[5月4日17:00.天候:曇 北海道札幌市豊平区 札幌ドーム]
イベント2日目もそろそろ終わりに近づこうとした時、会場はまだまだ熱気に包まれていた。
MEIKO:「はいはーい!北都酒蔵の名酒“大吟醸 竜殺し”ですよー!」
MEIKOはシンボルカラーの赤いバドスーツを着て、CM契約している酒造メーカーのキャンペーンをやっている。
MEIKO:「これから暑くなりますからね、冷や酒にして頂くと美味しいですよ。これに含まれているエタノールの味が、ボーカロイドの私でもたまりません」
鏡音リン:「MEIKOりん、エタノールに味は無いYo〜」
MEIKO:「そ、そうだったかしら?」
くすくすと笑いが起こる。
鏡音リン:「ほんとだYo!ウソだと思うなら、リンが味見してみるYo〜!」
MEIKO:「あんたまだ未成年でしょ!」
ドッと笑いが起きた。
鏡音リン:「今ならこのイベント限定、一升瓶が200本!全てのラベルにMEIKOりんのサイン付き!」
ファン達:「おお〜!」
MEIKO:「限定10本、抽選でスーパー大吟醸にはリンのサインも入ってまーす!」
鏡音リン:「ていうか、今サインしちゃおっと!」
ポテンヒット:「ヒック!……スーパー大吟醸なんてもん、フツー無ェだろうがよ〜、ヒック!インチキ商売してんじゃねぇよ、ヒック!……って、うおっ!?」
勢い良く列を作るファン達に弾き飛ばされるポテンヒット氏。
ポテンヒット:「雲羽よぉ〜!後でよォ〜!出演料たんまりもらうからなぁ、ああっ!?ヒック!」
ポテンヒットさん、(勝手に)友情出演ありがとうございました。
出演料は大宮公園駅前の“庄や”でオナシャス!
巡音ルカ:「円尾坂(えんびざか)の片隅にある〜♪仕立て屋の若い女主人〜♪気立ての良さと確かな腕で〜♪近所でも評判の娘♪」
舞台公演“円尾坂の仕立て屋”のテーマソングを歌うルカ。
テーマソングを歌うだけに、その舞台の主役に抜擢された。
江戸時代の日本が舞台なだけに、赤い着物に緑色の帯、黄色いかんざしという舞台衣装を着てのライブだ。
この舞台のテーマは、スバリ『ヤンデレ』なのであるが、ストーリー性の高い歌詞が進む度に話がどんどんあらぬ方向へ向かって行くのが特徴である。
最初は普通に微笑を浮かべて歌っているルカも、歌詞が3番、4番と行く度に笑顔に歪みが増し、更に目に光が無くなるというヤンデレの顔に変わって行く。
そして最後のパートは、何食わぬ顔に戻って歌い上げるというものだった。
その間、主人公たる女性(演:巡音ルカ)は一家惨殺事件の犯人になっているのだが。
ファンA:「いやあ、ルカさんの歌いながらの演技、パないっス」
ファンB:「マジでヤンデレキャラっスね〜」
ファンC:「『その女は誰!?』という部分で、ギラリと両目が赤く光る所が怖かったっス」
ボーカロイドにも感情表現の為、目が光るという機能が付いている。
今ではだいぶ人間と同じ豊かな表情をするようになった為、無用の機能になりつつあるが、未だに取り外しはされていない。
舞台公演は、そんなボーカロイドの機能に着目したものが多い。
改造さえすれば、ギロチンで本当に首を落としても平気な所とか。
さて、敷島エージェンシーのボーカロイド達が2日目も盛り上げている最中のことだった。
関係者用のバックヤードで、座り込むライデンの姿があった。
このイベントに参加した別の芸能プロダクション所属で、スリリングな空中ブランコ技を得意とするアンドロイドである。
その芸能プロのオーナーがやってくる。
オーナー:「ライデン、こんな所にいたのか。何をやってるんだ?お客さん達が首を長くして待ってるぞ?」
ライデン:「オーナー、何か調子悪いんですよ。今年に入ってから、まだオーバーホールを1度も受けてない……」
オーナー:「このイベントが終わるまで我慢しろ。それにな、今日はアメリカのシカゴから、カポネ商会のカポネ社長が来られてるんだ。シカゴじゃ有名な興行師だぞ。このイベントでいい所を見せれば、シカゴで海外公演ができるんだ。分かるか?」
ライデン:「分かったよ、オーナー」
ライデンは重い腰を上げた。
