報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「トンネルの中は異界」 2

2014-12-22 19:27:41 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月20日02:12.JR中央本線・相模湖〜藤野、下り線トンネル ???]

「……進行!」
 JR中央本線の下り線を走行する貨物列車。
 新型のEH200形電気機関車の運転室内に、機関士の歓呼がこだまする。
 相模湖駅と藤野駅の間のトンネルは上下線に別れている。
 なのでトンネルを走っていると線路が1つしか無いため、まるで単線区間を走行しているかのようにも思える。
「ん?」
 まもなくトンネルの出口が近づこうとする頃、機関士はその先にある物を見つけた。

 人影だ!

「うわっ!?」
 機関士は左手のブレーキハンドルを一気に奥まで倒した。
 もちろん、警笛ペダルもベタ踏み。
 けたたましい汽笛の音と列車のフルブレーキの音がトンネル内にこだました。
 電車と違い、編成も長く、機関車も貨車も重い貨物列車はその制動距離も長い。
 やっと止まった時には、機関車はトンネルの出口から頭1つ出ていた。
「輸送司令!輸送司令!こちら◯◯◯◯(列車番号)運転士です。応答願います」
 機関士は無線電話を取って、司令センターに状況報告しようとした。
 だが、山間部で電波が悪いのか、司令センターに繋がらない。
「輸送司令!輸送司令!」
 その時、電話の向こうから何かが聞こえた。
「えっ?」
{「……死 ニ ナ サ イ」}
 死になさい?若い女の声だった。

 その直後!

 ガッシャーンと運転席の窓ガラスが割られ、そこから血みどろの手が飛び込んで来た。
「ぐわっ!ば、化け物!?」
 それが機関士の首を掴んで、機関士を機関車から引きずり降ろした。
「た、助けて……!」
「でやあーっ!」
 機関士を襲った化け物を後ろから襲う者がいた。
「やっぱり!ユタの言う通り!」
「下等の魍魎が!イキがってんじゃねーぞ、コラぁッ!!」
 機関士を襲った魍魎は、キノによって頭を殴り飛ばされ、その力は頭部と胴体が引きちぎれるほどだった。
「ユタじゃねぇよ!江蓮だよ!」
「オレはマリアンナ師だと伺いましたが……」
「皆、予言師だったか。とにかく、行くぞ!」
 見ると、貨物列車の後ろからも魍魎の集団がこちらに向かってきている。
「危険ですので、機関車の中に避難しててください」
 カンジが機関士を落ち着かせて、機関車の中に戻した。
「刀が無いのに、どうやって!?」
「久方ぶりにこれ使うぜ!」
 キノは“ベタな鬼の法則”で、金棒を出した。
 それで魍魎達を殴り飛ばす。
「お前、そっちの方がいいんじゃないのか?」
 威吹が言うと、
「バカ野郎。金棒なんて、頭の悪い鬼の使うモンだ。オレら高貴な身分はカッコ良く、刀だよ」
「あー、そーかよ」
「そういうイブキこそ、刀が無ェだろ?」
「あんな下等連中、脇差と妖術で十分だ」
「脇差は妖怪は斬れねーんじゃねーのか?」
「イリーナに、魔法を掛けてもらった。今ではこれが妖刀代わりだ」
「ほお!得してんじゃねーか」
 実際、威吹の脇差は下等妖怪を斬り捨てることができた。
 そして、どんどん列車の後ろの方まで向かう。

