万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

メビウスの輪作戦から読み解く岸田首相のウクライナ支援

2023年03月27日 10時32分51秒 | 国際政治
 岸田首相によるウクライナへの電撃訪問を受けてか、ロシアのプーチン大統領は、ロシア国営テレビのインタビューにて米欧を第二次境大戦時の枢軸国に喩えたと報じられています。全体主義体制という観点から見れば、ロシアや中国の方が余程ナチス色が強いのですが、今日の世界は、まさしく真偽が逆さまとなる二重思考に染まっているように思えます。日本国もその例外ではないのかもしれません。

 二重思考を人々に強いるための具体的な手法とは、オーウェルの『1984年』におけるゴールドスタイン説明によれば、価値の先取りと言うことになります。この手法は、同作品が世に出る以前から、政治の世界では、国民を誘導したり、騙したりする方法として使われていたのかもしれません。例えば、マルクス主義も、平等や搾取なき社会の実現を掲げつつ、結局は、その真逆の世界にたどり着いてしまっています。二重思考は、出発点とは逆の地点に導こうとするメビウスの輪作戦とも言えるのですが、上述したプーチン大統領の枢軸国発言も、最初にロシア=正義の連合国?・欧米=悪の枢軸国という等式を打ち出すことで、正義という価値を先取りしたいのでしょう。

 それでは、日本国はどうでしょうか。日本国もまた、メビウスの輪作戦に絡め取られているように思えます。例えば、岸田文雄首相は、ウクライナへの電撃訪問を終えて帰国した際に、「ロシアの侵略は暴挙だと痛感し、法の支配に基づく国際秩序を堅持しなければならないとの思いを新たにした」と述べています。同発言から同首相の認識、否、国民に対する説明としての論理を読み取りますと、(1)現在、国際社会では、法の支配に基づく国際秩序が成立している、ところが、(2)ロシアが違法行為である侵略を働いている、(3)国際社会は、法の支配が崩壊する危機にある、(4)日本国は同秩序を維持するためにウクライナを支援しなければならない、ということになりましょう。

 理路整然としているようには聞こえるのですが、一つ、重大な事実に関する誤りがあります。それは、現実の国際社会にあっては、法の支配に基づく国際秩序は、未だに形成途上にあるという点です(ロシア有罪も確定しているわけでもない・・・)。このことは、侵略軍を上回る物理的強制力を備えた‘国際警察軍’が存在していない現状にあって、首相が述べるたように同秩序を護ろうとすれば、当然に、国際法違反行為を咎める有志国が被害国のために軍事力を行使する必要があることを意味します。すなわち、岸田首相の誤った‘現状認識’に基づく論理に従えば、ウクライナ紛争は日本国も参戦すべき正義のための戦いとなり、即、第三次世界大戦に至らざるを得ないのです。

 ところが、第三次世界大戦を想定した米軍のシミュレーションは、‘日本国捨て石作戦’ですので、たとえ同大戦に勝利しても、日本国はロ中等からのミサイル攻撃により壊滅的な破壊を受けます(中ロをバックとした北朝鮮からのミサイル、さらには核攻撃も想定される・・・)。また、侵略国陣営の軍事力が有志国のそれを上回る場合には、前者が戦争に勝利し、国際法秩序そのものが破壊されることでしょう。

 果たして、岸田首相は、日本国民に対して、国際法秩序を護るため、否、ウクライナを護るために第三次世界大戦、並びに、それに伴う日本国の犠牲と破壊を受け入れるよう、国民を説得することができるのでしょうか。岸田首相の論理的帰結は戦争への協力並びに参加であり、日本国民に‘正義’に殉じる覚悟を求めているに等しいのです。法の支配に基づく国際秩序が確立していない現実を直視すれば、少なくとも日本国にとりましては、岸田首相の論理は、価値を先取りした二重思考、あるいは、メビウスの輪と言うことになりましょう。その行く先には、自国の滅亡、並びに、国際法秩序の完全消滅が待っているかもしれないのですから。

 そして、ここで問題となるのは、国際法秩序を擁護する方法は、戦争以外にあり得ないのか、という別の選択肢や他の取り得る手段の問題です。例えば、中国が提案した和平案については内容が曖昧であり、双方が合意に達するのは困難とする見方が大半を占めます。そこで、何れの国のものであれ、交渉の席に着く以前に当事国から拒否されるリスクの高い和平案の提示という形ではなく、紛争の平和的解決に関する新たな制度構築の文脈からのアプローチもありましょう。和平条件等については白紙の状態とした上で、国際機関等において紛争当事国が直接に交渉を行なえる場を設ける、あるいは、義務づけるといった案です(交渉期間中は停戦とする・・・)。既に起きてしまった紛争を如何にして平和的に解決するのか、平和解決に方針を定めた上での努力こそが、二重思考やメビウスの輪作戦から抜け出す道のように思えます。

 なお、双方の‘陣営’共に同様の詐術的な作戦を遂行している点を考慮しますと、両者共に、戦争利権をも有する世界権力によって操られ、全体の状況は上部からコントロールされているものと推測されます。岸田首相の電撃訪問と中ロ首脳会談の時期の一致は単なる偶然なのでしょうか。日頃は、中ロを刺激しないよう慎重姿勢に徹してきながら、今般に限っては、積極的に対立を煽っているようにも見えます(その一方で、ロシアに対してはウクライナ報訪問を事前に伝えている・・・)。人類滅亡へと繋がるような三度目の失敗は許されず、今度こそは三次元戦争の構図を見抜き、世界大戦を防ぐべく、人類は知恵を絞るべきではないかと思うのです。

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