報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「イベント初日終了」

2017-06-10 18:59:55 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月3日19:00.天候:晴 北海道札幌市豊平区 札幌ドーム]

 スタッフ:「本日のプログラム、全部終了です!」
 ボカロ達:「お疲れさまでしたーっ!」

 イベント初日は大きなトラブルも無く、無事に終了した。
 敷島エージェンシーの控室では、スタッフの声にボーカロイド達が両手を挙げて拍手した。

 敷島:「皆、今日はお疲れさま。よく頑張ったと思うよ。……人間のアイドルとかと違って、やっぱり疲れとかは見えないな。うん、さすがだ」
 鏡音リン:「んっふっふっふ〜。リン達はボーカロイドだYo?充電さえしてくれれば、24時間歌い続けるYo〜?」
 井辺:「頼もしい言葉です」
 平賀:「いや、まあ、設計上はそうなんだけど、それだと聴く人間側の方がもたないから」

 平賀のツッコミに、全員が笑った。

 敷島:「それじゃ、これから迎えの車に乗ってホテルに戻る。皆、充電をしっかりな」
 ボカロ達:「はい!」
 平賀:「端末には異常は出ていないが、小さな異常でも遠慮無く申し出てくれ。傷は小さいうちが直しやすい」
 ボカロ達:「ありがとうございます!」

 控室を出て関係者用駐車場へ向かう敷島達。

 鏡音リン:「他の事務所のコ達は、まだ出ないの?」
 井辺:「私達と違って、このドームに泊まり込むそうです」
 KAITO:「ステージの備品扱いとしてならタダですからね」
 MEIKO:「完全にモノ扱いか……」
 平賀:「分かってないな。ボーカロイドはただのロボットじゃない。『感情』を持つロイドだというのに」

 ボーカロイドの実力は敷島エージェンシー発足前のJARA財団時代から認められるようにはなったが、あいにくとまだ客寄せパンダ的な、あるいはマスコット的な存在としか受け入れられていない。
 ボーカロイドは人間のアイドルと違って、枕営業ができないというのがある。

[同日20:00.天候:晴 北海道札幌市中央区 京王プラザホテル札幌]

 ホテルの正面エントランスに2台のジャンボタクシーが止まる。

 運転手:「はい、ありがとうございました」
 エミリー:「ありがとうございました。明日もよろしくお願いします」

 スライドドアは自動だが、助手席のドアは手動だ。
 エミリーは運転手にチケットを渡した。
 ハッチを開けて、今日使った荷物を降ろす。

 記者:「敷島エージェンシーの敷島社長ですか?北海道スポーツの者ですが……」
 敷島:「新聞記者さんですか。いいですよ。少しだけなら」
 記者:「ありがとうございます。今日から3日間開催される北海道ボーカロイドフェスティバルの初日が終了したわけですが、手応えとしては如何ですか?」
 敷島:「実に好調なスタートが切れたと思います。優秀なボカロやイベントスタッフに恵まれたと感謝しています」

 リンがカメラマンのカメラに写ろうとしたのを、シンディが遮った。

 シンディ:「社長に対する取材なんだから、あなた達は先に部屋に戻ってなさい」
 リン:「ぶー……(#´з`)」

 いくつかの質問に答えた敷島だったが、熱が入った質問はこれだった。

 記者:「ボーカロイドの皆さんをまるで人間のアイドルのように扱う方針に、業界からの反発もあるということですが、それについてはどう思われますか?」
 敷島:「ただのロボットをそのように扱うことに関してなら、私も同意見です。しかし、ボーカロイドはただのロボットではありません。曲がりなりにも人間の姿をしているわけですし、言葉も喋るし字も書ける。“鉄腕アトム”における『ロボット人権保護法案』を是非とも可決してほしいくらいだと思っていますが、現時点ではまだ無理でしょう。しかし、彼女らを大事に扱うことくらいは別に法律で禁止されているわけではありません。私達は彼女らを、他の事務所より手厚く扱っているだけに過ぎません。別に、人間のアイドルを押し退けてだとかは考えていませんよ。ただ、少子化でどの業界も人手不足に悩んでいます。いずれ芸能界にも、その風が吹き荒ぶ時代がやってくる。そんな時、人間の代役を務められるボーカロイドがいてもいいでしょう。彼女らがどれだけ人間に代わって活躍できるのか、これは壮大な実験なんです。そして、それが成功しつつあると私は確信しています。いずれは反対派の人達にも理解してもらえるよう、事務所として努力するまでです」

