[12月20日02:12.JR中央本線・相模湖〜藤野、下り線トンネル ???]
「……進行!」
JR中央本線の下り線を走行する貨物列車。
新型のEH200形電気機関車の運転室内に、機関士の歓呼がこだまする。
相模湖駅と藤野駅の間のトンネルは上下線に別れている。
なのでトンネルを走っていると線路が1つしか無いため、まるで単線区間を走行しているかのようにも思える。
「ん?」
まもなくトンネルの出口が近づこうとする頃、機関士はその先にある物を見つけた。
人影だ!
「うわっ!?」
機関士は左手のブレーキハンドルを一気に奥まで倒した。
もちろん、警笛ペダルもベタ踏み。
けたたましい汽笛の音と列車のフルブレーキの音がトンネル内にこだました。
電車と違い、編成も長く、機関車も貨車も重い貨物列車はその制動距離も長い。
やっと止まった時には、機関車はトンネルの出口から頭1つ出ていた。
「輸送司令!輸送司令!こちら◯◯◯◯(列車番号)運転士です。応答願います」
機関士は無線電話を取って、司令センターに状況報告しようとした。
だが、山間部で電波が悪いのか、司令センターに繋がらない。
「輸送司令!輸送司令!」
その時、電話の向こうから何かが聞こえた。
「えっ?」
{「……死 ニ ナ サ イ」}
死になさい?若い女の声だった。
その直後!
ガッシャーンと運転席の窓ガラスが割られ、そこから血みどろの手が飛び込んで来た。
「ぐわっ!ば、化け物!?」
それが機関士の首を掴んで、機関士を機関車から引きずり降ろした。
「た、助けて……!」
「でやあーっ!」
機関士を襲った化け物を後ろから襲う者がいた。
「やっぱり!ユタの言う通り!」
「下等の魍魎が!イキがってんじゃねーぞ、コラぁッ!!」
機関士を襲った魍魎は、キノによって頭を殴り飛ばされ、その力は頭部と胴体が引きちぎれるほどだった。
「ユタじゃねぇよ!江蓮だよ!」
「オレはマリアンナ師だと伺いましたが……」
「皆、予言師だったか。とにかく、行くぞ!」
見ると、貨物列車の後ろからも魍魎の集団がこちらに向かってきている。
「危険ですので、機関車の中に避難しててください」
カンジが機関士を落ち着かせて、機関車の中に戻した。
「刀が無いのに、どうやって!?」
「久方ぶりにこれ使うぜ!」
キノは“ベタな鬼の法則”で、金棒を出した。
それで魍魎達を殴り飛ばす。
「お前、そっちの方がいいんじゃないのか?」
威吹が言うと、
「バカ野郎。金棒なんて、頭の悪い鬼の使うモンだ。オレら高貴な身分はカッコ良く、刀だよ」
「あー、そーかよ」
「そういうイブキこそ、刀が無ェだろ?」
「あんな下等連中、脇差と妖術で十分だ」
「脇差は妖怪は斬れねーんじゃねーのか?」
「イリーナに、魔法を掛けてもらった。今ではこれが妖刀代わりだ」
「ほお!得してんじゃねーか」
実際、威吹の脇差は下等妖怪を斬り捨てることができた。
そして、どんどん列車の後ろの方まで向かう。
最後尾には魍魎軍団のボスと思しき者がいたが、
「うらぁーっ!!」
キノによって、あえなく一発でやられた件。
いや、戦う意思は示していたのだが、キノ達に攻撃する前に金棒で殴られ、台車の上に乗っかっていたコンテナに激突した。
どのくらいの衝撃だったかというと、コンテナの観音扉が壊れて開き、積荷の段ボール箱がドサドサ落ちてきて、ボスがそれに埋もれてしまったくらいだった。
「弱ェ!これでボスかよ!中ボスほどの強さも無ェ!」
「キノが強過ぎるだけだな」
カンジは冷静に言って積荷を退かした。
「おおっ!こ、これは……!」
「何だ!?」
キノが積み荷の中から見つけたもの。
それは……。
「江蓮達が穿いてそうなパンティだぜ!」
プリントショーツなどが入っていた。
「……おい、大丈夫か!?カンジ、早く発掘するぞ!」
「ハイ!」
どうやら女性下着に限らず、女性用衣料品を運んでいたコンテナらしい。