 最後尾には魍魎軍団のボスと思しき者がいたが、
「うらぁーっ!!」
 キノによって、あえなく一発でやられた件。
 いや、戦う意思は示していたのだが、キノ達に攻撃する前に金棒で殴られ、台車の上に乗っかっていたコンテナに激突した。
 どのくらいの衝撃だったかというと、コンテナの観音扉が壊れて開き、積荷の段ボール箱がドサドサ落ちてきて、ボスがそれに埋もれてしまったくらいだった。
「弱ェ!これでボスかよ!中ボスほどの強さも無ェ!」
「キノが強過ぎるだけだな」
 カンジは冷静に言って積荷を退かした。
「おおっ!こ、これは……!」
「何だ!?」
 キノが積み荷の中から見つけたもの。
 それは……。
「江蓮達が穿いてそうなパンティだぜ!」
 プリントショーツなどが入っていた。
「……おい、大丈夫か!?カンジ、早く発掘するぞ!」
「ハイ!」
 どうやら女性下着に限らず、女性用衣料品を運んでいたコンテナらしい。
 キノの反応を完全スルーし、妖狐達は一発で倒されたボスを救出する。
「! こいつは鬼族だぞ!?」
 頭から血を流していたボスは、キノと同じ赤鬼だった。
「キノ!鼻の下伸ばしてる場合か!お前の仲間だぞ!?」
「そんなヤツぁ知らねーよ!おい、テメェ!どこのどいつだ!?」
 キノは赤鬼の胸倉を掴んだ。
 まだ若い鬼だった。
「オレの弟より若そうな……って、まだガキじゃねーか!」
 人間で言えば中学生くらいの。
「おい、何とか言いやがれ!」
「黒縄……やられ………」

[同日07:30.合宿所1F・食堂 ユタ、威吹、カンジ、マリア、キノ、江蓮、イリーナ]

「先生、間違いありません。地獄界は再度侵攻を受け、黒縄地獄が魔界の手に落ちています。これで無間地獄の1つの阿鼻地獄、焦熱地獄、衆合地獄とプラスして、八大地獄のうち、4つが魔界の手に落ちたことになります」
 カンジが情報を集めて報告した。
 閻魔庁の応援が無ければ、更にそこへ叫喚地獄も入るところだった。
「おちおち、死んでも地獄界に行けないな」
「畜生め。情けねぇ奴らだ」
 結局、魍魎軍団のボスの赤鬼の少年は息絶えてしまった。
 鬼族も他の妖怪達と同様、死ぬと死体すら残さずに消える。
 遺品だけが手元に残る仕組みで、キノは一応、少年が着けていた腕輪だけを手に入れた。
 後で返しに行こうと思うが、それが簡単にできる状態では無さそうだ。
 そもそも、返す相手が生き残っているかどうかも怪しい。
 他にも遺品……というか、遺書はあって、魔族達から人間界侵攻の手伝いをしないと殺すみたいなことを言われて、仕方なくやったといった内容のことが書いてあった。
 キノが数百年生きているのに、つい最近、初めて“賽の河原”に行ったのと同じように、基本的に地獄界の鬼族は他の地獄界との人事交流は無い。
 “賽の河原”に行く機会があったのは、そこは八大地獄のどの地獄にも属しておらず(つまり、仏教で語られる地獄界ではない)、しがらみが無かったからだと、キノは後で知った。
「おちおちしていられねぇ。早いとこ刀を直してもらって、家に帰んねーと……。叫喚地獄も危ねぇ……」
「それだけ、魔界もゴタついてるってことね。いい年末を迎えるのは……難しいかもね」
 と、イリーナは言った。
「キノ。終わったら、稽古しよう。体を動かした方が気が紛れるだろう」
 珍しく江蓮の方から言い出した。
「あ、ああ、そうだな」
「オレは他に魍魎達がうろついてないか、周辺を歩いてみる。カンジ、お前も来い」
「ハイ!」
「アタシはタチアナの手伝いにでも行こうかねぇ……。あ、マリアはユウタ君と一緒にいてね」
「え?ええ……」
 それってつまり、ユタとマリアが2人っきりになるということだが……。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「合宿の初日終わり」

2014-12-22 15:03:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月19日18:00.合宿所1F・食堂 ユタ、威吹、カンジ、マリア、キノ、江蓮、イリーナ]

「イブキ、そのチキンカツ、一切れ寄越せ」
「フザけるな!」
 夕食を取る面々。
「楽しそうだねぇ……。体育館、開けてくれるみたいだから、食後に運動とかもできるよー。って、聞いちゃいねぇ」
「僕は聞いてますから」
 さすがにイリーナの向かいに座るユタには聞こえていた。
「ありがとう」
「運動ったって、キノ、ビール飲みまくってるし……」
「ハハハ……」

