[8月29日09:40.東名高速下り線・足柄SA 稲生ユウタ、威吹邪甲、イリーナ・レヴィア・ブリジッド、マリアンナ・スカーレット]
バスは東名高速でも大規模で有名な足柄サービスエリアに入った。
〔「足柄サービスエリアに到着です。こちらで10分間の休憩を取らせて頂きます。発車は9時50分です。時間までにお戻りくださいますよう、よろしくお願い致します」〕
バスが専用駐車スペースに止まると、大きなエアー音がしてドアが開いた。
「ちょっと降りてみましょうか」
「ええ」
ユタとマリアはバスを降りた。
「うーん……ここまで来るとさすがに雨は降ってないけど、まだ曇ってるなぁ……」
その為、天気が良ければ記念撮影をする人を必ず見かけるほど富士山がよく見える場所だが、今現在は雲に隠れてしまっている。
「お前の師匠、寝言言いながら寝てたんで置いてきたぞ」
後から威吹が眉を潜めて言った。
「ああ。別にいいぞ。何か言ってたか?」
「火山が爆発するって言ってたな」
「それ、富士山かい!?」
「いや、おおかた魔界のスーパーグレート火山だろう。ていうか、しょっちゅう噴火しているんだが、あそこ」
アルカディア王国に地熱エネルギーを供給している火山で、王国全体が常春の陽気なのもその火山の活動が理由。
富士山の活動と連動しているという噂が……?
[同日09:50.東名高速下り線“やきそばエクスプレス”1号、車内。 ユタ、威吹、イリーナ、マリア]
〔……次は東名富士、富士です〕
バスが再び東名高速の本線に入る。
10分程度の休憩では、せいぜいトイレの利用で終わる。
「長野の……御嶽山……」
「あ?」
威吹は隣に座るイリーナの寝言が耳に入って、訝し気な顔をした。
「藤谷班長も前乗り目的で、富士宮に向かっているみたいですね」
1つ前の席にユタは自分のスマホを見ながら言った。
「班長だけじゃなく、栗原さん達も一緒か。熱心だなぁ……」
「観光目的とかじゃないの?」
「それもあるのかな?まあ、いいや。『こちらは足柄SAを出たところです。お気をつけて』と返しておこう」
「昔は魔法の1つだったものが、今では科学でできる」
「そうですね」
「『魔法は今や絶滅寸前、時代遅れだが、無いと困るもの』だそうだよ」
「誰の受け売りですか?」
「師匠。引いては大師匠」
「無いと困るもの……」
「鉄道で言うならSL、バスならボンネットバスじゃないか。絶滅寸前、時代遅れの乗り物なのに、何故か今でも存在する。それはどうしてだろう?」
「確かに無いと困るわけではないですどね……」
だからこそ、JR東海ではSLを全廃してしまった。
「魔法は『無いと困るもの』なんだそうだ」
「そうなんですか」
「何が、無いと困るのかは私も分からない。でも、私にはこれしかない。だからユウタ君が羨ましい」
「えっ?」
「私には……師匠もだけど、魔道師になるに当たって、捨てる物なんて無かった。だけど、ユウタ君には捨てるものがある。それがあるのは羨ましい」
「なるほど……」
「師匠は急いでほしいみたいだけど、私は焦らせるつもりは無い。だから、よく考えて」
「分かりました」
[同日10:50.静岡県富士宮市ひばりヶ丘 富士急静岡バス富士宮営業所 ユタ、威吹、イリーナ、マリア]
〔「ご乗車ありがとうございました。終点、富士宮営業所です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください」〕
「御開扉のある日なら、大石寺の第2ターミナルまで行ってくれるんですけどね。今日は金曜日で、違うからなぁ……」
但し、その後運行される“やきそばエクスプレス”3号は御開扉の有無に関わらず、大石寺を経由する。
終点が白糸の滝の為。日蓮宗・本門寺入口バス停も通る。
営業所建物の脇にバスが止まる。
「お世話様でしたー」
バスを降りて、今度は荷物室から荷物を下ろす。
「随分大きい荷物だが、一月分か」
威吹が両手にキャスター付きバッグを抱えた。
「おー、ありがとー。さすが威吹君は力持ちだねぃ……」
イリーナは感心した様子で言った。
「で、この後はどう行くんですか?バス?タクシー?」
「いや、魔法で行くよ。ここからなら、私も魔力の消費が少なくて済むからね」
「え?」
マリアは件のバッグの蓋を開けた。
意外にも、そこには何も入っていない。
「はい、ユウタ君。この中に入って」
「へ!?」
「ほーら、威吹君も」
イリーナはもう1つのバッグを開けて、そこに威吹を誘導した。
「な、何を企んでいる!?」
「だから、魔法で現地に移動するんだって」
「何がだ!」
ほぼ強制的に押し込められる2人だった。
[同日だと思うが時刻不明。多分、昼。青木ヶ原樹海ではないと思うが、どこかの森の中 ユタ、威吹、イリーナ、マリア]
「はい、到着ぅ!」
しばらく真っ暗な中を漂ったと思ったユタだったが、外からイリーナの陽気な声が聞こえて来た。
そして、バッグの蓋が開けられ、
「!」
鞄の中から這い出たユタの目の前に広がっていたのは、鬱蒼とした森の中だった。
「ここはどこですか!?」
「富士山の麓の森の中よ」
「青木ヶ原樹海!?」
「……ではないね。まだ静岡県内だし」
イリーナは上空を見上げて言った。
「ここがそうなんですか?」
「実は、もうちょっと先なのよ。でも大丈夫。近いからね」
「それより早く出せ!」
もう1つの鞄が、まるでディズニーのアニメのように暴れ回った。
「この先に天然のトンネルがあるから、そこを通って行くと近いのよ」
「トンネル?通って大丈夫なんですか?」
「天然の洞窟みたいなものでね。大丈夫。この森に棲む動物達くらいしか通らないから」
「なるほど……」
「外よりも涼しいと思うわ」
「それはいいですね」
ようやく鞄から出た威吹。
「おい、荷物はここに置いて行くのか?」
「大丈夫。取られたりしないから。こういう森に好き好んで入って来るお間抜けさんはいないと思うわ」
(それ、僕達のことじゃ……?)
という素朴な疑問をユタは打ち消した。
少し行くと、まるでファンタジーゲームのダンジョンのような洞窟の入口が現れた。
「ここ、ですか?」
「そう。ここ」
「何か出そうですね」
「動物くらいしか出ないわよ」
(その中にはコウモリとかゲジゲジとかいるんだろうなぁ……)
そう思いつつ、ユタは魔道師達の後をついて洞窟の中に入った。
「そんなに足場は悪くないと思うよ」
と、マリア。
「ああ、そうですね」
とはいうものの、時折段差があって、そこを飛び降りたり、逆によじ登ったりする箇所があった。
なるほど。これなら確かに大きな荷物を持っては通れない。
「獣の臭いがする」
威吹が鼻をヒクつかせた。
「アオオオオン!」
「い、犬の鳴き声!?」
「野犬がいるのか?」
だがその犬は1頭や2頭ではなく、
「群れかよ!」
しかも何故か威吹は脇差を抜いた。
「! 気をつけて!このコ達、魔法で操られてる!」
「なにっ!?」
襲い掛かって来る野犬達。
威吹は脇差を振って、野犬達をバッタバッタと切り倒した。
本差は妖刀で、妖気を孕む妖怪しか斬れないため、それ以外の敵を倒す場合は脇差を使用する。
脇差は妖刀ではなく、真剣だからだ。
「師匠、これは一体……!?まさか、ポーリン師が!?」
「いいえ。ポーリンは動物を操る魔法はできないはず……」
「ガアアアッ!」
数が多くて威吹でも掃い切れない個体が、魔道師達に向かってくる。
イリーナはポケットの中から、少し大きめのビー玉のようなものを野犬達に投げた。
ピコーン!ピコーン!ピコーン!
「何ですか、あれ!?」
ユタがイリーナに聞いた。
「試作品のデコイよ。獰猛な動物達に襲われて、魔法を使うヒマも無い場合に使うんだけど……」
「何だ、これは!?」
「あ、動物って、もしかして威吹君も?」
ドカーン!
「あ……」
「威吹!?」
デコイが爆発した。
特殊なアラームと光に吸い寄せられた野犬達が集まるが、妖狐(狐の妖怪)である威吹も吸い寄せられたのか?
で、爆発した。
野犬達は爆風に吹き飛ばされ、これでユタ達に襲い掛かって来る野犬の群れは一掃できたが、
「お……お前らなァ……!」
さすがに威吹は無事だった。
まあ、それなりのケガはしていたが。
「あー、ゴメンゴメン。マリア、回復魔法掛けてあげて」
「はい」
「一体、何なんですか、これは?」
ユタが困惑した様子で言った。
「ちょっと、洞窟を出てみないと分からないねー」
イリーナも肩を竦めて答える。
「早く出た方がいいと思うぞ。これは後で新手が来るかもだ」
威吹はマリアに回復魔法を掛けてもらいながら言った。
バスは東名高速でも大規模で有名な足柄サービスエリアに入った。
〔「足柄サービスエリアに到着です。こちらで10分間の休憩を取らせて頂きます。発車は9時50分です。時間までにお戻りくださいますよう、よろしくお願い致します」〕
バスが専用駐車スペースに止まると、大きなエアー音がしてドアが開いた。
「ちょっと降りてみましょうか」
「ええ」
ユタとマリアはバスを降りた。
「うーん……ここまで来るとさすがに雨は降ってないけど、まだ曇ってるなぁ……」
その為、天気が良ければ記念撮影をする人を必ず見かけるほど富士山がよく見える場所だが、今現在は雲に隠れてしまっている。
「お前の師匠、寝言言いながら寝てたんで置いてきたぞ」
後から威吹が眉を潜めて言った。
「ああ。別にいいぞ。何か言ってたか?」
「火山が爆発するって言ってたな」
「それ、富士山かい!?」
「いや、おおかた魔界のスーパーグレート火山だろう。ていうか、しょっちゅう噴火しているんだが、あそこ」
アルカディア王国に地熱エネルギーを供給している火山で、王国全体が常春の陽気なのもその火山の活動が理由。
富士山の活動と連動しているという噂が……?
[同日09:50.東名高速下り線“やきそばエクスプレス”1号、車内。 ユタ、威吹、イリーナ、マリア]
〔……次は東名富士、富士です〕
バスが再び東名高速の本線に入る。
10分程度の休憩では、せいぜいトイレの利用で終わる。
「長野の……御嶽山……」
「あ?」
威吹は隣に座るイリーナの寝言が耳に入って、訝し気な顔をした。
「藤谷班長も前乗り目的で、富士宮に向かっているみたいですね」
1つ前の席にユタは自分のスマホを見ながら言った。
「班長だけじゃなく、栗原さん達も一緒か。熱心だなぁ……」
「観光目的とかじゃないの?」
「それもあるのかな?まあ、いいや。『こちらは足柄SAを出たところです。お気をつけて』と返しておこう」
「昔は魔法の1つだったものが、今では科学でできる」
「そうですね」
「『魔法は今や絶滅寸前、時代遅れだが、無いと困るもの』だそうだよ」
「誰の受け売りですか?」
「師匠。引いては大師匠」
「無いと困るもの……」
「鉄道で言うならSL、バスならボンネットバスじゃないか。絶滅寸前、時代遅れの乗り物なのに、何故か今でも存在する。それはどうしてだろう?」
「確かに無いと困るわけではないですどね……」
だからこそ、JR東海ではSLを全廃してしまった。
「魔法は『無いと困るもの』なんだそうだ」
「そうなんですか」
「何が、無いと困るのかは私も分からない。でも、私にはこれしかない。だからユウタ君が羨ましい」
「えっ?」
「私には……師匠もだけど、魔道師になるに当たって、捨てる物なんて無かった。だけど、ユウタ君には捨てるものがある。それがあるのは羨ましい」
「なるほど……」
「師匠は急いでほしいみたいだけど、私は焦らせるつもりは無い。だから、よく考えて」
「分かりました」
[同日10:50.静岡県富士宮市ひばりヶ丘 富士急静岡バス富士宮営業所 ユタ、威吹、イリーナ、マリア]
〔「ご乗車ありがとうございました。終点、富士宮営業所です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください」〕
「御開扉のある日なら、大石寺の第2ターミナルまで行ってくれるんですけどね。今日は金曜日で、違うからなぁ……」
但し、その後運行される“やきそばエクスプレス”3号は御開扉の有無に関わらず、大石寺を経由する。
終点が白糸の滝の為。日蓮宗・本門寺入口バス停も通る。
営業所建物の脇にバスが止まる。
「お世話様でしたー」
バスを降りて、今度は荷物室から荷物を下ろす。
「随分大きい荷物だが、一月分か」
威吹が両手にキャスター付きバッグを抱えた。
「おー、ありがとー。さすが威吹君は力持ちだねぃ……」