キノの反応を完全スルーし、妖狐達は一発で倒されたボスを救出する。
「! こいつは鬼族だぞ!?」
頭から血を流していたボスは、キノと同じ赤鬼だった。
「キノ!鼻の下伸ばしてる場合か!お前の仲間だぞ!?」
「そんなヤツぁ知らねーよ!おい、テメェ!どこのどいつだ!?」
キノは赤鬼の胸倉を掴んだ。
まだ若い鬼だった。
「オレの弟より若そうな……って、まだガキじゃねーか!」
人間で言えば中学生くらいの。
「おい、何とか言いやがれ!」
「黒縄……やられ………」
[同日07:30.合宿所1F・食堂 ユタ、威吹、カンジ、マリア、キノ、江蓮、イリーナ]
「先生、間違いありません。地獄界は再度侵攻を受け、黒縄地獄が魔界の手に落ちています。これで無間地獄の1つの阿鼻地獄、焦熱地獄、衆合地獄とプラスして、八大地獄のうち、4つが魔界の手に落ちたことになります」
カンジが情報を集めて報告した。
閻魔庁の応援が無ければ、更にそこへ叫喚地獄も入るところだった。
「おちおち、死んでも地獄界に行けないな」
「畜生め。情けねぇ奴らだ」
結局、魍魎軍団のボスの赤鬼の少年は息絶えてしまった。
鬼族も他の妖怪達と同様、死ぬと死体すら残さずに消える。
遺品だけが手元に残る仕組みで、キノは一応、少年が着けていた腕輪だけを手に入れた。
後で返しに行こうと思うが、それが簡単にできる状態では無さそうだ。
そもそも、返す相手が生き残っているかどうかも怪しい。
他にも遺品……というか、遺書はあって、魔族達から人間界侵攻の手伝いをしないと殺すみたいなことを言われて、仕方なくやったといった内容のことが書いてあった。
キノが数百年生きているのに、つい最近、初めて“賽の河原”に行ったのと同じように、基本的に地獄界の鬼族は他の地獄界との人事交流は無い。
“賽の河原”に行く機会があったのは、そこは八大地獄のどの地獄にも属しておらず(つまり、仏教で語られる地獄界ではない)、しがらみが無かったからだと、キノは後で知った。
「おちおちしていられねぇ。早いとこ刀を直してもらって、家に帰んねーと……。叫喚地獄も危ねぇ……」
「それだけ、魔界もゴタついてるってことね。いい年末を迎えるのは……難しいかもね」
と、イリーナは言った。
「キノ。終わったら、稽古しよう。体を動かした方が気が紛れるだろう」
珍しく江蓮の方から言い出した。
「あ、ああ、そうだな」
「オレは他に魍魎達がうろついてないか、周辺を歩いてみる。カンジ、お前も来い」
「ハイ!」
「アタシはタチアナの手伝いにでも行こうかねぇ……。あ、マリアはユウタ君と一緒にいてね」
「え?ええ……」
それってつまり、ユタとマリアが2人っきりになるということだが……。
「……進行!」
JR中央本線の下り線を走行する貨物列車。
新型のEH200形電気機関車の運転室内に、機関士の歓呼がこだまする。
相模湖駅と藤野駅の間のトンネルは上下線に別れている。
なのでトンネルを走っていると線路が1つしか無いため、まるで単線区間を走行しているかのようにも思える。
「ん?」
まもなくトンネルの出口が近づこうとする頃、機関士はその先にある物を見つけた。
人影だ!
「うわっ!?」
機関士は左手のブレーキハンドルを一気に奥まで倒した。
もちろん、警笛ペダルもベタ踏み。
けたたましい汽笛の音と列車のフルブレーキの音がトンネル内にこだました。
電車と違い、編成も長く、機関車も貨車も重い貨物列車はその制動距離も長い。
やっと止まった時には、機関車はトンネルの出口から頭1つ出ていた。
「輸送司令!輸送司令!こちら◯◯◯◯(列車番号)運転士です。応答願います」
機関士は無線電話を取って、司令センターに状況報告しようとした。
だが、山間部で電波が悪いのか、司令センターに繋がらない。
「輸送司令!輸送司令!」
その時、電話の向こうから何かが聞こえた。
「えっ?」
{「……死 ニ ナ サ イ」}
死になさい?若い女の声だった。
その直後!
ガッシャーンと運転席の窓ガラスが割られ、そこから血みどろの手が飛び込んで来た。
「ぐわっ!ば、化け物!?」
それが機関士の首を掴んで、機関士を機関車から引きずり降ろした。
「た、助けて……!」
「でやあーっ!」
機関士を襲った化け物を後ろから襲う者がいた。
「やっぱり!ユタの言う通り!」
「下等の魍魎が!イキがってんじゃねーぞ、コラぁッ!!」
機関士を襲った魍魎は、キノによって頭を殴り飛ばされ、その力は頭部と胴体が引きちぎれるほどだった。
「ユタじゃねぇよ!江蓮だよ!」
「オレはマリアンナ師だと伺いましたが……」
「皆、予言師だったか。とにかく、行くぞ!」
見ると、貨物列車の後ろからも魍魎の集団がこちらに向かってきている。
「危険ですので、機関車の中に避難しててください」
カンジが機関士を落ち着かせて、機関車の中に戻した。
「刀が無いのに、どうやって!?」
「久方ぶりにこれ使うぜ!」
キノは“ベタな鬼の法則”で、金棒を出した。
それで魍魎達を殴り飛ばす。
「お前、そっちの方がいいんじゃないのか?」
威吹が言うと、
「バカ野郎。金棒なんて、頭の悪い鬼の使うモンだ。オレら高貴な身分はカッコ良く、刀だよ」
「あー、そーかよ」
「そういうイブキこそ、刀が無ェだろ?」
「あんな下等連中、脇差と妖術で十分だ」
「脇差は妖怪は斬れねーんじゃねーのか?」
「イリーナに、魔法を掛けてもらった。今ではこれが妖刀代わりだ」
「ほお!得してんじゃねーか」
実際、威吹の脇差は下等妖怪を斬り捨てることができた。
そして、どんどん列車の後ろの方まで向かう。
最後尾には魍魎軍団のボスと思しき者がいたが、
「うらぁーっ!!」
キノによって、あえなく一発でやられた件。
いや、戦う意思は示していたのだが、キノ達に攻撃する前に金棒で殴られ、台車の上に乗っかっていたコンテナに激突した。
どのくらいの衝撃だったかというと、コンテナの観音扉が壊れて開き、積荷の段ボール箱がドサドサ落ちてきて、ボスがそれに埋もれてしまったくらいだった。
「弱ェ!これでボスかよ!中ボスほどの強さも無ェ!」
「キノが強過ぎるだけだな」
カンジは冷静に言って積荷を退かした。
「おおっ!こ、これは……!」
「何だ!?」
キノが積み荷の中から見つけたもの。
それは……。
「江蓮達が穿いてそうなパンティだぜ!」
プリントショーツなどが入っていた。
「……おい、大丈夫か!?カンジ、早く発掘するぞ!」
「ハイ!」
どうやら女性下着に限らず、女性用衣料品を運んでいたコンテナらしい。
キノの反応を完全スルーし、妖狐達は一発で倒されたボスを救出する。
「! こいつは鬼族だぞ!?」
頭から血を流していたボスは、キノと同じ赤鬼だった。
「キノ!鼻の下伸ばしてる場合か!お前の仲間だぞ!?」
「そんなヤツぁ知らねーよ!おい、テメェ!どこのどいつだ!?」
キノは赤鬼の胸倉を掴んだ。
まだ若い鬼だった。
「オレの弟より若そうな……って、まだガキじゃねーか!」
人間で言えば中学生くらいの。
「おい、何とか言いやがれ!」
「黒縄……やられ………」
[同日07:30.合宿所1F・食堂 ユタ、威吹、カンジ、マリア、キノ、江蓮、イリーナ]
「先生、間違いありません。地獄界は再度侵攻を受け、黒縄地獄が魔界の手に落ちています。これで無間地獄の1つの阿鼻地獄、焦熱地獄、衆合地獄とプラスして、八大地獄のうち、4つが魔界の手に落ちたことになります」
カンジが情報を集めて報告した。
閻魔庁の応援が無ければ、更にそこへ叫喚地獄も入るところだった。
「おちおち、死んでも地獄界に行けないな」
「畜生め。情けねぇ奴らだ」
結局、魍魎軍団のボスの赤鬼の少年は息絶えてしまった。
鬼族も他の妖怪達と同様、死ぬと死体すら残さずに消える。
遺品だけが手元に残る仕組みで、キノは一応、少年が着けていた腕輪だけを手に入れた。
後で返しに行こうと思うが、それが簡単にできる状態では無さそうだ。
そもそも、返す相手が生き残っているかどうかも怪しい。
他にも遺品……というか、遺書はあって、魔族達から人間界侵攻の手伝いをしないと殺すみたいなことを言われて、仕方なくやったといった内容のことが書いてあった。
キノが数百年生きているのに、つい最近、初めて“賽の河原”に行ったのと同じように、基本的に地獄界の鬼族は他の地獄界との人事交流は無い。
“賽の河原”に行く機会があったのは、そこは八大地獄のどの地獄にも属しておらず(つまり、仏教で語られる地獄界ではない)、しがらみが無かったからだと、キノは後で知った。
「おちおちしていられねぇ。早いとこ刀を直してもらって、家に帰んねーと……。叫喚地獄も危ねぇ……」
「それだけ、魔界もゴタついてるってことね。いい年末を迎えるのは……難しいかもね」
と、イリーナは言った。
「キノ。終わったら、稽古しよう。体を動かした方が気が紛れるだろう」
珍しく江蓮の方から言い出した。
「あ、ああ、そうだな」
「オレは他に魍魎達がうろついてないか、周辺を歩いてみる。カンジ、お前も来い」
「ハイ!」
「アタシはタチアナの手伝いにでも行こうかねぇ……。あ、マリアはユウタ君と一緒にいてね」
「え?ええ……」
それってつまり、ユタとマリアが2人っきりになるということだが……。