[同日18:30.合宿所1F・ロビー ミカエラ&クラリス]

「遠い遠い異国から♪私を呼ぶ声聞こえる♪」
 ユタ達が夕食を取っている間、クラリスがピアノを弾いて、歌を歌うミク人形。
「お、何か歌ってる」
 夕食が終わって食堂から出て来た頃には別の歌を歌っていて、
「お、“唱えていこう妙法を”……の、ユーロビート?」
 江蓮が首を傾げた。
「い、いや、違う!“唱えていこう妙法を”の“東方Project 竹取飛翔バージョン”だ!」
 ユタが気づく。
「何で作者は、宗門愛唱歌を東方Projectにするかなぁ……」
 江蓮は呆れた。
 宗門の愛唱歌は、実は何曲かの東方Projectの曲に乗せると、意外に合うのだ。
 結構、元気な曲が多いから、覇気に欠ける歌でも一気に元気になれるぞ。

[同日19:00.合宿所2F・207号室 ユタ、威吹、カンジ]

「カンジ、ユタは勉強中だから静かにな」
「ハイ」
「いや、いいよ。レポート書いてるだけだし」
 ユタは持ってきたノートPCのキーボードを叩いた。
 室内には畳敷きの上にテーブルがあり、座布団もある。
「キノはどこに行ったんだ?」
「食後の運動と称して、栗原殿を体育館に連れて行くようだが?」
「何だって!?」
 ユタは席を立って、廊下に飛び出した。
 同時に、隣の部屋から剣道着姿の江蓮が出て来る。
「栗原さん、体育館寒くないかい?」
「暖房が入るらしいよ?」
「何か、心配だな。威吹」
「なに?」
「せっかくだから、カンジ君に稽古つけてあげなよ。僕は部屋にいるからさ」
「なるほど。ついでにキノが『変な指導』をしないか見張れということだな。承知した」
 威吹は大きく頷いた。
「よろしく頼むよ」

[同日同時刻 同2F・205号室 マリア&イリーナ]

「『女子剣道部員の悲劇』……?」
 マリアは水晶球でユタのPCの中身を見ていた。
「うわ……。『スク水えっち!』『JKブルマ三昧』『眼鏡っ子、強制ワイセツ』」
 2段ベッドの上段で寝転びながら魔道書を見るイリーナは、驚愕の顔を浮かべる弟子に対し、クスクスと笑った。
「ユウタ君もお酒の飲める歳なんだから察してあげなって。逆に、どうすればユウタ君がもっと積極的になってくれるか、いいヒントじゃないの」
「むむ……」

[同日19:05.207号室 ユタ]

「あれ?PCの画面変わってる?ヤバっ!」
 ユタはPC内の秘蔵動画を慌てて隠した。
「ふー……。マリアさんには見せられない……」
 ユタは慌てて、『女子剣道部員の悲劇』を消した。
 まあ、このAV内容は【お察しください】。
 キノがこの中の男優のようにならないか心配したので、動いたのである。

 それから約1時間後……。

「まあ、こんなもんでいいだろう。別のレポートは、また明日にでも書こう」
 ユタは作成したレポートを保存した。
「逆に環境が変わると集中できるなぁ……」
 と、そこへコンコンと部屋がノックされる。
「はい」
 ユタがドアを開けると、恐る恐るといった感じで、ミク人形(人間形態)がいた。
「何だい?だからもう担がなくていいって……」
 廊下に出ると……。
「ええーっ!?」
 ミク人形の横にはフランス人形のクラリス(人間形態)もいたのだが、ミク人形はブルマー、クラリスはスクール水着を着ていた。
「…………」
「…………」
「…………」
 流れる気まずい空気。
「!!!」
 先に動いたのはユタ。
 脱兎の如く走り出すが、空中を舞って追い掛ける人形達にすぐ捕まる。
 そして、ワッショイワッショイと担がれて、205号室に拉致された。

