO側から極東有事における対日支援とは切り離されていることを示唆しています。なお、国際法秩序の維持を根拠とした警察的な軍事行動が第三次世界大戦を引き起こすリスクがある場合、並びに、仮に戦争犯罪国が勝利した場合には、国際法秩序そのものが破壊される結末が予測される場合には、軍事的制裁行動には慎重になるべきことは、再三、本ブログ記事で指摘したところです。

 第三に、台湾有事については、アメリカの情報機関の報告に依れば、2027年を目標としてアメリカの軍事介入を阻止するための軍備増強を中国側は進めるそうです。台湾有事とは、5年以内に起こりえる事態であることを考慮しますと、日本国には、ウクライナへの支援に国費を割いている余裕はないはずです。日本国による対ウクライナ支援費の額は積み上がる一方ですが、それは、日本国の防衛力と反比例の関係となるのです。中国としましては、台湾有事に先立って、外貨準備を含めて日本国並びにアメリカの資金力=戦争遂行能力をできる限り低下させたいところでしょう。

 第4として指摘し得るのは、岸田首相の陣営固めの方針が、第三次世界大戦への道に繋がるとしますと(*3月25日追記:ロ中会談では、和平案が提案されつつも、実質的には中ロ陣営の形成も進んでおり、世界権力の二頭作戦路線も疑われる・・・)、たとえNATOの協力を得られたとしても、日本国は、壊滅的な被害を受ける可能性が高い点です。何故ならば、今後予測される対中戦争とは、双方がミサイルを撃ち合うミサイルの応酬戦となることが予測されているからです。

 ロシアと地続きとなるウクライナと異なり、台湾も日本国も中国とは海を隔てています。台湾を完全に軍事占領しようとすれば、中国は、空母の派遣や陸上部隊の投入に先立って、台湾の制海権と制空権を完全に掌握する必要がありましょう。このためには、台湾にある対中ミサイル基地を攻撃用ミサイルによって全て破壊しなければならないのです。また、アメリカの介入を排除するためには、中国は、日本国内に設置されている米軍基地を破壊しようとするはずです(サイバー攻撃等による基地機能の破壊を含めて・・・)。今般、反撃力を備えるとして日本国内にミサイル基地が建設されるとしますと、中国は、米軍基地のみならず、同基地を狙ってミサイル攻撃を仕掛けてくることでしょう(この点、反撃用のミサイルは、移動可能なイギリスが採用している潜水艦発射式の方が望ましいのでは・・・)。

 以上の諸点を踏まえれば、日本国は、間接的なウクライナ支援に国費をつぎ込むよりも、直接的に自国の安全を高める方向に舵を切り替えるべきと言えましょう。そして、最大の安全策は、第三次世界大戦を意味しかねない台湾有事を未然に抑止をおいて他にありません。未然防止にプライオリティーに設定すれば、ウクライナ紛争をめぐっては、二大陣営の形成を促進するよりも早期和平を実現すべきであり、岸田首相は、広島サミットをG7諸国に対して和平の重要性を説明し、方向転換を促すことにこそリーダーシップを発揮すべきなのではないでしょうか。これと同時に、万が一に備え、核武装をも視野に入れた対中ミサイル防衛にこそ、国家予算を投じる方が余程日本国の安全を高めますし、日本国民の命を救うとともに、国土の壊滅を防ぐことにもなるのではないかと思うのです。

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