万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

消えた習近平国家主席の謎

2021年03月01日 11時13分08秒 | 国際政治

 報道によりますと、日本国政府は、年内における中国の習近平国家主席の国賓来日を見送る方針なそうです。習主席の国賓来日の件は、安倍前政権において予定されていたものの、菅政権の成立により、人々の記憶から消えつつありました。そして、記憶から消えつつあるのは、国賓来日のみならず、習主席その人のようにも思えてきます。

 

 国賓来日を見送る理由として、日本国政府は、(1)尖閣諸島周辺領海における中国海警局の公船による領海侵入、(2)香港人やウイグル人に対する人権弾圧、(3)スパイ容疑による日本人の拘束、(4)福島県産の食品・農産物に対する輸入規制などが挙げられています。また、世論調査によりますと、日本国のおよそ80%の人々が中国に対して否定的ですので、歓迎ムードがゼロに近いことも一因しているのかもしれません。日本国民の大半は、’年内’どころが’永久’の見送りを望んでいることでしょう。なお、発足間もない時期に菅政権にあって訪日見送りを公表した際には、新型コロナウイルウイルスの感染拡大も主要な見送り要因とされていました。習主席の訪日は、中国からの渡航禁止措置の遅れの原因にも数えられていたのですが、日本国政府が、コロナ禍については問題としていないとしますと、年内における終息は織り込み済みなのかもしれません。あるいは、真の理由は、コロナ禍にありつつも、ワクチン接種率が政府の計画を大幅に下回り、年内に集団免疫が成立しない可能性を暗に認めているのかもしれません。

 

何れにしましても、訪日見送りは、諸般の状況を勘案した日本側による判断という印象を受けるのですが、年が明けて2か月足らずで年内の予定を決めてしまうのも不自然な感があります。もちろん、海警法の施行以降、頓に活発化してきている中国側の海洋活動の牽制が最大の狙いであれば、日本国政府が、慌てるように国賓見送りを公表する理由も頷けます。その一方で、中国側の事情にも注意を払うべきように思えます。何故ならば、習主席が存在している気配が感じられないからです。

 

それでは、何故、習主席の実在性が疑問視されるのかと申しますと、昨年暮れ、同主席は、脳内の動脈瘤を手術するために入院したという真偽不明の情報が世界中を駆け巡ったからです。同情報は、中国メディアの「路徳」が12月27日に報じたのですが、中国当局は、翌日に即デマとして同情報を打ち消し、大晦日の31日には、中国国営メディアの中国中央電視台(CCTV)が、フェイクニュースである証拠として習近平の様子を映した動画を公開しています。その後も、新年の祝辞や共産党校での学習会などにおける講演の様子が散発的に報じられているのですが、新華社通信による報道、かつ、静止画像が多い上に、講演の内容もどこかで聞いたようなスローガンの繰り返しのようで月並みです。例年であれば、習主席の演説は、日本国内のメディアでも、’世界の指導者のお言葉’とばかりに紙面の一面に掲載される程に大々的に報じられるのですが、今年の扱いはどこかトーンダウンしているのです。

 

 習主席をめぐる最近の状況を見ますと、中国国内における政治的な異変を予感させます。’現代の皇帝’、あるいは、独裁者としての存在感が薄まり、頂点にあって国民を睥睨していたかつての勢いが失われているのです。この変化は、一体、何を意味するのでしょうか。上海閥との抗争において江沢民派が巻き返したのかもしれませんし、習近平独裁体制が緩み、集団指導体制に回帰したのかもしれません。あるいは、中国の関与が取りざたされたアメリカ大統領選挙も関係している可能性もありましょう。日本国政府の判断の背景には、中国における’政変’が絡んでいるかもしれず、水面下での動きにこそ注目すべきように思えます。なお、蛇足となりますが、上記の理由で習主席の国賓来日を見送るのですから、日本国は、中国に’塩を送る’ようなRCEPへの参加も見送るべきではないでしょうか。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする