[12月16日10:00.埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾、マリアンナ・スカーレット]
「魔界からの揺さぶりがここまでとは思わなかった」
今はさすがに雪も止み、日が差していた。
だが外は雪が積もっていて、まるで雪国のようだ。
マリアは居間に集まったメンバーを見渡して言った。
「大魔王バァルが魔界に戻って来るという噂は本当ですか?」
カンジがポーカーフェイスを崩さずに言った。
「少なくともうちの師匠はもちろん、その上の大師匠様もそのように予言されている。ほぼ間違いないだろう」
「それは何故だ?女王陛下の話では、数百年は戻って来ぬはずだろう?」
「……これはあまり口外できない話なのだが、大師匠様がバァル大帝を唆したとも聞いた」
「は!?」
「大師匠様は、イリーナ師匠が一時期宮廷魔導師を務める前に、元老院の一員だったことがある。バァル大帝からの信任も厚かったようだ」
「すると、大魔王バァルは大師匠の情報に踊らされたと気づいて、急いで戻って来たというわけですか」
「可能性はある」
「ちっ。嘘をつくなら、もっとマシな嘘をつけというものだ」
「何だと!?」
威吹の言葉に、マリアがカチンと来た。
「私が嘘をついてるとでも言うのか!」
「はあ?いや、オレはアンタが嘘を付いているとは言っておらん。大師匠とやらが、大魔王に対してもっとマシな嘘をつけと陰口を叩いたまで。想定期間数百年に対し、数年は短い」
「まあ……それはそうだが」
マリアは振り上げた拳を下ろした。
「それで、だ。ユウタ君から聞いたんだけど、刀が折れたそうだな?」
「ああ。それがどうした?」
「今は1人でも戦力が欲しい。うちの師匠が、お前の刀を直すそうだ」
「なにっ!?」
「それは本当ですか?」
2人の妖狐は目を丸くした。
「それは魔法で?」
ユタの言葉に微笑を浮かべるマリア。
「魔法なんだけど、師匠が直接ではなく、師匠の魔道師仲間で直せるのがいるらしい。それを紹介するとのことだ」
「そりゃいい話だ」
「ふーむ……」
「威吹!いいじゃないか!刀が直るんだよ!?」
「それは吝かではないのだが、法外な対価を要求されることはないだろうな?」
「普通の日本刀を直すわけではないから、それなりの対価は掛かるだろう。とはいえ、お前が用意できる金でいいそうだぞ」
「ほお……」
「今、用意できる大金はいくらだ?」
「そうよなァ……。取りあえず今現在、懐に20両はあるが……」
威吹は着物の懐から、チラッと小判の束を見せた。
「先生、オレもカンパします!」
人間形態のカンジは、基本的に着物ではなく、今風のシャツにジーンズだ。
ジーンズのポケットから出した財布には、ぎっしりと札が入っていた。
(どうして妖狐族はお金持ってるんだろう???)
ユタが常日頃から思っていること。
妖狐を御使いとする稲荷大明神は、確かに商売繁盛の神として祀られているが……。
但し、イリーナに言わせれば、 それは神ではなく、強欲の悪魔マモンに似た存在だという。
強欲の悪魔も、それと契約すれば金には困らなくなるというが……。
「取りあえず、その金で交渉してみる」
「あの、マリアさん」
「なに?」
話が終わった頃を見計らって、ユタが挙手して話に入る。
妖狐達の前では険しい顔のマリアも、ユタの前では表情を崩す。
「地獄界の様子はどうなんですか?かなり厳しい状態だそうですが……」
「取りあえず閻魔庁が動いて、そこの直属部隊によって、叫喚地獄の方は敗北を免れた」
「おおっ!」
「だけど、その本部事務所たる蓬莱山家は半壊半焼。次男の蓬莱山鬼郎丸は重傷だ」
「キノの弟さん……」
「末娘の蓬莱山魔鬼も精神不安定により、閻魔庁にて療養中、長姉の美鬼が付き添いをしているもようだね」
「キノ本人は?」
「栗原江蓮の所で療養中」
「ウソだぁ〜」
「体のいい同棲ですな」
妖狐族はそれぞれ好き勝手なことを言った。
「だけど、激戦を戦い抜いたのは間違いないよね。ちょっと、詳しい話を聞いてみる」
ユタは手持ちのスマホを取り出し、江蓮のケータイに掛けた。
「あ、もしもし。栗原さん?どうも、こんにちは。稲生です」
ユタとは気心知れた、お寺の仲間。
そんなつもりで話していたのだが、何故かマリアが眉を潜めた。
「……いや、しばらくは勧誡できそうにない。大学を卒業したら、家を出ようかと思ってる。その時がチャンスかもね。……で、話はそういうことじゃなくて、キノのこと。……そう。大変だったねぇ……」
ユタが多弁になるのを見て、表情を曇らせるマリア。
「まあ、そこは人間同士。気が楽になるのも無理は無い。魔女が相手では、身も構えるというものだ」
威吹はニヤッと笑って言った。
「まあ、栗原女史には既に先約があるので、それを知らぬ稲生さんではないでしょうがね」
と、カンジがフォローになってるんだかなってないんだかといった言葉を発した。
