[5月18日17:00.天候:晴 北海道紋別郡遠軽町 厚生病院]
病院内のテレビでは速報が流れていた。
〔「大坂正明容疑者、逮捕です!中核派のメンバーで逃走を続けていた大坂正明容疑者が今日逮捕されました!」「はい、道を開けて!」「危ないから下がって!」〕
井辺:「KR団とは何の関係も無いように思われましたが、少し関係があったようです。あのアジトから、『日本の極左ゲリラと連絡を云々』みたいな文書が見つかったそうですから。暗号化されていましたが、解読したら中核派のアジトに行き着いたそうです」
アリス:「そう。だけど、犠牲は大きかったわ……」
敷島の意識は未だに戻っていない。
アリス:「これじゃ死んでるのと同じじゃない!」
井辺:「奥様、それでは社長が……。社長は必ず回復されます。全社員、ボーカロイド達がそれを信じて活動していますから」
アリス:「そうね……」
井辺:「担当医の先生には、意識が回復したらすぐに連絡を入れてくれるようにお願いしてあります」
アリス:「何とか関東の病院に移送できないの?」
井辺:「意識さえ戻れば何とか……。しかし、今は難しそうです」
アリス:「…………」
[同日同時刻 天候:雨 東京都豊島区池袋 四季エンタープライズ]
敷島エージェンシーの親会社である四季エンタープライズのビルから、代表取締役の敷島峰雄が出て来た。
敷島の伯父でもある。
記者A:「敷島会長、敷島エージェンシーの敷島社長の活躍で中核派のメンバーが逮捕されましたが、何か一言お願いします」
敷島峰雄:「長年逃走を続けていた容疑者の逮捕に、身内の者が大きく貢献したということは、素直に喜ばしい限りであります」
記者B:「敷島孝夫社長の容態は如何なものでしょうか?」
敷島峰雄:「命に別状はありませんが、未だに意識が回復していない状態とのことです。現在は孝夫の妻や敷島エージェンシーの社員が定期的に見舞いに訪れており、是非とも暖かく見守って頂きたい所であります」
記者C:「敷島エージェンシーの運営の影響は如何ですか?ボーカロイドの活躍に影響が出ているという噂もありますが?」
敷島峰雄:「敷島エージェンシーは、四季エンタープライズを中心とした四季グループの完全子会社であります。名実ともに孝夫が責任者ではありますが、出資元の責任者として、私共で全力でサポートをしている所であります。ボーカロイド達には、何も心配せず、活動に専念するよう申し伝えてあります」
記者D:「KR団の元幹部が逮捕されたことと、中核派の容疑者が逮捕されたことで、そちら方面からの報復とかも考えられますが、対策は如何なものでしょうか?」
敷島峰雄:「今は警察が捜査している所でございますので、今は警察の捜査に協力するのみであると考えております。当面は契約先の警備会社に対し、警備員の増員や警戒強化を申し入れるに留まります。それが現状です」
記者E:「『美人過ぎるガイノイド』のロイド達の攻撃力強化とか、そういった予定はありますか?」
敷島峰雄:「それは私の関知するところではございません。孝夫や平賀太一教授の関知するところであります」
秘書A:「申し訳ありません!お時間ですので、質問はここまでにさせて頂きます!」
秘書B:「すいません、道を開けてください!ご協力お願いします!」
記者F:「ボーカロイドの増備の御予定は!?『美人過ぎるガイノイド』の秘書は増員されるのでしょうか!?」
あとは無言で役員車に乗り込む峰雄。
黒塗りセンチュリーの役員車が走り出した。
峰雄:「全く。孝夫のヤツ、目立ち過ぎだ」
秘書A:「ですが本当に容態が回復してないのは事実です。さっきの質問にはありませんでしたが、安楽死という案が主治医から出てくることも想定されます」
峰雄:「縁起でも無いこと言うな。敷島エージェンシーでそんなこと言ったら、生きては出れなくなるぞ」
秘書A:「も、申し訳ありません」
峰雄:「明日には、孝夫の部下が見舞いから戻るそうじゃないか。明日、豊洲に行って彼らを励ましてこよう。有楽町のコンサルタントに行った後、少し寄る時間あるだろう?」
秘書B:「そうですね」
峰雄:「最高顧問が逝去したのは偏に高齢によるものだから致し方無かったというのはあるが、しかし孝夫の場合は違う……」
[同日同時刻 天候:雨 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]
エミリーは修理が終わった後、単身で帰京した。
