報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「地下水脈」

2017-06-24 20:17:34 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月6日17:00.天候:不明 廃洋館地下]

 敷島:「う……」

 敷島が目を覚ました時、彼はずぶ濡れだった。
 耳には川のせせらぎが聞こえる。
 もちろんそこは川ではなく、地下水脈だった。
 川幅(という言葉が適切かどうかは不明だが)の広い所であり、それで流れが緩やかなのだ。

 敷島:「ブボッ!ブホッ!ゲホッ!」

 水を吐き出した。
 落ちた時に水脈に飛び込んだ形になり、水を飲んでしまったらしい。

 敷島:「く、くそっ……!ここは……?」
 ???:「気がつきましたか?」
 敷島:「誰だ!?」

 その時、真っ暗な地下に一筋の明かりが灯った。
 まるでそれはロイドのサーチライトのようだった。

 ???:「私は……バージョン・シリーズの者です」

 バージョン・シリーズのロボットだと名乗った者は、水脈の淀みにサーチライトを反射させた。
 微かに反射した光が彼を照らす。
 滑らかな口調といい、光に照らされたボディはスマートな感じといい、最新型の5.0であろうか。
 それにしても、どうして5.0がここに?
 救助でも来たのだろうか?

 敷島:「バージョン5.0か?……いや、違うな。その腕……」

 バージョン・シリーズには右腕にシリアルナンバーがペイントされているのだが、見ると4.0-1333と書かれていた。
 1333号機?バージョン4.0はそんなに大量生産されたのだろうか?
 いや、違う。
 彼は本来、333号機である。
 あることをされた為に、識別として1000番台とされたのだ(……って、鉄道車両かよ!)。
 アリスから聞いた話として、4.0の5.0改造機が存在するという。
 これは鉄道車両で言えば、モハ72系に103系のボディを付けて運用させたようなもの。
 最近の事例では存在しないが、4.0が余りにもテロ用途というイメージが強過ぎた為、なるべくユーザー達はそのイメージを払拭するべく、まだ稼働時期の短い個体にあっては、4.0から5.0に改造するというパターンが発生した。
 その為、プロパーとしての機種を0番台、4.0からの改造機を1000番台にしたとのことである。

 333号機:「私は元4.0でした。この屋敷での騒ぎを聞きつけ、駆け付けた次第です」
 敷島:「ということは、救助が来てるのか?」
 333号機:「いいえ。たまたま近くにいた私が来ただけです」
 敷島:「何だそりゃ……」
 333号機:「まずはここから脱出しませんと。お怪我は無いようですし。さすがですね」
 敷島:「こう見えても『不死身の敷島』と呼ばれてるからな。……あっ、そうだ!ミクだ!ミクはいないのか!?」
 333:「ミクですか?」
 敷島:「ボーカロイドの初音ミクだよ!あいつも一緒に落ちたんだ!」
 333:「私が駆け付けた時、最初に発見したのはあなたです」
 敷島:「まさか、俺よりもずっと先に流されたのか?……そうだ。5.0なら、スキャンできるよな?水脈をスキャンして、明らかにロイドが沈んでいるとか見つけたら教えてくれ」
 333:「分かりました」

 改造5.0の後ろを付いて行く敷島。

 敷島:「なあ」
 333:「何ですか?」
 敷島:「何で俺を助けてくれるんだ?」
 333:「昔、エミリー様に助けて頂いたことがあるんです。エミリー様はお強い方ですから、今さら私の支援など必要ありません。ですが、そのエミリー様が付き従っている方があなただと伺い、それならあなたを助けに行けばエミリー様もお喜び頂けるのではないかと」
 敷島:「今さらながらマルチタイプのカリスマ性、凄ェな。昔って、4.0だった頃か?」
 333:「そうです。実は、あなたのことも見てはいました」
 敷島:「なにっ!?どこで会った?」
 333:「東京都千代田区大手町です」
 敷島:「っ!?ま、まさか……?」
 333:「無人のバスでもって、3.0の軍団に立ち向かわれた時ですよ」
 敷島:「“東京決戦”か!」
 333:「あの時、4.0の私達は最新機種として旧型の3.0達の隊長役を任されておりました。私は後衛部隊として、後からやってきたエミリー様と対峙することになったのです」
 敷島:「壊されなかったのか?」
 333:「あっという間でした。一刻も早くあなたと合流したがっていたエミリー様は、私の部下の3.0達を瞬殺すると、すぐに立ち去られました。壊されると思っていたのに、命を助けてくれたのです」
 敷島:「そ、そうだったのか。それは良かったな。(ザコ過ぎて相手にしなかっただけかもなァ……)」

