甘い生活 since2013

俳句や短歌などを書きます! 詩が書けたらいいんですけど……。

写真や絵などを貼り付けて、二次元の旅をしています。

貧者の恋人 川端康成さんの作品から

2021年01月31日 05時51分19秒 | 本と文学と人と

 この何とも言えない男女の会話を研究しようと、打ち込んでみました。川端康成さんの「貧者の恋人」という短い小説です。最近はずっとこの本から数ページずつ読んで寝るというパターンを繰り返しています。

「この芝居のね、一幕はお前のためにレモンの林にしてやろう。

 レモンの林は見もしないが、密柑山の色づいているところは紀伊で見たことがあるんだ。秋のいいお月夜に大阪あたりからも大勢見物に行くんだ。月明かりに蜜柑が狐火のようにぽつぽつ浮かんで、まるで夢のともし火の海なんだ。レモンは蜜柑よりもずっと明るい黄色だからね。ずっと暖かいともし火だからね。舞台にだってその感じを出せば……。」
「そうね。」
「面白くないのか。――もっとも僕にはそんな南国的な明るい芝居は書けそうもないさ。もっと有名になって出世してからでないとね。」

 川端さんは本当に和歌山のレモンの林を見たのかどうか、熱海から小田原にかけての風景みたいなものとしてとらえてないかな。でも、とても珍しいコメントだなと打ち込みたくなったんでした。

 男は脚本家で、女の子と暮らしているようです。女の子にとっては四人目くらいの男です。前に一緒だった男たちはそれぞれ出世して、女の子を置き去りにしていきました。

 女の子は、出世する男を見極める力があって、そういう人と一緒に暮らしているらしい。何だか、女の人を自分の思いのままに扱う川端さんらしい登場人物です。



「人間って、どうして皆出世しなければならないんでしょう。」
「いきられないからさ。しかし僕の出世も今となっては覚束ないものだ。」
「出世なんかいらないわ。出世なんかなんになるんでしょう。」
「ふうん、その点だけはお前も新しいよ。例えば今の学生は自分の立っている土台を憎むか、憎まないまでも疑っている。その土台を壊さねばならんし、また壊れることを知っているんだ。

 女の子は、何人もの男が立身出世を希望し、そちらに目が向いていく様を何度も見てきたそうで、そんなのは要らないと言います。今回の男も、やはりそれを目的に生きている。男はみんな、生きるために自らの立身出世をめざしているようです。

 まあ、確かにそうなんですよね。生活のため、豊かな暮らしをするため、カネをたくさん稼がねばならない、そういう使命を自らに課しているようです。



 立身出世という奴は、この壊れると分かっている土台の上で、梯子登りをやることなんだ。高く登れば登るほど危険なんだ。そうと知りながら、周囲はもちろん彼自身からもこの梯子登りを強いられているんだ。また今では立身出世とは無良心なりなんだ。それが時代の流れなんだ。貧乏で暗くなっている僕は、そのもう一つの古い奴だ。貧しくてレモンの実のごとく明るきは新しきなりか。」
「でも、私はただ貧者の恋人であるだけのことですわ。男の方は皆出世さえすればいいんですし、出世のことばかり考えていらっしゃいますわ。けれども女は――女には二つの種類があるだけですわ。貧者の恋人と富者の恋人とがあるだけですわ。」

 男はありきたりの、出世に関する発言をしています。彼らの足元は不安定で、それでもハシゴに登って、高いところにある果実に手を伸ばそうとする。足もとが不安定なのは分かっているんだけど、ハシゴを登る時の浮遊感とか、視界が変わることとか、そんなことなんかどうでもいいと思っている。とにかく、欲しいものが目の前にぶら下がっているから、それを取ろうとする。

 女の子は、それを見守るだけなのか。いや、そういう男を選んでしまって、そうした自分の選択の責任・結果を受け入れるというとこなのかな。


 小説では、女の子は新しい恋人を見つけ、その人は貧乏のままで終わるという話でした。考えてみれば、つまらない小説だな。いつもの皮肉やら、女の人をおもしろおかしく描くパターンはありませんでした。

 ただ、冒頭でこの女の人は、全身にレモンを塗りたくる人だった、というのがあって、そんなことしてかゆくならないの? と心配になるようなことが書いてあって、まあ、美容法としてあったんですね。それが珍しいだけかな。

 オチがもう少し違ってたら、別の雰囲気があったと思うんですけど、どうして取り上げたのか、それさえ分からなくなってきました。

 この受け入れるだけの女性像って、なんかイヤだなあ。少し昔風です。新しいオンナの人ではないですね。でも、川端さんは、そういうの好きだったろうな。生意気な女はキライだったんじゃないかな。 



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