そして、いつもは無人の……時には四季エンタープライズから代理として訪れる役員が使用する社長室の掃除をしていた。
MEIKO:「随分、精が出るのね」
エミリー:「社長が……いつでも戻って来られても良いようにだ。きれいなお部屋で、何の憂いも無く業務に復帰して頂く為に」
MEIKO:「業務に復帰か……。無駄な努力になるかもよ?」
エミリー:「社長は必ずお元気になられる。必ず退院して、こちらに戻って来られる。MEIKO、2度と縁起でも無いこと言ったら……壊すぞ?」
エミリーは両目を赤くギラッと光らせてMEIKOを威嚇した。
だが、MEIKOは小さく溜め息をついてそれを流した。
MEIKO:「そうじゃないの。社長がお元気になられることは、私も信じてる。そういうことじゃないの」
エミリー:「じゃあ、何だ?」
MEIKO:「今日、テレビの収録に行ってたらね、テレビ局の記者さん達が言ってたの。もしかしたら、会社を長く空けていたことで、株主さん達から総スカン食らって、社長の椅子から降ろされるかもしれないって」
エミリー:「敷島エージェンシーは上場していないぞ?株主総会なんて……」
MEIKO:「でも、四季エンタープライズさんは上場してる。もし株主総会で、株主さんからそんな質問が来た時、向こうの社長や会長はいい回答ができるのかしら?『敷島孝夫は敷島エージェンシーに無くてはならない存在です』という回答だけで、株主さんが納得されるかしら?」
エミリー:「……!!」
エミリーはガクッと両手をついた。
そして、大粒の涙をポロポロと流した。
MEIKO:「ごめん。ごめんね……。そんなつもりじゃなかったの。ただ……」
MEIKOもしゃがんで、エミリーと肩を抱き合った。
MEIKO:「私も心配で心配でしょうがないってこと。テレビ局や雑誌社に行くと、そんな話をされるものだから……」
エミリー:「四季エンタープライズの株主総会は……」
MEIKO:「いつもだと来月下旬ね。6月の……二十何日ってとこ」
エミリー:「それまでに社長の意識が戻れば……」
MEIKO:「何とかなるかもね」
2人のガイノイドは雨粒の滴る窓に目をやった。
いつの間にか、敷島の存在は大きなものとなっていたようだ。
病院内のテレビでは速報が流れていた。
〔「大坂正明容疑者、逮捕です!中核派のメンバーで逃走を続けていた大坂正明容疑者が今日逮捕されました!」「はい、道を開けて!」「危ないから下がって!」〕
井辺:「KR団とは何の関係も無いように思われましたが、少し関係があったようです。あのアジトから、『日本の極左ゲリラと連絡を云々』みたいな文書が見つかったそうですから。暗号化されていましたが、解読したら中核派のアジトに行き着いたそうです」
アリス:「そう。だけど、犠牲は大きかったわ……」
敷島の意識は未だに戻っていない。
アリス:「これじゃ死んでるのと同じじゃない!」
井辺:「奥様、それでは社長が……。社長は必ず回復されます。全社員、ボーカロイド達がそれを信じて活動していますから」
アリス:「そうね……」
井辺:「担当医の先生には、意識が回復したらすぐに連絡を入れてくれるようにお願いしてあります」
アリス:「何とか関東の病院に移送できないの?」
井辺:「意識さえ戻れば何とか……。しかし、今は難しそうです」
アリス:「…………」
[同日同時刻 天候:雨 東京都豊島区池袋 四季エンタープライズ]
敷島エージェンシーの親会社である四季エンタープライズのビルから、代表取締役の敷島峰雄が出て来た。
敷島の伯父でもある。
記者A:「敷島会長、敷島エージェンシーの敷島社長の活躍で中核派のメンバーが逮捕されましたが、何か一言お願いします」
敷島峰雄:「長年逃走を続けていた容疑者の逮捕に、身内の者が大きく貢献したということは、素直に喜ばしい限りであります」
記者B:「敷島孝夫社長の容態は如何なものでしょうか?」
敷島峰雄:「命に別状はありませんが、未だに意識が回復していない状態とのことです。現在は孝夫の妻や敷島エージェンシーの社員が定期的に見舞いに訪れており、是非とも暖かく見守って頂きたい所であります」
記者C:「敷島エージェンシーの運営の影響は如何ですか?ボーカロイドの活躍に影響が出ているという噂もありますが?」
敷島峰雄:「敷島エージェンシーは、四季エンタープライズを中心とした四季グループの完全子会社であります。名実ともに孝夫が責任者ではありますが、出資元の責任者として、私共で全力でサポートをしている所であります。ボーカロイド達には、何も心配せず、活動に専念するよう申し伝えてあります」
記者D:「KR団の元幹部が逮捕されたことと、中核派の容疑者が逮捕されたことで、そちら方面からの報復とかも考えられますが、対策は如何なものでしょうか?」
敷島峰雄:「今は警察が捜査している所でございますので、今は警察の捜査に協力するのみであると考えております。当面は契約先の警備会社に対し、警備員の増員や警戒強化を申し入れるに留まります。それが現状です」
記者E:「『美人過ぎるガイノイド』のロイド達の攻撃力強化とか、そういった予定はありますか?」
敷島峰雄:「それは私の関知するところではございません。孝夫や平賀太一教授の関知するところであります」
秘書A:「申し訳ありません!お時間ですので、質問はここまでにさせて頂きます!」
秘書B:「すいません、道を開けてください!ご協力お願いします!」
記者F:「ボーカロイドの増備の御予定は!?『美人過ぎるガイノイド』の秘書は増員されるのでしょうか!?」
あとは無言で役員車に乗り込む峰雄。
黒塗りセンチュリーの役員車が走り出した。
峰雄:「全く。孝夫のヤツ、目立ち過ぎだ」
秘書A:「ですが本当に容態が回復してないのは事実です。さっきの質問にはありませんでしたが、安楽死という案が主治医から出てくることも想定されます」
峰雄:「縁起でも無いこと言うな。敷島エージェンシーでそんなこと言ったら、生きては出れなくなるぞ」
秘書A:「も、申し訳ありません」
峰雄:「明日には、孝夫の部下が見舞いから戻るそうじゃないか。明日、豊洲に行って彼らを励ましてこよう。有楽町のコンサルタントに行った後、少し寄る時間あるだろう?」
秘書B:「そうですね」
峰雄:「最高顧問が逝去したのは偏に高齢によるものだから致し方無かったというのはあるが、しかし孝夫の場合は違う……」
[同日同時刻 天候:雨 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]
エミリーは修理が終わった後、単身で帰京した。
そして、いつもは無人の……時には四季エンタープライズから代理として訪れる役員が使用する社長室の掃除をしていた。
MEIKO:「随分、精が出るのね」
エミリー:「社長が……いつでも戻って来られても良いようにだ。きれいなお部屋で、何の憂いも無く業務に復帰して頂く為に」
MEIKO:「業務に復帰か……。無駄な努力になるかもよ?」
エミリー:「社長は必ずお元気になられる。必ず退院して、こちらに戻って来られる。MEIKO、2度と縁起でも無いこと言ったら……壊すぞ?」
エミリーは両目を赤くギラッと光らせてMEIKOを威嚇した。
だが、MEIKOは小さく溜め息をついてそれを流した。
MEIKO:「そうじゃないの。社長がお元気になられることは、私も信じてる。そういうことじゃないの」
エミリー:「じゃあ、何だ?」
MEIKO:「今日、テレビの収録に行ってたらね、テレビ局の記者さん達が言ってたの。もしかしたら、会社を長く空けていたことで、株主さん達から総スカン食らって、社長の椅子から降ろされるかもしれないって」
エミリー:「敷島エージェンシーは上場していないぞ?株主総会なんて……」
MEIKO:「でも、四季エンタープライズさんは上場してる。もし株主総会で、株主さんからそんな質問が来た時、向こうの社長や会長はいい回答ができるのかしら?『敷島孝夫は敷島エージェンシーに無くてはならない存在です』という回答だけで、株主さんが納得されるかしら?」
エミリー:「……!!」
エミリーはガクッと両手をついた。
そして、大粒の涙をポロポロと流した。
MEIKO:「ごめん。ごめんね……。そんなつもりじゃなかったの。ただ……」
MEIKOもしゃがんで、エミリーと肩を抱き合った。
MEIKO:「私も心配で心配でしょうがないってこと。テレビ局や雑誌社に行くと、そんな話をされるものだから……」
エミリー:「四季エンタープライズの株主総会は……」
MEIKO:「いつもだと来月下旬ね。6月の……二十何日ってとこ」
エミリー:「それまでに社長の意識が戻れば……」
MEIKO:「何とかなるかもね」
2人のガイノイドは雨粒の滴る窓に目をやった。
いつの間にか、敷島の存在は大きなものとなっていたようだ。