[同日21:00.天候:晴 同ホテル客室内]

 敷島:「いやあ、参った参った。少しだけと言ってるのに、どんどん質問してくるんだもんなー」
 シンディ:「突撃インタビューなんて、そんなもんでしょ。それにしても、ミクとかに取材じゃなくて社長とは……」
 敷島:「まあ、事務所の代表者の俺がいるんだから、まず俺を通して……ということだったんだろうが……」
 シンディ:「いやいや。ボーカロイドというよりも、『ボーカロイドというロボットを操作してアイドル業界を叩き壊す男』として有名になってますよ」
 敷島:「全く。あれだけ多くのファンが来てるんだから、いい加減認めてくれよってな。俺のことなんかどうでもいいから」

 敷島はスーツの上着を脱いだ。
 それを脱いでシンディが受け取り、ハンガーに掛ける。

 敷島:「夕飯食いに行くか。ちょっと疲れたけど」
 シンディ:「それだったら、姉さんがルームサービス頼んでくれましたよ」
 敷島:「おっ、そうか。いやいや、ほんと俺の心が分かってくれるのはお前達くらいだな」
 シンディ:「いえ、そんな……」
 敷島:「なに頼んでくれたんだ?」
 シンディ:「えーと、ですねぇ……」

 と、その時、部屋のインターホンが鳴った。

 シンディ:「あっ、ちょうど来ましたよ」
 敷島:「そうか」

 シンディが部屋のドアを開ける。

 ホテルマン:「失礼します。ルームサービスをお持ち致しました」
 敷島:「メニューは何ですか?」
 ホテルマン:「ビーフカレーとサッポロビールでございます」
 敷島:「なるほど」

 室内のテーブルにカレーと瓶ビールとグラスが置かれた。
 グラスが2つ置かれたのは、シンディ用だと思われたのだろう。
 ホテルマンが退出すると、敷島は早速スプーンを手にした。
 シンディがビールをグラスに注ぐ。

 敷島:「もちろんこれでいいんだけど、エミリーはどうしてカレーを注文したのかな?」
 シンディ:「何でも社長は昔、『高級ホテルのカレーは美味い』と仰っていたそうですね?それを姉さんが覚えていたようです」
 敷島:「悪い。人間のメモリーは、適当に消去される仕組みになっててさぁ……。ツアーでこういうホテルに泊まるようになったの、つい最近のことだぞ?それを都合良く忘れるとは、俺も歳取ったかなぁ……?」
 シンディ:「南里研究所の時、姉さんが食事を作ってたでしょう?」
 敷島:「ああ。だから向こうでは安月給だったけど、飯代に困ったことは無かった」

 ある意味、賄い付きの仕事だったのが南里研究所だったわけだ。
 元々は南里に食事を作っていたエミリーだったが、ついでに敷島の分も作るようになったのが始まり。

 敷島:「あ!あの時か!いつだったかエミリーがカレーを作った時に、『高級ホテルで、そこのカレー食べたい』って言ったかもしれないな!」
 シンディ:「そうですね」
 敷島:「さすがはロイド。人間の何気ない言葉も、しっかり覚えてるんだな」
 シンディ:「そうですよ」

 敷島がグラスのビールを飲み干すと、すぐにシンディが瓶に入ったビールを注いだ。
 その動きなどは、人間と全く同じだ。

 敷島:「俺が生きている間に“鉄腕アトム”のロボット人権保護法ができるといいな。いや、俺が作っちまうか……」
 シンディ:「社長、酔っ払うにはまだ早いですよ。ビールもう一本頼みます?」
 敷島:「いや、いいよ。明日もあるから、そんなに無理はできん」