「……へえ、そうなんだ。激戦だったみたいだしねぇ……。あ、ちょっと待って!」
ユタは電話から顔を離した。
「あの、キノも激戦で刀が折れちゃったみたいで……。キノの刀も直せますか?」
「頼んでみるけど……。ただ、タダではないぞ?」
「もしもし?有料だけど、直せるかもしれないって。……そう。……うん。また、詳しいことが分かったら電話するから。……え、そうなの?」
「マリアンナ師。お気づきになりませんか?」
「何がだ?」
カンジの言葉にマリアが訝し気な顔をした。
「何故、稲生さんが親し気に会話できているのか……」
「どうせ私は魔法使いだ。ただの人間とは違う……」
「そういうことではありません。確かにあなたは、生粋の人間ではない。しかし、我々妖狐よりもずっと人間同然の姿をしています。しかし、あなたは稲生さんが自然に会話できないバリアーを作ってしまっているのですよ」
「バリアー?」
「栗原女史は稲生さんより年下です。しかし、栗原女史は年上たる稲生さんには、そんなに気を使っていません」
「そうだな。年上に対しての礼儀がなっていない」
「だが、ユタは大して気にも留めていない様子だぞ。お前が気にし過ぎなんじゃないのか?」
「そんなことは……」
「もう答えを言ってしまいますが、もしあなたが稲生さんともっと親密になりたいのなら、『年上には敬語』命令を撤廃するべきです」
「そんなことで親密になれるのか?」
「まあ、気安くはなるよな。もっとも、お前がそういう関係を望んでいるかどうかにもよるが……」
ようやくユタの電話が終わった。
「いやあ、まさか女子高生から折伏を受けるとは思わなかったねぇ……」
ユタは複雑な笑みを浮かべながら、頭をかいた。
「で、何だって?」
威吹の問いに、ユタは答えた。
「是非お願いしたいって。お金はできるだけ工面するってさ」
「なるほど」
「やっぱり馴染んだ刀が1番いいから、直せるものなら直したいって」
「気持ちは分かる」
威吹は頷いた。同じ剣客として、気持ちは分かるのだろう。
「よろしいですか、マリアさん?」
「分かった。師匠に頼んでみる」
マリアは頷いて、ローブのポケットから眼鏡を取り出して掛けた。
話は意外と早く進んだようである。
「魔界からの揺さぶりがここまでとは思わなかった」
今はさすがに雪も止み、日が差していた。
だが外は雪が積もっていて、まるで雪国のようだ。
マリアは居間に集まったメンバーを見渡して言った。
「大魔王バァルが魔界に戻って来るという噂は本当ですか?」
カンジがポーカーフェイスを崩さずに言った。
「少なくともうちの師匠はもちろん、その上の大師匠様もそのように予言されている。ほぼ間違いないだろう」
「それは何故だ?女王陛下の話では、数百年は戻って来ぬはずだろう?」
「……これはあまり口外できない話なのだが、大師匠様がバァル大帝を唆したとも聞いた」
「は!?」
「大師匠様は、イリーナ師匠が一時期宮廷魔導師を務める前に、元老院の一員だったことがある。バァル大帝からの信任も厚かったようだ」
「すると、大魔王バァルは大師匠の情報に踊らされたと気づいて、急いで戻って来たというわけですか」
「可能性はある」
「ちっ。嘘をつくなら、もっとマシな嘘をつけというものだ」
「何だと!?」
威吹の言葉に、マリアがカチンと来た。
「私が嘘をついてるとでも言うのか!」
「はあ?いや、オレはアンタが嘘を付いているとは言っておらん。大師匠とやらが、大魔王に対してもっとマシな嘘をつけと陰口を叩いたまで。想定期間数百年に対し、数年は短い」
「まあ……それはそうだが」
マリアは振り上げた拳を下ろした。
「それで、だ。ユウタ君から聞いたんだけど、刀が折れたそうだな?」
「ああ。それがどうした?」
「今は1人でも戦力が欲しい。うちの師匠が、お前の刀を直すそうだ」
「なにっ!?」
「それは本当ですか?」
2人の妖狐は目を丸くした。
「それは魔法で?」
ユタの言葉に微笑を浮かべるマリア。
「魔法なんだけど、師匠が直接ではなく、師匠の魔道師仲間で直せるのがいるらしい。それを紹介するとのことだ」
「そりゃいい話だ」
「ふーむ……」
「威吹!いいじゃないか!刀が直るんだよ!?」
「それは吝かではないのだが、法外な対価を要求されることはないだろうな?」
「普通の日本刀を直すわけではないから、それなりの対価は掛かるだろう。とはいえ、お前が用意できる金でいいそうだぞ」
「ほお……」
「今、用意できる大金はいくらだ?」
「そうよなァ……。取りあえず今現在、懐に20両はあるが……」
威吹は着物の懐から、チラッと小判の束を見せた。
「先生、オレもカンパします!」
人間形態のカンジは、基本的に着物ではなく、今風のシャツにジーンズだ。
ジーンズのポケットから出した財布には、ぎっしりと札が入っていた。
(どうして妖狐族はお金持ってるんだろう???)