〔「皆様、大変お待たせ致しました!本日のイベントのトリを務めさせて頂きまするは、ベータ・プロダクションが誇るエンターテイナーロイド、ミスター・ライデンが披露させて頂く『電極輪潜り』です!空中ブランコと緻密なタイミングを計算した……」〕
平賀:「よし、自分の出番が終わった者から点検を始めるぞ。控室に戻れ」
初音ミク:「はい」
毎回、公演が終わる度に整備をしてもらえることを知った、他の事務所のボーカロイドはそれだけで驚いたという。
平賀:「6月に入ったら、まずKAITOからオーバーホールな?」
KAITO:「はい。3ヶ月に1回もしてもらえるなんて、ありがたいです」
平賀:「敷島さんが、『鉄道車両の交番検査は3ヶ月に1回だ』なんて言い出したもんだからね」
KAITO:「都議会議員の勝又先生が、『都営地下鉄の車両は3ヶ月に一回、部品をバラして検査している』と仰ったのが始まりだと伺いましたが……」
MEIKO:「アタシ達ゃ、電車と同じかい」
だが、他事務所のボカロ達からは、何でもいいから高頻度で高レベルの検査をしてもらえることが羨ましいとのことだ。
シンディ:「ん?」
シンディはメイン会場の警備の為、ライデンの空中ブランコの近くにいた。
ライデンの胸のモニタを自分の目(カメラ)でズームしてスキャンしてみると、明らかに精度が落ちているのが分かった。
シンディ:「えっ!?あんな状態で飛ぶの!?」
敷島:「どうした、シンディ?」
シンディ:「あいつのコンピューター、故障してるよ?それでも飛ぶの?」
敷島:「何だって!?……あ、でも、あの事務所のことだから、何か狙ってるかもしれないし……」
シンディ:「そ、そう?」
ライデンは空中ブランコに足を掛け、勢い良く弾みを付けて、高圧電流の鉄輪に向かって飛んだ。
シンディ:「やっぱり!」
ライデンは鉄輪を潜ることに失敗した。
そればかりか、予想外の事故に鉄輪はライデンごと大爆発!
シンディ:「まずい!」
鉄輪やライデンの爆発した破片がピッチ内に散乱した。
幸い、観客席にまで部品が飛んで来ることは無かったが、ショートした為にドーム内が停電を起こしたほどである。
敷島:「くそっ!だから言わんこっちゃない!」
シンディ:「社長、取りあえず控室に……」
シンディは右目のサーチライトを点灯させて、敷島を誘導した。
尚、この事故を受けて、ベータ・プロダクションのアメリカ公演は現地興行会社からの契約取り消しにより、白紙になってしまったとのことである。
イベント2日目もそろそろ終わりに近づこうとした時、会場はまだまだ熱気に包まれていた。
MEIKO:「はいはーい!北都酒蔵の名酒“大吟醸 竜殺し”ですよー!」
MEIKOはシンボルカラーの赤いバドスーツを着て、CM契約している酒造メーカーのキャンペーンをやっている。
MEIKO:「これから暑くなりますからね、冷や酒にして頂くと美味しいですよ。これに含まれているエタノールの味が、ボーカロイドの私でもたまりません」
鏡音リン:「MEIKOりん、エタノールに味は無いYo〜」
MEIKO:「そ、そうだったかしら?」
くすくすと笑いが起こる。
鏡音リン:「ほんとだYo!ウソだと思うなら、リンが味見してみるYo〜!」
MEIKO:「あんたまだ未成年でしょ!」
ドッと笑いが起きた。
鏡音リン:「今ならこのイベント限定、一升瓶が200本!全てのラベルにMEIKOりんのサイン付き!」
ファン達:「おお〜!」
MEIKO:「限定10本、抽選でスーパー大吟醸にはリンのサインも入ってまーす!」
鏡音リン:「ていうか、今サインしちゃおっと!」
ポテンヒット:「ヒック!……スーパー大吟醸なんてもん、フツー無ェだろうがよ〜、ヒック!インチキ商売してんじゃねぇよ、ヒック!……って、うおっ!?」
勢い良く列を作るファン達に弾き飛ばされるポテンヒット氏。
ポテンヒット:「雲羽よぉ〜!後でよォ〜!出演料たんまりもらうからなぁ、ああっ!?ヒック!」
ポテンヒットさん、(勝手に)友情出演ありがとうございました。
出演料は大宮公園駅前の“庄や”でオナシャス!