 初日が無事に終了した敷島達。
 2日目はまた違う催しが行われるようだが……。
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“Gynoid Multitype Sisters” 「北海道ボーカロイドフェスティバル」1日目

2017-06-10 12:32:52 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月3日13:00.天候:晴 北海道札幌市豊平区 札幌ドーム]

 定刻通りの13時、『北海道ボーカロイドフェスティバル』が開始された。
 これはメインイベントとしてはライブなのであるが、他にもボーカロイドとの触れ合いイベントも兼ねている為、このような名前になった。
 まずはイベントの中心である敷島エージェンシーのボーカロイド達からスタート。

 初音ミクの持ち歌である“千本桜”から始まった。
 持ち歌としてはミクなのだが、現在では他のボカロもカバーしている為、全員合唱も可能。

 敷島:「よし。出だしは好調だな」

 敷島と平賀は主催者の控室となっている部屋で、モニタを見ていた。

 敷島:「しかし、まさか伯父さんが来るなんて……」

 敷島がチラッと部屋の真ん中を見ると、シンディにお茶を出してもらっている敷島峰雄の姿があった。

 敷島:「わざわざ東京から。四季エンタープライズの有名タレント達が、今日は名古屋でライブやってるんじゃなかったでしたっけ?」
 峰雄:「ナゴヤドームの成功はほぼ100%だ。しかし、札幌ドームの成功率は未知数だぞ。だいたい、他の事務所にも声を掛けるというのは大きな賭けだな」
 敷島:「劣悪な取扱いをしている事務所もありますんでね、それの炙り出しも兼ねているんですよ」
 峰雄:「炙り出しって……」
 敷島:「まあ、見ててください。うちのボーカロイドが1番最強であることをお見せしますよ」
 峰雄:「何だか、変な機能が付いているらしいじゃないか。そういう魔法みたいものを使う気かね?」
 敷島:「そんなことしなくても大丈夫です。まあ、見ててください」

 と、そこへ、井辺から電話が掛かってきた。

 敷島:「あっ、ちょっと失礼」

 敷島が電話に出る。

 敷島:「おっ、井辺君。どうした?……ふんふん。それなら……」
 峰雄:「この、上からの映像はどうやって撮っているのですか?ドローン?確か、ドローンは禁止じゃ?」
 平賀:「井辺プロデューサーに勝手について来た妖精型が上空に飛んで、そこから撮影しているものです。ドローンは禁止でも、フェアリーは禁止じゃありません」
 峰雄:「まあ、確かに禁止のしようがありませんな。というか、そんなものまでDCJさんは造ったのですか?」
 平賀:「いや、DCではなく、KR団が造ったもので……」
 敷島:「……じゃあ、そういうことで」

 敷島は電話を切った。

[同日15:00.天候:晴 同ドーム内]

 初音ミク:「……ドドンパ♪ドドンパ♪思いのままに〜♪」
 ヲタ達:「はいはいはいはい!」

 鏡音リン:「……はっだっか〜になっちゃおっかな~♪」
 ヲタ達:「なっちゃえー!」

 萌:「うん、皆のコールアンドレスポンスも完璧だね〜」

 萌はパタパタと羽音を羽ばたかせて、会場内を飛行していた。
 ドーム内の別会場では、ライブ会場とは別に触れ合いイベントの所がある。

 MEIKO:「嫌だよモーニング♪夜明けが来なきゃ〜♪」

 ドームの外会場では、MEIKOがバージョン達のアコースティック演奏でミニライブを行っていた。
 外会場の方が、よりファン達との距離が近い。

 萌:「昔のテロロボットが、今ではアコースティックギターをボーカロイドの為に弾いています。何気にスペックは高いようです。普段はエミリーやシンディに足蹴にされる連中ですが……」

 萌は自分の目(カメラ)でライブの模様を中継し、たまには実況も行っている。

 萌:「弾き語りと言えば……」

 萌はまた別の会場に飛ぶ。

 KAITO:「時計塔の♪歯車の音♪それは彼女が生きている証♪」

 KAITOがかつてミュージカルで歌っていたものをここでも披露していた。
 この歌はハイテンポのピアノの伴奏とバイオリンの伴奏が特徴だ。
 まだキールが味方だった頃はキールがバイオリンを弾き、エミリーがピアノを弾いていたのだが、今ではピアノがエミリー、バイオリンがシンディということになった。

 KAITO:「……それが〜♪僕の〜♪役目〜♪」
 鏡音レン:「るりらっらっららら♪るりらっらっららら♪るりらっららら♪」

 コーラスで鏡音姉弟がいるのだが、今リンは別会場で歌っている為、レンだけがコーラス部分を歌う。
 人間なら舌を噛みそうなハイテンポだが、そこを難無く歌い切れるがボーカロイドの特長。

 萌:「人間では歌えないほどの高速と言えば……」

 初音ミク:「ボクは生まれそして気づく所詮ヒトの真似事だと知ってなおも歌い続くトワの命『ボーカロイド』たとえそれが既存曲をなぞるオモチャならば……」

 初音ミク持ち歌で代表曲の1つである“初音ミクの消失”。
 最初のセリフの部分が既に、人間では喋れないほどの超高速早口である。

 萌:「それをモニタで歌詞表示できるボクも高スペックでーす。井辺さん、見てるぅ?」

 しかし、通信機から返って来たのは敷島だった。

 敷島:「あいにくと井辺君はMEGAbyteの方を見てるよ。第3会場だ。ミクのレポが終わったら、そっちも見てやってくれ」
 萌:「はーい……」

 というより、既に発表されている曲なので、わざわざ萌が聞き取って歌詞表示する必要など無い。

 萌から送られてくるモニタを切り替える敷島。

 敷島:「東京決戦で使用した曲ですが、今のところ影響は無いみたいですね」
 平賀:「ええ。あくまでもあれは、旧式のバージョン3.0や試作型4.0を掃討する為のものです。最新の5.0には効かないでしょう」
 敷島:「北海道にもDCJさんの工場があるとは……」
 平賀:「本当に工場だけですよ。ただ、アリスの開発した5.0は試作型ですからね」
 敷島:「マリオとルイージ」
 平賀:「こっちは本当に量産機ですよ。ただ、量産型の方がデザイン的にウィリーのデザインしたヤツに似ているとは皮肉です」
 敷島:「アリスが試作機をマリオとルイージにアレンジし過ぎたんですよ。本来の、という意味ではあれでいいんです」

 敷島はモニタをMEIKOに切り替えた。
 MEIKOは相変わらずアコースティックバージョンばかりを歌っている。
 1番古い機種となってしまったMEIKOで、新規のファンが付きにくくなってしまった感があるが、それでも熱心な固定ファンが本州から数多く来てくれているという話は聞いている。

 萌:「こちら萌でーす!仰せの通り、MEGAbyteのライブ会場に来ました」
 敷島:「よし。映せ」
 萌:「ちょうど今、次の曲が始まるところですよ」
 敷島:「メタル系か?」

 Lily:「ようこそ♪Hells♪ありとあらゆる世界が♪全て繋がる無限の境界♪聞こえるかい?♪押し込まれる声♪まだ終わりじゃないよ♪最後はバッドエンド♪」

 平賀:「Lilyがセンターで歌っていますね」
 敷島:「Lilyはメタル系が得意なので、こうなります」
 平賀:「MEIKOのアコースティックとは、だいぶ違いますね」
 敷島:「だからいいんです。それぞれが個性を持ち、それを引き出してやる所は人間のタレントと同じです」
 平賀:「さすがです」
 峰雄:「どうやら、初日は成功しそうだな」
 敷島:「(あれ?まだいたの?)ええ、おかげ様で。この調子で3日間成功させてみせますよ」
 峰雄:「期待しているよ。それじゃ、私はこれで」

 峰雄の言う通り、初日は成功した。
 出だしは良かったのだが、2日目はどうなることか。
コメント (3)
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