[同日20:10.205号室 マリア&イリーナ]

「うーん……あの資料通りのまんまにすればいいってものでもないと思うよ」
 イリーナは目を細くしたまま弟子の行動に呆れた。
「わざわざ魔法で衣装も取り寄せたのに、何でですか!」
「いや、あのね……。つーか、ここまでできりゃ、ほぼ1人前だわ……」
 マリアは手持ちの眼鏡を掛け、剣道着を着ていた。
(似合わねー、コイツ)
 当然、直後に担ぎ込まれたユタにも、
「脱講の仏罰、ここに極まれり!!」
 と、錯乱されかかったという。

[同日20:30.B1F・小浴場 マリア、イリーナ、江蓮]

 小浴場といっても、一般家庭の風呂のような狭さではない。
 あくまで大浴場よりは小さいという意味なので、浴槽も3人は余裕で足が伸ばせる広さがあった。
 大浴場は男湯として使用し、小浴場は女湯として使用することにした。
「うっははははははは!!」
 江蓮はイリーナからマリアの行動と、巻き込まれたユタの受難の話を聞いて、バカウケした。
 浴場内に江蓮の笑い声が響く。
「エレーナみたいな笑い方するなよー……」
 マリアの顔が赤いのは、何もシャワーのお湯が熱いからではなかった。
「すいませんっス!でも、ガチ……ツボに入ったっス!」
「まあ、マリアや人形達がマネしても、あんまりユウタ君は喜ばないかもね」
 マリアの隣でシャンプーしているイリーナも、少し呆れた様子だった。
「あくまであれはユウタ君の趣味であって、それをそのままマリアに求めてはいないと思うよ」
「そうそう。そもそもJKモノが好きな時点で、マリアンナさんとは……」
「あ、コンディショナーが無い」
 と、イリーナ。
「あっ、こっちにあるっス」
 江蓮がマリアの前越しにコンディショナーを渡す。
「サンキュー」
 イリーナもまたマリアの前に手を出して受け取った。
「くっ……」
 何故か悔しがるマリアだった。理由は【お察しください】。

[同日同時刻 B1F・大浴場 ユタ、威吹、カンジ、キノ]

「てめェら、人のお楽しみジャマしやがって……!」
「アホか!何しに来たんだ、オマエは!」
 キノの憤慨にツッコむ威吹。
「で、でもまあ、栗原さんの剣道着は、いつもの制服や私服とはまた違った雰囲気があっていいよね」
 湯舟に浸かっているユタが言った。
「だろォ!?さすがユタは分かってんなー!あの魔法使い達にはマネできねーぜ!」
「う、うん……そうだね……」
 ユタは思い出したくない出来事を思い出した。
 髪の長さが共に腰まである威吹とキノが髪を洗うと、その後に2人してバッサバッサと水を切る。
(実は息が合っているんじゃないだろうか……)
 ユタはその様子を見て思った。
「明日はもっと激しい稽古をつけてやろうかな」
 湯舟に入ってきたキノが呟く。
「ユタ、お前にはついていけねーだろうな?」
「そうでしょうとも。僕はおとなしく部屋でレポートでも書いてるさ」
「激しい稽古って、何する気だ?」
 威吹が体を洗いながら呆れた顔をした。
「ムッフフフフ……!」
 威吹の質問にイヤらしい笑みを浮かべるキノ。
(ノーパンにして汗だくにさせるのかな?)
 ユタは手持ちのPCの秘蔵動画を思い出した。
「聞いて驚け。袴の下はノーパンにして、真冬でも汗だくにさせる。その後は【お察しください】」
 ザッバーン!(←ユタ、ズッコケて湯舟の中へダイブ)
「アホか!何考えてんだ!!」
(もしやキノも、僕と同じ動画を持ってるんじゃなかろうか……)
「羨ましかったら、オマエらも上玉の女を“獲物”にするんだな」
「やかましい!」
「別に、羨ましいとは思わんな」
 Sランクの霊力を持つ人間を“獲物”にできれば、男女不問のカンジだった。
(あれ?確か威吹の場合、僕の前の“獲物”は巫女さんじゃなかったか……?)
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“ユタと愉快な仲間たち” 「魔法使いと合宿」

2014-12-22 10:24:04 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月19日16:05.神奈川県相模原市緑区 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾、マリアンナ・スカーレット、蓬莱山鬼之助、栗原江蓮]

「やあやあ。よく来てくれたねぇ……」
 宿泊先の本館の前で、イリーナが出迎えた。
 ローブは着ているがフードは被っておらず、赤い髪の毛が沈みかけた夕日に反射して燃えているようである。
「こ、こんにちはー……」
 ユタはすっかり息が上がった様子で、イリーナに挨拶だけした。
「おや?人形達に担いでもらわなかったのかい?」
「い、いやっ……そこまで体力無いわけじゃ……ないんで」
(こいつの指示か)
 威吹はユタの荷物だけ持っている人形達とイリーナを見比べて思った。
 人形達は人間形態になっている。
「しっかし、魔道師の紹介っつーから、またどこぞの洋館かと思ったが、意外とフツーの合宿所だな?」
 キノは建物を見上げて言った。
「そだよ。近隣の学校はもちろん、東京からも合宿で来たりしてるよ。まあ、今回はアタシら貸し切りだけどね〜」
 イリーナは悠長に言った。
「じゃあ、早いとこ中に入って受け付けしてー。部屋に荷物置いてから、アタシの仲間紹介するよー」
「はーい」

 2階の客室に入ると、そこは4人部屋。
 無論、男女に分けられる。
「案外、きれいな部屋だな」
 2段ベッドが両脇にあるが、いずれも枕元にはLEDライトやコンセントが一口ついている。
 ただ、それが張り出しているせいで、少し部屋が狭く見えてしまう短所が見受けられた。
「さすがにアメニティ・グッズは、ホテルじゃないから無いってさ」
 ユタが言うと、キノはクロゼットを開けた。
「あるのは浴衣とスリッパくらいか……。ムフ!」
(今、絶対、栗原さんの『湯上り浴衣姿』を想像したな、コイツ)
 と、他の同室3人は一斉に思ったそうな。

 荷物を置いて、再び1階ロビーに集合する。
 で、また合宿所から公道へ出る為に急な坂を登り下りしなくてはならない。
「大石寺登山よりキツい坂だ。足が筋肉痛になりそうだ」
「おいおい。これくらいで何言ってんだ、ユタ。まあ、お前も魔法使いになれば楽できるぜ」
「そう……だね」
 ユタは先行する魔道師達が、少し地面から浮いてスイスイと坂を登っているのを見た。
「あ、いや!だから、担がなくていいです!」
 マリアが使役するミク人形とフランス人形達。
 付与する魔力のさじ加減によって、人形形態だったり、人間形態になったりする。
 今は人間と同じ大きさ、姿になって、ユタを軽々と2人掛かりで持ち上げるのだった。
(人間というより、ロボットみたいだ……)
 と、江蓮は思った。

[同日16:15.同区内 とある一軒家 上記メンバー]

 公道に出て少し歩くと、それは見えてきた。
「……普通のお宅ですね、これまた」
 ユタは家を見上げて言った。
 マリアみたいな洋館風でもなければ、ログハウス風でもない。
 一般の住宅メーカーが建てた家だった。
「上手く溶け込んでるでしょ?」
「ミカエラ、ピンポンやって」
 マリアがミク人形に命令すると、ミク人形はこくんと頷いて、ラケットとピンポン玉を出した。
「くぉらっ!」
 すかさずツッコむキノ。
「まだ日本語モードが上手く機能してみたいだねぇ……。この辺はまだ改良の余地があるかねぇ……」
 イリーナが講評した。
「すいません」
 イリーナが代わりにインターホンを押した。