 その後、最終決戦の舞台となった超高層ビルは崩壊したが、屋外に待避していた個体達は巻き込まれずに済んでいる。
 この333号機も含めた個体達は、主人たるシンディを失った為、全機が稼働停止に追い込まれた。
 333号機は保管されていたが、個人に買い取られ、北海道にて農作業ロボットとしての用途に変更されたとのことだ。
 たまたまこの近くに農場があり、そこで稼働していたらしい。

 333:「! 反応あり!あそこにロイドの反応があります!」
 敷島:「何だって!?」

 それはまた川幅が広くなって、流れが緩やかになっている所だった。

 敷島:「回収してくれ!」
 333:「分かりました」

 333号機、ザブザブと水の中に入る。
 確かによく見れば、見た目はスマートで素早さもグンとアップしたような感じには見受けられるが、細部の動きに関しては従来の4.0のように緩慢性が見られる。
 そして、ザブンと潜り……。

 333:「こちらでよろしいですか?」

 見事、ミクを回収してきた。

 敷島:「ミク、しっかりしろ!ミク!」
 333:「……安全装置の作動により、緊急にシャットダウンされたようです」
 敷島:「何だって?」
 333:「恐らく、落下の衝撃で、安全装置が働いたものと思われます」
 敷島:「見た目には、そんなに損傷が大きいようには見られないな。修理すれば直るレベルか。悪いけど、運んでくれないか。取りあえず、安全な所まで」
 333:「分かりました」

 333はミクを背負った。

 敷島:「ミク……ごめんな……悪かったな……」

 敷島が声を詰まらせたのを見て、333は両目にクエスチョンマークを浮かべた。

 333:「どうかしましたか?」
 敷島:「いや、悪い。その……ミクが無事そうで嬉しいのと、申し訳無いやらで、ついな……」
 333:「キュルキュルキュルキュル……」

 333号機は敷島の真意を探ろうとしたが、どうしてもエラーになってしまった。

 333:「シンディ様は、『虫ケラの如き、人間のことなど知る必要無い』と仰っていました」
 敷島:「あいつ、陰でそんなこと言ってんのか?……あ、なに?前期型の時?それなら……」
 333:「エミリー様は、『お前達のAIでは処理し切れず、爆発するぞ』と仰っていました」
 敷島:「エミリーも冷たいヤツだな……。いや、そうかもしれないけど」
 333:「私はどうしてあなたがロイドにそのような気持ちを持ったのか、全く計算できませんでした」
 敷島:「それだけミクを大事にしてきたつもりってことさ。俺なりにな。デビューしてから今までの付き合いからすれば、親子以上の絆だよ」
 333:「キュルキュルキュルキュルキュルキュル……」
 敷島:「それより出口はまだか?」
 333:「あと48.54メートルです。40.04メートル先に、右カーブがありまして、その先に……」

 ズシン……!

 敷島:「な、何だ?」

 突然、頭上で大きな振動が発生した。

 333:「エミリー様……!エミリー様が……!」
 敷島:「お、おい、何だ?エミリーが何だって!?」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
 ズドーン!

 敷島:「お、おい!何かヤバくないか?」
 333:「急ぎましょう。こっちです」

 振動と更に衝撃が激しくなり、落盤の危険性が増す中、敷島達は洞窟の中を進んだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする