万国時事周覧

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マイナンバーICチップには何が記録されているのか?

2024年10月07日 12時08分01秒 | 日本政治
 マイナンバーカードは、現状にあってのその保有率はおよそ人口の75%程度に達しており、凡そ4分の3の国民が既に取得しているそうです。こうした中、河野太郎前デジタル相が健康保険証との一本化を一気に進めようとしたことから、日本国民の多くが関心を寄せることともなりました。しかしながら、同カードには、国民に対して十分に説明されていない‘闇’の部分があるように思えます。

 デジタル庁の説明に因りますと、マイナンバーカードには、‘必要最低限の情報’とした上で、氏名、住所、生年月日、性別等の四項目が記録されているとしています。ところが、これらの四項目は、何れもマイナンバーカードの表面上に印刷されており、この点は、従来の健康保険証と何らの変わりもありません。本人確認のみを目的とするIDカードであるならば、敢て高性能のICチップを搭載する必要はないこととなりましょう。

 今日のICチップには、先ずもって記録媒体としての機能があります。同チップの記憶容量は、従来の磁気ストライプカードの100倍から1万倍とされ、このため、大量のデータを要する指紋、静脈パターン、光彩等による生体認証に使うこともできるそうです。加えて、CPU、作業用メモリー、暗号処理用のコプロセッサーなどを搭載したICチップも登場しており、その能力は、紙製の健康保険証とは雲泥の差があります。つまり、ICチップの‘万能’とも言うべき能力を考慮しますと、ICチップ付きのマイナンバーカードの発行には、本人確認を越えた目的があったと推測せざるを得ないのです。

 そこで第一に問題となるのは、マイナンバーカードに搭載されているICチップの性能です。上述したように、ICチップには様々な機能を加えることが出来ますので、メモリのみの単機能のものからCPU等を搭載した多機能のものまで、様々な種類があります。国民の多くは、マイナンバーカードに採用されているICチップの機能について、政府から詳しい説明を受けているわけではありません。

 第二にさらに重要となるのが、ICチップに記録されているデータの内容です。デジタル庁が説明には四項目‘など’とありますので、この‘など’の具体的な内容が問題となるのです。マイナ保険証のメリットしてあげられている、緊急搬送や災害避難時と言った‘非常時も安心’とする説明から推測しますと、少なくとも、健康保険が使用された全ての医療や医薬品に関する履歴がデータ化されて記録されている可能性はありましょう(遺伝子検査を行なった国民は遺伝子情報も・・・)。また、SuicaやPASMOといった交通系ICカードでは、残高のみならず、使用履歴も読み取ることができるそうです。このことは、ICチップには、保有者の使用履歴を記録する能力があることを示しており、マイナカードでも、様々な履歴やデータをも難なく記録することができましょう。そして、マイナンバーカードの利用範囲が社会保障や税等に及ぶにつれ、個人データの量はさらに増大してゆくものと推測されるのです(戸籍や住民票等ともリンケージしている?)。一体、マイナカードには、何が記録されているのでしょうか。

 もっとも、ICチップそのものに記録されているのではなく、国のデータベースにナンバー別データとして保管されている、あるいは、マイナンバーによる照会により、救命や支援に当たっている行政機関が、官民の医療機関や薬局等が個別に管理しているデータベースにアクセスできる仕組みであるのかも知れません。第三の疑問点は、システムの全般の仕組みです。

 そして、第四に問はれるべきは、誰がデータを読むことが出来るのか、と言う問題です。現在、ICカードリーダーが各社から販売されており、実際に、e-TAXによる確定申告に際してマイナンバーの利用者証明用の電子証明書の読み取りに使われています。現時点では、政府は、IDカードとしての機能のみを国民に提供しているとも考えられます。しかしながら、ICカードには多機能性がありますので、必ずしも電子証明書に関するデータのみを国民に提供しているとは限りません。言い換えますと、政府は、国民がリーダーで読み取ることができない様々なデータをも密かに保有している可能性もないわけではなく、同情報は、政府のみが読むことが出来るかも知れないのです。

 以上に主要な問題点について述べてきましたが、少なくない国民が、マイナンバーカードをデジタル全体主義への入り口として警戒するのも、政府の秘密主義にも原因があります。何が入っているか分からない、‘ブラック・ボックス’ならぬ‘ブラック・チップ’なのですから。少なくとも、自らのマイナンバーカードのICチップに記録されている全てのデータを国民自身が閲覧できるようにすべきなのではないでしょうか。国民には、知る権利があるはずです。安全性のみならず、透明性が確保されない限り、同システムに対する国民の不安を払拭することは困難となりましょう。そして、政府が収集し得る国民の情報の範囲についても、国民の自由を護り、デジタル全体主義への道を塞ぐという意味において、一定の法的制限を設けるべきではないかと思うのです。

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