 中から出て来たのは30代くらいの女性だった。
「やあやあ、約束通り来たよー。タチアナ」
「イリーナ」
「注文通り、妖怪用の日本刀2振りね」
 黒い髪だが、瞳は緑色で透き通るような白い肌だ。
 名前からしてロシア系であろうか。
「この人も魔法使いさんなんですか?」
 と、ユタ。
「そだよ。彼女はタチアナ・イシンバエワ。失いつつある魔法技術の1つ、魔法機工の技師よ。旦那さんと2人で店を切り盛りしてる」
 イリーナは目を細めたままで言った。
「もっとも、ダンナはただの日本人だけどね。せいぜい、店番やってるだけ」
「じゃあ2人とも、モノを出して」
「あ、ああ。実はこれなんだが……」
 威吹が折れた刀を出した。
「あー、こりゃハデに折ったねぇ……」
「ま、だいぶ使い込んだ刀であるというのも理由ではあるが……」
「オレのも頼むぜ」
 キノも刀を出した。
 威吹のは刃が砕けた感じだが、キノは真っ二つといった感じた。
「直せるだろうか?」
 威吹の質問に、豊かな胸を叩いて答えるイシンバエワ。
「任せて。ところで、今なら特別サービスで強化もするけど、どう?」
「なに?そんなことができるのか?」
 話に乗り掛かる威吹。
「出たよ。タチアナの商売根性」
 イリーナは笑みを浮かべた。
「えーと……あなたは小判での支払いかしら?」
「さよう」
「なら、1枚追加でいいわ」
「ほお……。では、その強化とやらも頼もうか」
「毎度ー。じゃあ、口を大きく開けて」
「んむ?こうあ?(こうか?)」
 威吹は口を大きく開けた。

 ゴキュッ……!

「ん。まあ、この牙でいいか」
 タチアナは歯科医が使う器具を取り出し、それで威吹の左上の牙を抜いた。
「あ……が……がが……!な、何するんだ、キサマ!!」
 威吹は残った脇差を抜いた。
「落ち着きなって。妖怪の牙なんて、一晩でまた生えてくるでしょうが」
 イリーナは威吹を制止して言った。
「そういう問題じゃない!」
「妖刀を強化するのに、妖怪の牙は材料として最適なんだってよ」
「そ、そうなのか……」
「そういうこと。で、そこの鬼のお兄さんはどうする?」
「じゃあ、オレも頼むぜ。オレはイブキと違って、泣きは入れねぇ」
 キノはそう言って自分の口の中に手を入れ、自分で左上の牙を引っこ抜いた。
「これを使ってくれ」
「んー……」
「何だよ?」
「お兄さんの場合、右下の牙の方がいいかねぇ……」
「な、何だと!?」
 キノ、1本抜き損である。

[同日16:30.同場所 イリーナ&タチアナ]

 イリーナは他のメンバーを宿舎に帰らせた後も残った。
「あのマリアンナってコ、だいぶ成長したみたいね」
「あそこまで育てるの、大変だったんだよぉ。ポーリンみたいにしたんじゃ、絶対に泣いて逃げただろうからね」
「ポーリンはスパルタだからね。ところで、あの妖怪達も気づいてるだろうかね?」
「あのコ達が来る頃、ちょうど相模湖付近の穴を塞いでいた頃だったから、もしかしたらね」
「で、一緒に来てた人間の男の子、あれが新しい弟子候補?」
「そう」
「いい人材はイリーナが持ってっちゃうね」
「たまたま運が良かったのよ。あいにくと手先はそんなに器用そうじゃないから、もし今度手先が器用なコを見つけたら紹介するよ」
「そうしてほしいね。うちの娘も素質はあるんだけど、このジャンルの魔法も結構危険だからねぇ……」
「まあ、そうだろうね」
 腕まくりしたタチアナの両腕には、ひどい火傷の痕があった。
「じゃ、予定通りにできるね?」
「順調に行けばね」
「ちゃんとできればカネは惜しまない連中だから、そこは安心していいよー」
「了解」
 イリーナは話が終わると、瞬間移動の魔法でその場から消え去った。
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