
柳下恵(りゅうか・けい)という人の関係で、『論語』を読んでいます。全く知らない人でしたが、今の日本の政治とは全く正反対の人なんだなと思われます。
いや、今時、世界にこんな人はいるんだろうか。いるのかもしれないけど、日本にはいないな……。
微子第十八の二つ目のお話です。
柳下恵(りゅうか・けい)、士師(しし)と為(な)り、三たび黜(しりぞ)けらる。
人の曰(い)わく、「子(し)未(いま)だ以(もっ)て去るべからざるか。」
曰わく、「道を直(なお)くして人に事(つか)うれば、焉(いず)くに往(ゆ)くとして三たび黜(しりぞ)けられざらん。道を枉(ま)げて人に事うれば、何ぞ必らずしも父母(ふぼ)の邦(くに)を去らん。」
柳下恵さんは魯(ろ)の国の大夫(名士)です。士師というのは犯罪者を扱うお仕事ですが、そのお仕事に三度就任して、三度とも退けられました。上司から嫌われたのか、正直にお仕事をしすぎたのか、とにかく上手に役人生活を送ることができませんでした。
ある人が訊ねました。「あなたはどうしてこの国から出ていかないのですか? 真面目にお仕えするたびにあなたは仕事で行き詰まり、すぐにクビにされてばかりじゃないですか。こんな国に見切りをつけて、新しい世界であなたの才能を生かすことを考えればいいじゃないですか!」そういう提案だったと思われます。
いや、柳下恵さんから本音を聞き取って、さらに無実の罪でも着せて、陥れようとしたんだろうか。人の世界はイマイチわからないから、そういう落とし穴もありますね。
思わず本音で、上司の悪口とか言ってしまったら、それは危なかったでしょうし、たとえクビになったとしても、責任ある地位にある人はいつも誰かが何か聞き耳を立てているでしょう。
さあ、柳下恵さんはどんな発言をしますか?
「正直に仕事をして、お役所勤めをしていたら、どんな国に行ったとしても、三度くらいはクビになるでしょう。
それでも、真面目に仕事をしているだけだから、まさか殺されはしないでしょう。何も悪いことはしていないのだから。
世の中には、確かに上司の意向を受けて、権力を振り回す人がいるかもしれない。そして、後々その責任を問われたとしても、
「私はそんなことは言っていないし、地方の役人たちが勝手な妄想を述べ立てたとしても、それはすべて不確かな発言であり、私が言っていることが真実だ。」
なんて言う人だっているかもしれない。それは、正直なのではなくて、上司の命令通りの横暴を通しているだけです。
それは役人として、正直なのではなくて、ただの権力志向の不誠実な人です。そういう人と私は違います。私は、役人として人々のためになるようにしているだけです。そうすると、たいてい三度くらいはクビになるのは当たり前です。
要するに、役人というのは、人々に不誠実に仕事するというのが当たり前なのかもしれないけれど、だからといって私はめげないのです。
何度でもクビにされましょう。それでも私は、何とも思いません。
退けられないように、道をまげて人に仕えるくらいなら、何も父母の国を去る必要もないでしょう。
私は誠実に人に仕えたいし、自分の生まれたこの国で、何度クビになろうとも、私のやり方で生きていきたいのです。

ああ、なんてさわやかで、誠実な生き方を通そうとした人なんでしょう! こういう生き方だから、二千五百年後の今でもその名が伝わっていますよ。
ということは、こういう生き方はそれだけ難しいんでしょう。
普通は、すべてが闇の中で、すべてはウヤムヤで、権力者はやりたい放題だし、それをストップさせる力はなかなか見つからない。
だから、何か人間ではなくて、人間以外の何かで権力の暴走にブレーキをかけるシステムが必要です。
それは何にでも通用します。原発だって、新幹線だって、地震だって、宇宙開発だって、サンゴ礁の埋め立てだって、すべての物事は当たり前のように人間たちで推し進められるけれど、それは私たち個人の力では止められない。けれど、人間以外の何かを人間の力で生み出せないものか、と私は思うのです。それによって暴走を止めなくては!
私はそう思うだけで、何もできていないなあ。