巡音ルカ:「円尾坂(えんびざか)の片隅にある〜♪仕立て屋の若い女主人〜♪気立ての良さと確かな腕で〜♪近所でも評判の娘♪」
舞台公演“円尾坂の仕立て屋”のテーマソングを歌うルカ。
テーマソングを歌うだけに、その舞台の主役に抜擢された。
江戸時代の日本が舞台なだけに、赤い着物に緑色の帯、黄色いかんざしという舞台衣装を着てのライブだ。
この舞台のテーマは、スバリ『ヤンデレ』なのであるが、ストーリー性の高い歌詞が進む度に話がどんどんあらぬ方向へ向かって行くのが特徴である。
最初は普通に微笑を浮かべて歌っているルカも、歌詞が3番、4番と行く度に笑顔に歪みが増し、更に目に光が無くなるというヤンデレの顔に変わって行く。
そして最後のパートは、何食わぬ顔に戻って歌い上げるというものだった。
その間、主人公たる女性(演:巡音ルカ)は一家惨殺事件の犯人になっているのだが。
ファンA:「いやあ、ルカさんの歌いながらの演技、パないっス」
ファンB:「マジでヤンデレキャラっスね〜」
ファンC:「『その女は誰!?』という部分で、ギラリと両目が赤く光る所が怖かったっス」
ボーカロイドにも感情表現の為、目が光るという機能が付いている。
今ではだいぶ人間と同じ豊かな表情をするようになった為、無用の機能になりつつあるが、未だに取り外しはされていない。
舞台公演は、そんなボーカロイドの機能に着目したものが多い。
改造さえすれば、ギロチンで本当に首を落としても平気な所とか。
さて、敷島エージェンシーのボーカロイド達が2日目も盛り上げている最中のことだった。
関係者用のバックヤードで、座り込むライデンの姿があった。
このイベントに参加した別の芸能プロダクション所属で、スリリングな空中ブランコ技を得意とするアンドロイドである。
その芸能プロのオーナーがやってくる。
オーナー:「ライデン、こんな所にいたのか。何をやってるんだ?お客さん達が首を長くして待ってるぞ?」
ライデン:「オーナー、何か調子悪いんですよ。今年に入ってから、まだオーバーホールを1度も受けてない……」
オーナー:「このイベントが終わるまで我慢しろ。それにな、今日はアメリカのシカゴから、カポネ商会のカポネ社長が来られてるんだ。シカゴじゃ有名な興行師だぞ。このイベントでいい所を見せれば、シカゴで海外公演ができるんだ。分かるか?」
ライデン:「分かったよ、オーナー」
ライデンは重い腰を上げた。
〔「皆様、大変お待たせ致しました!本日のイベントのトリを務めさせて頂きまするは、ベータ・プロダクションが誇るエンターテイナーロイド、ミスター・ライデンが披露させて頂く『電極輪潜り』です!空中ブランコと緻密なタイミングを計算した……」〕
平賀:「よし、自分の出番が終わった者から点検を始めるぞ。控室に戻れ」
初音ミク:「はい」
毎回、公演が終わる度に整備をしてもらえることを知った、他の事務所のボーカロイドはそれだけで驚いたという。
平賀:「6月に入ったら、まずKAITOからオーバーホールな?」
KAITO:「はい。3ヶ月に1回もしてもらえるなんて、ありがたいです」
平賀:「敷島さんが、『鉄道車両の交番検査は3ヶ月に1回だ』なんて言い出したもんだからね」
KAITO:「都議会議員の勝又先生が、『都営地下鉄の車両は3ヶ月に一回、部品をバラして検査している』と仰ったのが始まりだと伺いましたが……」
MEIKO:「アタシ達ゃ、電車と同じかい」
だが、他事務所のボカロ達からは、何でもいいから高頻度で高レベルの検査をしてもらえることが羨ましいとのことだ。
シンディ:「ん?」
シンディはメイン会場の警備の為、ライデンの空中ブランコの近くにいた。
ライデンの胸のモニタを自分の目(カメラ)でズームしてスキャンしてみると、明らかに精度が落ちているのが分かった。
シンディ:「えっ!?あんな状態で飛ぶの!?」
敷島:「どうした、シンディ?」
シンディ:「あいつのコンピューター、故障してるよ?それでも飛ぶの?」
敷島:「何だって!?……あ、でも、あの事務所のことだから、何か狙ってるかもしれないし……」
シンディ:「そ、そう?」
ライデンは空中ブランコに足を掛け、勢い良く弾みを付けて、高圧電流の鉄輪に向かって飛んだ。
シンディ:「やっぱり!」
ライデンは鉄輪を潜ることに失敗した。
そればかりか、予想外の事故に鉄輪はライデンごと大爆発!
シンディ:「まずい!」
鉄輪やライデンの爆発した破片がピッチ内に散乱した。
幸い、観客席にまで部品が飛んで来ることは無かったが、ショートした為にドーム内が停電を起こしたほどである。
敷島:「くそっ!だから言わんこっちゃない!」
シンディ:「社長、取りあえず控室に……」
シンディは右目のサーチライトを点灯させて、敷島を誘導した。
尚、この事故を受けて、ベータ・プロダクションのアメリカ公演は現地興行会社からの契約取り消しにより、白紙になってしまったとのことである。