この歌碑の写真を撮ってから何年経ったんでしょう。七年くらい経ったのかな。それだけ年を取ったんですけど、ちっとも賢くならないし、お腹は……、ダメなところがどんどん目立っています。
もちろん、まるで記憶がないのです。でも、ちゃんと上田三四二(みよじ)さんだから、中身は見なくても、とりあえず撮っておこうと思えたはずです。
上田さんはもう何十年も前からお名前だけは知っていました。お医者さんではあるんだけど、短歌も書いて、評論みたいなのも書いて、すごい人なんだというのは知っていました。ウチには何冊かありますけど、ちゃんと読み通したのは何冊あるんだろう。
歌そのものは、わりとシンプルな歌でした。
滝の水は空のくぼみにあらはれて空ひきおろしざまに落下す
空のくぼみから落ちてくるような、それくらい高いところから落下してくる水ではありました。日光の華厳の滝もなかなか立派な滝ではあるんだけれど、滝つぼから見上げるのではありませんし、かなり恐れかしこみながら近づいて、一番近いところの滝つぼの手前数十メートルのところから、ずっと見上げる。そうすると空にくぼみがあって、そこから水が落ちてきているのです。
あまりに落下する距離がありすぎて、すべてが真下に落ちることができず、途中で空気中にまぎれていくのです。最前列にいたら、その空に舞う水を浴びることができる。神様と一体になれる、有り難い空間であったのです。
そして、空からの水は、天上世界から何かを引き下ろしている気がするんだけど、それは詩人の感性でしか感じられないかもしれないけど、空と滝と山と水と神様と人が混然一体になった空間が生まれているようでした。
写真なんか撮ってはいけないのです。
でも、私は何枚か撮りましたけど、私の力では滝の霊力は撮れなくて、お祈りしている姿に、少しだけその空間が感じられました。
おばあちゃんと男の子は同じグループだったんだろうか。
もう何もわかりませんけど、滝つぼから見上げる滝はステキでした。
1 台風禍も 熊野の滝を信ずべし
………前の年の台風被害があちらこちらに残ってたりしましたっけ。
2 那智の滝 控えめに咲くサクラ
………川沿いの工事現場を見ながら、那智の滝まで登って行ったんでしたっけ。
そんなこと、今さら思い出してもねえ。