ユタが常日頃から思っていること。
妖狐を御使いとする稲荷大明神は、確かに商売繁盛の神として祀られているが……。
但し、イリーナに言わせれば、 それは神ではなく、強欲の悪魔マモンに似た存在だという。
強欲の悪魔も、それと契約すれば金には困らなくなるというが……。
「取りあえず、その金で交渉してみる」
「あの、マリアさん」
「なに?」
話が終わった頃を見計らって、ユタが挙手して話に入る。
妖狐達の前では険しい顔のマリアも、ユタの前では表情を崩す。
「地獄界の様子はどうなんですか?かなり厳しい状態だそうですが……」
「取りあえず閻魔庁が動いて、そこの直属部隊によって、叫喚地獄の方は敗北を免れた」
「おおっ!」
「だけど、その本部事務所たる蓬莱山家は半壊半焼。次男の蓬莱山鬼郎丸は重傷だ」
「キノの弟さん……」
「末娘の蓬莱山魔鬼も精神不安定により、閻魔庁にて療養中、長姉の美鬼が付き添いをしているもようだね」
「キノ本人は?」
「栗原江蓮の所で療養中」
「ウソだぁ〜」
「体のいい同棲ですな」
妖狐族はそれぞれ好き勝手なことを言った。
「だけど、激戦を戦い抜いたのは間違いないよね。ちょっと、詳しい話を聞いてみる」
ユタは手持ちのスマホを取り出し、江蓮のケータイに掛けた。
「あ、もしもし。栗原さん?どうも、こんにちは。稲生です」
ユタとは気心知れた、お寺の仲間。
そんなつもりで話していたのだが、何故かマリアが眉を潜めた。
「……いや、しばらくは勧誡できそうにない。大学を卒業したら、家を出ようかと思ってる。その時がチャンスかもね。……で、話はそういうことじゃなくて、キノのこと。……そう。大変だったねぇ……」
ユタが多弁になるのを見て、表情を曇らせるマリア。
「まあ、そこは人間同士。気が楽になるのも無理は無い。魔女が相手では、身も構えるというものだ」
威吹はニヤッと笑って言った。
「まあ、栗原女史には既に先約があるので、それを知らぬ稲生さんではないでしょうがね」
と、カンジがフォローになってるんだかなってないんだかといった言葉を発した。
「……へえ、そうなんだ。激戦だったみたいだしねぇ……。あ、ちょっと待って!」
ユタは電話から顔を離した。
「あの、キノも激戦で刀が折れちゃったみたいで……。キノの刀も直せますか?」
「頼んでみるけど……。ただ、タダではないぞ?」
「もしもし?有料だけど、直せるかもしれないって。……そう。……うん。また、詳しいことが分かったら電話するから。……え、そうなの?」
「マリアンナ師。お気づきになりませんか?」
「何がだ?」
カンジの言葉にマリアが訝し気な顔をした。
「何故、稲生さんが親し気に会話できているのか……」
「どうせ私は魔法使いだ。ただの人間とは違う……」
「そういうことではありません。確かにあなたは、生粋の人間ではない。しかし、我々妖狐よりもずっと人間同然の姿をしています。しかし、あなたは稲生さんが自然に会話できないバリアーを作ってしまっているのですよ」
「バリアー?」
「栗原女史は稲生さんより年下です。しかし、栗原女史は年上たる稲生さんには、そんなに気を使っていません」
「そうだな。年上に対しての礼儀がなっていない」
「だが、ユタは大して気にも留めていない様子だぞ。お前が気にし過ぎなんじゃないのか?」
「そんなことは……」
「もう答えを言ってしまいますが、もしあなたが稲生さんともっと親密になりたいのなら、『年上には敬語』命令を撤廃するべきです」
「そんなことで親密になれるのか?」
「まあ、気安くはなるよな。もっとも、お前がそういう関係を望んでいるかどうかにもよるが……」
ようやくユタの電話が終わった。
「いやあ、まさか女子高生から折伏を受けるとは思わなかったねぇ……」
ユタは複雑な笑みを浮かべながら、頭をかいた。
「で、何だって?」
威吹の問いに、ユタは答えた。
「是非お願いしたいって。お金はできるだけ工面するってさ」
「なるほど」
「やっぱり馴染んだ刀が1番いいから、直せるものなら直したいって」
「気持ちは分かる」
威吹は頷いた。同じ剣客として、気持ちは分かるのだろう。
「よろしいですか、マリアさん?」
「分かった。師匠に頼んでみる」
マリアは頷いて、ローブのポケットから眼鏡を取り出して掛けた。
話は意外と早く進んだようである。