荻昌弘さんの「歴史はグルメ」(1986 中公文庫)をチビチビ読んでいます。
いろんな食材・料理ごとに項目を設けて、荻さんが見聞きされたことを書いておられて、なかなか貴重な本だったのだと改めて感じています。少し読むのに時間がかかりすぎていて、いつ読み終わるんだろうという気もするけど、まあ、いいですね。
魚のスズキについて書いてあるところでは、平清盛さんが熊野詣をする時の船にスズキが飛び込んできたお話で取り上げられていて、確かにそれは有名だし、スズキといえば清盛さんというのも納得します。
その後に、「冒険者たち」(1967)の映画の話が出てきます。
フランス映画の快作「冒険者たち」にも、アフリカ沖へ海底の宝探しに出た主人公たちのひとり、ジョアンナ・シムカスが、思いがけずスズキを釣り上げる印象的なシーンがあった。
「この魚は、いつも一匹だけで泳ぐのよね。ひとりで生きてゆけるのよね。羨ましい。」
などと彼女は言い、やにわに棒切れで魚の眉間をコツンと一撃して、眠らせてしまう。口のききようがスガスガシいわりには、可愛げのない動作だと思えたが、魚をウマく食べるにはあの「のじめ」というやり方がいちばんであるはずで、理にはなかってるリアリズム演技にはちがいなかった。
ということでした。
そこから、日本とフランスのスズキの食べ方を書いておられるのですが、せっかく書いてもらっても、スズキという魚の味さえ思い出せないお子ちゃまの私は、とてもそうした世界にたどり着けないのです。
いったい私はいくつなんだ!
「冒険者たち」は、最後は悲劇で終わるんだけど、あんなに楽しく過ごしてた3人が、それぞれの思いを遂げられないまま終わってしまう。
それでも、ファンがいるというのは、シムカスさんの愛らしさと、男たちの優しさと、何とも言えない空気感を味わいたくて、また見たくなる映画だったんでしょう。
70年代の子どもの私は、テレビでこの映画を見たんだろうか。76年の1月に、荻昌弘さんの「月曜ロードショー」でオンエアされたというけれど、見たんだろうか。見てないかもしれないな。
雑誌の「ロードショー」には、シムカスさんが出ていて、何とも魅力的だったけれど、今、あれこれ画像を見てみると、当時の子どもたちを憧れさせるキュートさはあったと思うんですけど、わかりやすいかわいらしさだった気がします。
本当はどうだったんだろう。とにかく、70年代、いろんなものにあこがれはしたんです。自分はどうあれ、とにかくいろんなものを見ていました。足元はあまり見ていなかったのかも。ああ、何たることか……。
そう、今さらなのは、シムカスさんのことばです。人はひとりでは生きていけなくて、誰かのそばにいないと困ってしまうんでした。憧れでもあり、諦めでもあったのかもしれない。それを脚本の人は知ってたのかもしれません。