イリーナは感心した様子で言った。
「で、この後はどう行くんですか?バス?タクシー?」
「いや、魔法で行くよ。ここからなら、私も魔力の消費が少なくて済むからね」
「え?」
マリアは件のバッグの蓋を開けた。
意外にも、そこには何も入っていない。
「はい、ユウタ君。この中に入って」
「へ!?」
「ほーら、威吹君も」
イリーナはもう1つのバッグを開けて、そこに威吹を誘導した。
「な、何を企んでいる!?」
「だから、魔法で現地に移動するんだって」
「何がだ!」
ほぼ強制的に押し込められる2人だった。
[同日だと思うが時刻不明。多分、昼。青木ヶ原樹海ではないと思うが、どこかの森の中 ユタ、威吹、イリーナ、マリア]
「はい、到着ぅ!」
しばらく真っ暗な中を漂ったと思ったユタだったが、外からイリーナの陽気な声が聞こえて来た。
そして、バッグの蓋が開けられ、
「!」
鞄の中から這い出たユタの目の前に広がっていたのは、鬱蒼とした森の中だった。
「ここはどこですか!?」
「富士山の麓の森の中よ」
「青木ヶ原樹海!?」
「……ではないね。まだ静岡県内だし」
イリーナは上空を見上げて言った。
「ここがそうなんですか?」
「実は、もうちょっと先なのよ。でも大丈夫。近いからね」
「それより早く出せ!」
もう1つの鞄が、まるでディズニーのアニメのように暴れ回った。
「この先に天然のトンネルがあるから、そこを通って行くと近いのよ」
「トンネル?通って大丈夫なんですか?」
「天然の洞窟みたいなものでね。大丈夫。この森に棲む動物達くらいしか通らないから」
「なるほど……」
「外よりも涼しいと思うわ」
「それはいいですね」
ようやく鞄から出た威吹。
「おい、荷物はここに置いて行くのか?」
「大丈夫。取られたりしないから。こういう森に好き好んで入って来るお間抜けさんはいないと思うわ」
(それ、僕達のことじゃ……?)
という素朴な疑問をユタは打ち消した。
少し行くと、まるでファンタジーゲームのダンジョンのような洞窟の入口が現れた。
「ここ、ですか?」
「そう。ここ」
「何か出そうですね」
「動物くらいしか出ないわよ」
(その中にはコウモリとかゲジゲジとかいるんだろうなぁ……)
そう思いつつ、ユタは魔道師達の後をついて洞窟の中に入った。
「そんなに足場は悪くないと思うよ」
と、マリア。
「ああ、そうですね」
とはいうものの、時折段差があって、そこを飛び降りたり、逆によじ登ったりする箇所があった。
なるほど。これなら確かに大きな荷物を持っては通れない。
「獣の臭いがする」
威吹が鼻をヒクつかせた。
「アオオオオン!」
「い、犬の鳴き声!?」
「野犬がいるのか?」
だがその犬は1頭や2頭ではなく、
「群れかよ!」
しかも何故か威吹は脇差を抜いた。
「! 気をつけて!このコ達、魔法で操られてる!」
「なにっ!?」
襲い掛かって来る野犬達。
威吹は脇差を振って、野犬達をバッタバッタと切り倒した。
本差は妖刀で、妖気を孕む妖怪しか斬れないため、それ以外の敵を倒す場合は脇差を使用する。
脇差は妖刀ではなく、真剣だからだ。
「師匠、これは一体……!?まさか、ポーリン師が!?」
「いいえ。ポーリンは動物を操る魔法はできないはず……」
「ガアアアッ!」
数が多くて威吹でも掃い切れない個体が、魔道師達に向かってくる。
イリーナはポケットの中から、少し大きめのビー玉のようなものを野犬達に投げた。
ピコーン!ピコーン!ピコーン!
「何ですか、あれ!?」
ユタがイリーナに聞いた。
「試作品のデコイよ。獰猛な動物達に襲われて、魔法を使うヒマも無い場合に使うんだけど……」
「何だ、これは!?」
「あ、動物って、もしかして威吹君も?」
ドカーン!
「あ……」
「威吹!?」
デコイが爆発した。
特殊なアラームと光に吸い寄せられた野犬達が集まるが、妖狐(狐の妖怪)である威吹も吸い寄せられたのか?
で、爆発した。
野犬達は爆風に吹き飛ばされ、これでユタ達に襲い掛かって来る野犬の群れは一掃できたが、
「お……お前らなァ……!」
さすがに威吹は無事だった。
まあ、それなりのケガはしていたが。
「あー、ゴメンゴメン。マリア、回復魔法掛けてあげて」
「はい」
「一体、何なんですか、これは?」
ユタが困惑した様子で言った。
「ちょっと、洞窟を出てみないと分からないねー」
イリーナも肩を竦めて答える。
「早く出た方がいいと思うぞ。これは後で新手が来るかもだ」
威吹はマリアに回復魔法を掛けてもらいながら言った。